誰?
僕は就活に苦戦していた。クラスメイトの中で唯一通学に使う電車が一緒なAもそうだった。僕は彼のことを親友だと思っていた。
「就職決まったよ」
ある朝彼はそう言った。雨が降り午前8時とは思えない空の下、彼の顔だけは明るく見えた。けれど未だに最終面接にすら辿り着けていない僕は心から笑えなかった。
「おめでとう」
今までに何回も憎しみを込めて言っていた言葉だった。僕より先に彼女ができた彼、就職が決まった彼、恵まれている彼にどこか憎んでいたのかもしれないが、僕は彼のことを親友だと思っていた。喜んだのは本心だった。
彼は電車に轢かれた。
20年という短い命がぐちゃぐちゃになり消えていく瞬間を僕はただ見つめることしか出来なかった。
切れた電灯がただただぶら下がるだけの無人駅のホーム。雨の下、そこは夜のようだった。スーツ登校日で黒に包まれていた僕は闇に紛れていた。
誰が押したのか?
僕にはその疑問だけが残った。周りのみんなに好かれている彼に恨みがある人間などいるのだろうか?彼の周りにそんな人間がいるとは思えなかった。
聞こえてくるサイレンの音。遠くで叫んでいる車掌の声。
血に濡れたスラックスをトイレで洗い、ホームに戻った僕は、雨が止み晴れ渡っていく空を見た。