触れたもの
「ところで、お前大きくなるにつれて魔力も強まってると言っていたが、何故そんなこと分かったんだ?魔法も使えないのに魔力の大きさなんて自分じゃ分からないだろ?」
自分の腕の中から顔を上げたルーナは、疲れた表情ながらも自分で散らかした花弁を集めながらそう問うた。ルーナにそう言われて初めて気が付いたが、そういえばこれといった理由も確証もない。なんとなくという言葉が一番合っているくらい曖昧な感覚だったのだ。
「……まあ、なんというか……。今まで起こらなかったようなことが起こったりしたので、そうなんじゃないかな、と」
「起こらなかったようなこと?」
「…………、同じ教会で育ってきた子の命を……、奪いかけました……」
今でも、鮮明に覚えているあの感覚。思い出す。触れたそこから生命のいう流れを自分に取り込んでいく感触。今考えたらそれは魔力の流れだったのだろう。ただ手を繋いだだけだったのに、その瞬間糸が切れたマリオネットのように地面に臥した仲間。離さなかった手に、光が宿っていた。つい昨日のことのように思い出すのだ。
「……異変に気が付いたシスターが、その子と私を引き剥がしてくれたから、手遅れにはなりませんでした」
その時からもう、無闇に人に触れるのは止めようと誓った。
その一件から私は、逃げるように教会を出た。他の孤児の子の目線も、自分がこの先何をやるのかも、これからどう過ごしていくのかも、考えることすらしたくなくて目を逸らしたのだ。
この事を人に話すのはもちろん初めてだったけど、こんなに暗い声になるとは思わなかった。決していい思い出ではないけれど、もう二年も前のことをこんなに引き摺っているとは自分でも思わなかったのだ。
黙ったままだったルーナは、私の話の終わりを確認すると、徐に席を立った。どうしたのかと顔を上げるより早く、頭に大きな手が被せられて、目線を上げることは適わなかった。
「ガキはもう寝る時間だから寝ろ」
ルーナはわしゃわしゃと私の頭を撫で回すと、上着を一枚取って外に出て行った。
ガキじゃないと言い返したかったけれど、伸ばしかけた手が震えているのに気が付いて、なんだか恥ずかしくなって彼の背中を見送った。
また、あんな経験をするのは嫌だ。故意じゃないけれど、故意じゃないからこそ、人の命を奪うなんてこと耐えられない。だから一人になった。近付くなと言われてもこっちから願い下げだった。
頭を撫でられたのなんて、
人に触れたのなんて、
いつぶりだろうか。
「…………寝ろとは言ったけど」
久々に人とこんなに話して疲れたからか、私はあのまま机の上で突っ伏して寝てしまった。机の木の感触が気持ち良くて、たまにこうして寝こけてしまう時がある。
「んぅぅ……」
「風邪引くだろ、馬鹿」
甘い香りが鼻を掠め、より深い眠りに誘っていく。何かが肩にかかった温かさと、ふわりと身体が浮く感覚をどこか意識の端っこで感じながら、私は完全に眠りの世界に引き込まれたのだった。