表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくの異世界ですが全力で帰らせて頂きます  作者: ヨシ
第四章   不滅の記憶
101/163

第百話    鬼の姫は斯くありき

 「いやー、えらいすんまへんあなー、うちの姉が失礼しましたー」


 「いや、そんなんじゃ済まされないって」


 全く反省の色が見えないコルバスの謝罪に、和也は棘を含ませて言った。


 ここはガオエン家屋敷の一室。

 二十畳程の広さの一室には、高価そうな家具が並んでいる。

 床には滑らかな木目。その上に磨き抜かれた深い鳶色の机と椅子。


 和也達はその椅子に座り、話し合いを設けていた。

 和也とライサンの対面に、コルバスとその姉が座っている。


 天凱の間で起きた妖精の塔の破壊。

 それを実行したのが、この女だという。


 天凱の間の騒ぎを聞きつけた和也は、現場へ急行した。

 和也は目を疑った。妖精の塔が粉々に砕けていたのだ。


 これは只事ではない。

 辺りの様子を見回すと、ライサンと女の姿があった。

 ライサンに近付き、簡単に事情を聴いた。

 この女が実行犯であると和也には信じることが出来なかったが、ライサンがそう言うのだから間違いがない。

 混乱する和也の背後から声が聞こえた。


 あちゃー、えらいこっちゃで。


 と、訛りのある男の声が聞こえた。

 後ろを振り返るとコルバスが居た。

 コルバスは言った。その女は自分の姉だと。

 姉は思い込みが激しいところがあるが、塔を破壊したのはネフェリオの命令だと言う。


 そこで和也は意識を現実に戻した。

 そして、再度コルバスに問う。


 「それにしても、本当なのか?」


 「ほんまやで。僕も驚いたけどな。なあ、姉ちゃん?」


 コルバスに話しかけられ、女は怖ず怖ずと口を開いた。


 「え、ええ。仕事だったの。しょうがないよ」


 女の表情は暗い。視線は机の上に向けられている。まったくと言っていいほど目が合わない。

 この女の名はドラコ。コルバス曰く、称号は『竜』。


 なんだか見た目とのギャプがすごいな、この人。


 ドラコの様子を観察しながら和也はそう感じた。

 見た目は仕事の出来るキャリアウーマンと言った感じなのに、表情は暗く、発する声は弱々しい。自信の無さが言動に滲み出ている。


 竜とは、一体……?


 竜のように強い印象はまったく受けない。

 称号には意味がないらしいので、結びつかないのは無理もない話か。


 ライサンが口を開いた。


 「しかし、あの妖精の塔が諸悪の根源だったとはな……信じられん」


 「僕も正直驚いたで。妖精の塔自体がアーティファクトで、帝国の奴らがそのアーティファクトを悪用していたなんてなあ」


 ネフェリオが帝国に潜入して掴んだ情報。

 それは、妖精の塔の真の姿。


 コルバスの話を聞いて、ライサンが独り言のように呟いた。


 「人の心を侵すアーティファクト。それが、妖精の塔の真実か」


 「せや、帝国はアネモス香と妖精の塔、この二つを上手く利用して周辺国の弱体化を図っとった」


 帝国は、まず最初にアネモス香を周辺国に大量にばら撒いた。

 アネモス香には強い副作用がある。それに気付いた周辺国は輸入を中止し、厳しく取り締まったが、完全に流入を遮断することには至らず。

 しかし、その実、流入を遮断することは出来ていたのだ。

 アネモス香の副作用は強い幻覚作用と依存性にあるが、妖精の塔を悪用すれば似たような症状を引き起こすことが出来る。

 つまり帝国は、初めの内はアネモス香をばら撒き、それが規制されると次は妖精の塔を利用し、周辺国に害をばら撒いていたのだ。


 帝国にまんまと出し抜かれた訳である。


 やってくれたな……。


 苛立ちを抑えて和也が言う。


 「それで妖精の塔は、精神的に弱い人や、弱っている人の心を侵していたと……」

 

