嘘つき処刑ゲームの回避方法
『今から嘘つき処刑ゲームを始めます。嘘をついたら死にます』
突然眩暈がしたと思ったら倒れ、気が付いたら椅子に座っていた。目隠しをされ手足は拘束され逃げることができない。
ここはどこだ、一体何なんだと騒ぐ声がするので自分以外にもいるのか、と初めて知った。
『肩を叩かれたら人には知られたくないあなたの秘密を言ってください。10秒経って言わなかったら死にます』
ボイスチェンジャーだろう、機械的な声がどこからか聞こえてくる。部屋が広いのか、反響してどこから聞こえるのかわからない。
「何をふざけてるんだ! いい加減にしろ!」
『10秒経ちました、死にます』
「ひ!? ぎゃあああ!? 痛い痛い痛い痛いやめろやめろやめ ギっ」
ブチン。ゴトっ。
なにかの音が聞こえた。周囲からひいっと悲鳴漏れる。見えないから何が起きたのかわからないので想像するしかない。
「え、ええ!? ちょっと待って、えっとえっと」
『10秒経ちました、死にます』
「待ってよ! いきなり言われても……いぃ!? いだいいたいいたいだい!! いやああああああああ!!」
ブチン ゴトっ
きゃああ、なんなんだよおおおお、と辺りから悲鳴がする。明らかに死んでいるのだろうが、死ぬ方法が凄まじく痛いのだとわかると全員の焦りが伝わってくる。
「ひぃっ!? え、えっと、あ、あれ! お金盗んだことあります!」
『嘘をつきました、死にます』
「ほんとだよ! 何でそんな事決めつけるの、ちゃんと調べてよ!」
『調べてあります』
「そん……、え、やだ、嘘嘘嘘! いや、あああ、ぎゃああ!」
ブチン ゴトっ
「きゃぁああ!? あ、ええっと! 秘密、秘密は……ふ、不倫してます!」
『人に言いたくない嘘ではありません』
「何言ってんの!? 言いたくないに決まってるじゃない!」
『あなたはそれを友達に自慢話として話しています、嘘をついたので死にます』
「そんな! あ、誰がチクって……いぎいいいいい!? なにいやだやめてお願いしますあああああああ!!」
ブチン ゴトッ
そうして数人同じようなやりとりが続いた。
トントン、と俺の肩が叩かれる。
「えー、別に人に言えない秘密はないなあ。言える秘密はたくさんあるけど」
周囲の人間が息をのむのがわかった。はあ、はあ、と息遣いが荒い。何言ってんだコイツ、と思ってんだろうな。
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
「だろうね、本当だし。ゲーム成立しないけどどうする?」
俺の問いかけに周囲がざわざわと困惑したようにしゃべり始めた。初めて死なない奴が出たから必死に自分の番になったらなんて言おうか考えてるんだろうな。
『では人に言える秘密を言ってください。嘘をついたら死にます』
「いいよ。えっと、ネットで知り合った人に成りすまして他の人と会って金を800万くらいもらった事がある。お金返してって言ってきたから知り合いのヤクザに売り飛ばした。内臓が良い金になったよって売り上げの1割もらったっけな。あとはそうだな、金がない奴に他人の銀行口座スキミングさせるテクニックを10万で教えた。まあその口座、ヤクの売人の口座で見つかったそいつボッコボコにされてそのあと行方不明になっちゃった。どうしたかなって思ってたらこの間ニュースでやってた、バラバラ殺人事件の首だけ見つかったやつ。年寄りと子供は基本蹴りたくなる。4年前町の監視カメラに映ったらいつ捕まるかってゲームして8人くらい蹴り飛ばして3人くらい死んだけどこの通り捕まってない。警察ってマジ無能だよね。自殺しようとビルの屋上で固まってる人がいたからいかに人生が素晴らしいかを熱く語って、泣きながら私生きてみるって言った女を蹴り落とした事ある。ちょっと面白かった。今まで殺した人数は数えてないから忘れたけど結構いる。金がない時殺したり、なんか暇だったから殺したり、とりあえず視界に入ったから殺したりいろいろ。この間ニュースで大騒ぎになったびっくりチキンみたいな顔して死んでた女の犯人は俺」
しいん、と静まり返った。俺が死んだか皆耳を澄ませているようだ。
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
「あとねえ、拘束された状態から抜け出す縄抜けは得意。手錠でも縄でもガムテでも何でもできる」
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
ごそごそと動くとその音が伝わったらしい周囲の人が息をのむ気配を感じた。
「よ、っこいせ、っと~。はい成功」
すたん、と立ち上がる音に皆ガタガタと必死に動き始める。試しているようだ。コツ知らないと無理だと思うけどな。
ぱさ、と目隠しをしていた布を床に放った。ふう、視界良好。さっきからおかしなゲームをしている奴を見つけて手を振ってみる。反応なしか、つまんないな。
「た、助けて! お願い!」
「頼む! これを解いてくれ!」
「嘘つくと死ぬんだっけ?じゃあ正直に言うよ。 い や だ ね」
わざと最後ゆっくり言えば再び悲鳴が上がった。
「何で助けなくちゃいけないんだよ。めんどくさい」
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
「財布とかはないけどバタフライナイフは取らなかったんだ。ありがと、これ結構気に入っててさ。切れ味良いから」
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
「あ、この場にいる奴全員殺すね」
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
辺りから泣き声、悲鳴、命乞いが聞こえてくる。それを無視して俺は歩き出しソイツの目の前で足を止めて。
ざく。
結構大きな音がしたな、まあ思いっきり切ったから仕方ないか。
「この場にいる奴、って言っただろ。お前もだよ」
どさ、と音がしてソイツは崩れ落ちる。それと同時にソイツの後ろに見えていた扉からガチャンと鍵の開く音がした。ドアノブに手をかけるとあっさりと開く。
「お、ドア開いた」
俺の言葉にやったあと歓喜が沸き起こった。助かった、と全員肩の力を抜いてだらんと姿勢が悪くなる。
それを俺は首を傾げて見る。何でこいつら喜んでるんだろう。
「アンタら俺の話聞いてた?」
「え?」
「《《全員》》、って言っただろ。全員は全員だよ」
「え……」
しいんと静まり返った中、俺の歩み寄る足音と全員の悲鳴が響く中、後ろから聞こえた。
『今のは本当ですね。嘘ではありません』
END