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青年と少女は需要と供給の関係  作者: 咲乃いろは
第一章 捨てられた存在
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躊躇いのない死

ふざけんなよこの野郎。

私は息と共にその言葉を呑み込んだ。余計なお世話極まりない提案に、多分私はその気持ちを盛大に顔に出していただろう。


「何もふざけてない」


声にも出していたみたいだ。全然呑み込めていなかった。


「第一、これはお前の為でもあるんだぞ。手に余る力は身を亡ぼす」

「私の目標達成ですねありがとうございます」

「そうだった」


私の強い信念を揺るがそうなんて百年早い。いや、確実にルーナの方が年上なんだけど。

命を粗末にする気なんてさらさらないが、自然の流れに身を任せるというのならそこには該当しないだろう。私の寿命がいつまであるのかは知る由もないが、全うしたいとは思わない。出来ればこの危険因子は早めに世から消えてしまった方がいいと思うから。


ああいけないいけない。信念が強すぎて、気を抜けばすぐに自分が消えた世界を夢見て熱くなってしまう。そんな私の気持ちを理解してくれたのか、ルーナはそれ以上食い下がることはしてこなかった。そのくらいで諦めるくらいなら大した思いではなかったのだろう。


「まあ、無理にとは言わないけど。ただ、人生の先輩として一応忠告はしておく。お前が生きたいと願うか死にたいと願うかはお前の自由だけど、自由に出来ない力は、お前が危惧している周りへの加害になる。身を亡ぼすのは自分だけじゃないということも分かっておけ」

「……」


そう。さっきから自分でもずっと矛盾を感じているのはルーナが言った通りのことだった。私は魔力を使いたくないと思っている傍ら、使()()()()()()()()()周りに危害を及ぼすということも分かっている。私は頭には自信がないが、そのくらいのことを考える裁量はあるつもりだ。ただ、決断する技術と勇気がない。誰かが与えてくれるものでもないのだから、自分でどうにかしなければならないというのに、機会がないということを理由に今日この瞬間までずっとずっと尻込みしている。





「臆病、」


「!」





氷のような声が、私の耳を震わせる。心を膠着させる。






「────…ではないだろう、お前は」






続いた言葉に目線を上げれば、今度は煽るような紫色がそこで光を宿していた。


「なん…、」

「人を傷つけたくないから自分が消えることを望む。頭のいい選択とは言えないが、世界に揉まれて導き出した答えだろ。辿り着くまでに一体どれほどの勇気を消費したか、俺には分からない。…俺に分かるのはリズという人間が強い人だということだ」


強い人間?誰が。私が?現実から目を逸らせて、逃げて、逃げて、逃げまくってこんな辺境地まできた人間が?今日初めて会った人に何が分かる。いくらイケメンだからってそんな簡単に靡くわけない。どうせ自分の呪いを解く為に口車に乗せようとしているだけだ。大体、呪いってどんな呪いなのか。顔が良くなる呪いか。是非私にも分け与えてほしい。


「……ルーナは…、呪いが解かれなければどうなるんですか?」





「────…死ぬよ」





そこに躊躇いなどなかった。ただ事実を述べているだけ。それなのに、何故こうも重々しく聞こえるのだろう。その言葉自体に重力があるものだということだけでなく、声のトーン、彼の表情、雰囲気。幾つもの要素が織り交ざって、それは私の肩にずっしりと覆い被さってきた。


「死、ぬ…」

「何だ。自分は簡単に消えたいとか言うくせに、人から聞くとびびってんのな。弱虫か」

「……さっきは臆病じゃないとか言ったくせに」

「それはそれ、これはこれ。大体、呪いなんてものは人に良くない影響を及ぼすから呪いなんて言われてんだろ」


それはそうである。でなかったらただの魔法だとか体質だとかそう呼ばれていただろう。思えば、私のこの力だって呪いと呼ばれておかしくない位置に存在しているような気がする。ただ、これは命を奪うだけでなく与えたりもするから判断が難しい。


「一応説明するとな、俺に穿たれた呪いは血液が毒に変わっていくもの。今は大した影響は出ていないが、いずれは血液は全て猛毒となり、自分の身体を蝕んでいく。日に日に自身の毒に侵されて弱り、死んでいくんだろうな」

「……それを救えるのが、私だと?」

「そうだな」


重すぎる荷だ。成長しきらないこの身で背負えるわけがない。結果は見えているのだから、余計な手間を掛けさせる前に早く断っておくべきだ。ここまで一人で何とか生きていけたのだから、この先もきっとどうにかなる。この人の手を借りなくても自分の信念くらい自分でやり遂げてみせる。








「分かりました。私にしか出来ないのなら、仕方ないですね」








自分で自分を制御できない私は、考えていることと口に出したことは正反対だった。








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