 「せや。心の強い奴や耐性を持っとる奴には効きづらいようやな」


 和也はコルバスの方を見て言った。


 「そして、妖精の塔を操作して、周辺国を混乱に陥れたのが―――」


 コルバスが和也の言葉を引き継いだ。


 「ヴィクシャルン帝国特殊部隊、『破壊と再生の使者(チェルノボーグ)』所属。コードネーム、ミラージュ。そいつの仕業ってのがネフェリオ様の見立てや」


 ミラージュ……。

 キメラと共に、エルフの郷ダンジョンで和也達の前に立ち塞がった帝国の間者。


 キメラの自爆により、ミラージュの姿を見失った。

 爆発に巻き込まれ死んだか、どさくさに紛れて逃げおおせたか。

 分からないが、妖精の塔が破壊された今、目先の問題は解消された。


 そこで、ふと疑問が湧き、それを口にする。

 

 「確か、妖精の塔はエルフの郷から贈呈されたものだったよな? ということは、エルフ側にも帝国の協力者がいるんだろうか?」


 「うーん、それは分からへんなあ。妖精の塔が建てられたのは百年以上前や。その時から帝国の工作が入っていたんかは、よう分からん」


 そこでコルバスは「うー」と唸って伸びをした。


 「それにしても、この屋敷ごっついなあ」


 そう言って立ち上がるコルバス。

 和也がコルバスに訊いた。


 「おい、何処に行く?」

 

 「あー、ちょっと探索に行こかな。こんな機会めったにないことやし。ああ、カズヤはんも一緒にどうや?」


 「はあ? まだ話は終わってないぞ」


 「まあまあ、そんな固いこと言いなや」


 和也はコルバスに腕を引っ張られた。


 「おい、ちょっと、待てって!」

 

 抵抗するが、それ以上に強い力で引っ張られる。


 それを見て、ドラコが不安げにコルバスに言う。


 「あ、あの……コル君」


 「あー、姉ちゃんはごゆっくり。心配せんでもすぐ戻るでー」


 「ちょ、ちょっ、引っ張るなって! コルバス!」


 和也は半ば引きずられる形で部屋から連れ出された。

 そのまま引っ張られ、幅の広い廊下へ。


 「おい! どういうつもりだ!」


 コルバスが長い溜息を吐いた。


 「鈍いなー、カズヤはん」


 「はあ?」


 「分からへんか? あの二人や」


 「あの二人? ライサンとドラコのことか?」


 「せや。あの二人、なーんか怪しいで」


 「怪しい?」


 「お互いのことをみょーに意識しとる」


 「え? そうか?」


 「僕には分かる。二人っきりにさせたら、なんかオモロイことが起こる。そんな気がするでえ」


 コルバスはそう言って、廊下を進みだした。


 「どこへ行く?」


 「あー、ちょっと厠や。とにかく、二人っきりにさせとこや、な?」


 「……分かったよ」


 「ほな、よろしくー」


 そう軽く返事をした後、踵を返す。

 そのまま歩き出し、和也の前から消えてしまった。

 

 「……ったく」


 相変わらず何を考えているのか読めない奴……。

 というか、ネフェリオの使徒はどいつもこいつも癖が強すぎる。

 どういう教育してるんだ、ネフェリオの奴め。


 心の中で愚痴るが、急に馬鹿らしくなり考えることを止めた。

 そんな和也の背中に、声が掛けられた。


 「カズヤ」


 振り返るとカヤがそこに居た。


 「カヤ……そっちは大丈夫か?」


 カヤは大きな溜息をついて言う。


 「父様達は事後処理で大慌てよ」


 妖精の塔が粉々に破壊され、この国に不安と混乱が広がっている。

 大王を筆頭に、この国の上層部はその対処に追われているようだ。

 

 当然、予定されていた宴は中止だ。


 「そ、そうだよな……」


 「まったく……妖精の塔が悪ってのは分かったけど、それならそうと、事前に説明して欲しいものだわ」


 「全くもって同意するよ」


 「あのドラコって女、様子はどう?」


 「ああ、今は大人しくしてるよ。というか、むしろ大人しすぎるぐらいかな。正直、彼女が実行犯ってのは信じられない」


 「そうよね、人は見かけによらないってことかしら。あの女の身柄は、しばらくうちで預かることになると思うわ」


 「……そっか。色々と納得出来ないところはあるけど、誰かがやらなきゃいけないことを彼女はやったんだ。できれば手厚い対応を頼む」


 「……」


 カヤは返事をせず不満げな表情をした。


 「どうした? 何か怒ってる?」


 「……別に」


 確実に怒ってる。


 「いや、別にって、そんなわけ―――」


 「もう! うるさい!」


 カヤの罵声に和也は面食らう。

 カヤはプイッとそっぽを向いてしまった。


 まいったな……。

 何で怒ってるんだろう……。

 

 カヤの急変に戸惑うが、和也は言うべきことを言うことにした。


 「カヤ……ごめんな。俺は人の気持ちを察することが苦手だ。というより、今までやってこなかった。努力せず、怠けていた。今になって、付けが回ってきてる気がするよ。だから……なんと言ったら良いか……こんな情けない俺に、辛抱強く付き合ってくれないか?」


 「―――くなんかない」


 「え?」


 「情けなくなんかない! カズヤは最高に格好いい! 最高に素敵で、最高に強くて、最高の最高よ!」


 人差し指を和也の鼻先に近付けて、カヤは力強く言った。


 「あ……ありがとう」


 カヤは視線を下に落とし、躊躇いがちに言う。


 「私の方こそごめんなさい……。カズヤが、あの女のことを心配するものだから……その……嫉妬しちゃったのよ」


 「そ、そっか……」


 どの辺に嫉妬する部分があったのか和也にはいまいち分からなかったが、一先ずカヤの気持ちを理解して安堵する。


 でも、まあ、いくら鈍い俺でも分かる。

 カヤの俺への感情は理解しているつもりだ。


 深紅の髪をかき上げ、カヤは和也と視線を合わせる。


 「私、聞いてなかった」


 「ん?」


 「カズヤに好きな人がいるって、聞いてなかった」


 「それは……」


 それは、言う必要がなかったから。

 とは言えなかった。


 誤魔化すのは、もう止めよう。


 「ごめん」


 「……それだけ?」


 「うん。言う必要がなかったから、言うタイミングがなかったから、色々と言葉は浮かぶけど、何か違う気がする。だから、ごめん」


 カヤは肩を落として、大きく溜息をついた。

 そして、何かに納得したような表情をする。


 「考えてみればそうよね、私も悪かったわ。だって、私もちゃんと言ってなかったから」


 カヤは金色の瞳で和也を見据えた。

 息を吸い、言葉を放つ。


 「私、カズヤが好き」


 和也はその言葉を受け止めた。

 数秒ほどカヤの目を見つめ返した後、口を開いた。


 「ごめん」


 和也の返事を聞いて、カヤは和也に背中を向けた。


 「あーあ、ふられちゃった。まいったわね。初めて恋をして、初めてふられちゃった。……こんなに、苦しいんだ……」


 「カヤ……」


 掛ける言葉が思い浮かばなかったが、和也はカヤの肩に手を伸ばした。

 カヤは、その手をピシャと撥ね除けた。


 「同情は不要よ」


 「……分かった」


 「うん、同情は要らない。だって―――」


 カヤは和也の方に振り向く。

 そして、和也の唇に自分の唇を重ねた。


 和也は言葉を失う。

 突然の出来事に目を見開き放心状態。


 そんな和也を見てカヤは笑う。

 美しい鬼の姫は、とても晴れやかな笑顔で言った。


 「私、やっぱり諦めきれない。いつか絶対、カズヤを振り向かせる。これは、その誓い!」


 未だ心が戻らぬ和也にカヤは続けて言う。


 「それじゃあ、また会いましょう―――、カズヤ」


 その言葉を最後に、カヤは何処かへ駆けて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