キングオブなろう小説
あらすじ:
よおキモオタども、俺はキングオブなろう小説だ。
まあ読んでみろよな?逃げんなよ?
漫画化アニメ化確定作品、ここに見参だぜ!
●放送当日
よおキモオタども、見ろよ!見てみろよ!
俺の書いたなろう小説がアニメになって、ホラ!
やっぱりだ!ネットの評価すっげえイイじゃん!
やっぱり俺は持ってたんだよ!才能満ち溢れてんだよ!
どんなクズ作品でも多少の仕掛けで、
オマエらキモオタどもに飛ぶように売れる、この世の中サ!
俺の産み出した大傑作、ちょっと小綺麗に包装しただけで、
アニメ放送この通りだ!
さあこれから忙しくなるぞ!
でも心配すんなよ担当ちゃん、俺、売れっ子イメトレだけは、
これまで毎日欠かしたことが無ぇんだわ!
●3週間前
よおキモオタども、俺の名前は、
小見川 耀だ、よろしくな。
34歳のネット小説家、オイ、そんじょそこらのナロワーと一緒にすんなよ?
俺は小説で革命を起こす王様だぜ?
ルックスは、まあ、うん、男は見た目じゃないからな。
でも結構イケてると思うぞ?同年代と比べて若く見えるしな。
友達は多いぞ、ネットに。
俺の同志、というかまあ俺の信者みたいな連中かな、沢山いるよフォロワー。
金?持ってるよ、これまた沢山な。
この戸建ての家も俺のものさ、いずれな、え?俺自身の金?
・・・あんまり俺が気分が悪くなるようなことを根掘り葉掘り聞くなよ?
怒らせると怖いんだぜ?絶対無敵の俺様はよ。
俺自身の金だったな、まあ沢山あるよ。
あるようなもんだ、この頭の中の作品が世に出れば大金持ち間違い無しだからな
●
両親の面倒を見ながら、日々小説という名の自伝をつづる。
学校を飛び出してから15年以上続けてきた修行であり生業だ
そうそう中学高校は名門進学校だったんだぜ。
大学は行く価値が見出せなくてな、小説で喰っていくなら学歴なんて意味無いしな
両親には感謝してるよ、だから見捨てずに一緒にいる。
一時期は家の外で俺の才能を活かすようしつこくすすめられたけどな。
論破して拒否したよ。
親孝行の為にも早いとこ商業小説家として鮮烈デビューしないとな。
最初の印税で両親にハワイ旅行を買ってあげるプランはナイショだぜ?
まあ最近はそういう意味でも自分自身にプレッシャーをかけてだな、
真面目に創作に没頭しているのさ、実は俺完成作品が少ないかな、とか思ってさ。
どちらかというと多産な方なんだぜ俺。
だけど水増しされた薄い作品100個より濃縮された濃い作品1つの方が強いだろ?
世に出した傑作は13作品ある。
4作目と9作目は俺の才能に嫉妬したヘイター、もしかしたら悪の組織、が俺を潰しにきた問題作さ。
13作目を3か月ぐらい前にアップしてからは、まあスランプなんだよ。
俺は自他共に認める天才なんだけどな。
売れるモノを産み出す為には市場リサーチが必要だからな。
当然そこに時間を使っているってのもまあ、あるんだけどな。
●2週間前
よおキモオタども、恋をしているか?モニターの中の嫁の話をしてるんじゃないぞ?
イエス、俺はそう、恋とは違うな、運命の女性に出会ったんだ!先日リアルでな。
イベントで街に行った時にな。
小学校時代の初恋の相手にそっくりな女の子に出会ったんだよ。
そしたらにゃんと!信じられんこれが運命か!その初恋の相手の娘だったんだよ、絹香ちゃん10歳。
初恋の相手と、その時ちょっと話したけど相変わらず綺麗だっな。
なんか緊張してるみたいだったけど、東大出の官僚と結婚して幸せに暮らしているそうだ。
何よりだ、まあそんなことより絹香ちゃんだ。
見えざる神の手に引かれ導かれるかの如く、気が付けば彼女の家の前まで来ていたよ。
そして確信したさ、彼女が、絹香が俺の創作の源であること、ミューズであることをさ。
今までバラバラに分裂していた俺の人生が、この1片のパズルのピースですべて合致したんだぜ?
雷に撃たれたような衝撃を受けたね、これが真実の愛なんだってな。
これで俺の作品は世に認められるようになるだろう。
家族との関係も良くなるだろう。
馬鹿にしてきた連中を見返すことが出来るだろう。
今なら解るぜ、愛がすべてだってな。
●
それから数日、俺は絹香がヒロインのエロ小説を1日平均8作品は仕上げたさ、脳内だけどな。
そして結論として、この運命の2人は早く一緒になるべきだって考えに至ったのよ。
そうと決まれば早速リサーチだ、それも今回は初めての野外リサーチなわけだが、
身体がすんなりと外出に向けて動いたのはびっくりしたな、やはり愛の力は偉大といったところか。
以前両親に買ってもらったスーツに身を通す。
これしか小綺麗な外出用のおべべがないからな。
多少キツイがまあ結構イケてるんじゃないか?ネクタイにも挑戦した、結び方はネットで調べた。
早朝、玄関で俺を見送った両親は嬉し泣きしてたよ。
それを見て俺もとても気分が良くなったさ。
朝の街の空気が澄んで輝いているのに感動したよ。
成功への、勝利への第一歩が今踏み出されたって感じでな。
堂々とした態度で最寄り駅の雑多な人混みの中にいる自分自身に、俺は酔った。
ぶっちゃけ苦手だったおんもだけど、
実はこんなにも可愛らしいモンスターだったんだな、楽勝の大勝利だぜ。
だが好事魔多しとはよく言ったもんだわ。
絹香の家の前あたりで彼女を待っていたら、大きな門が開いてな、
有名私立女子学園初等部のセーラー服を着た絹香が出てきたんだわ、背中に漫画みたいな集中線背負ってな。
私服も可愛かったけど制服もそりゃあ良く似合っていたよ、
そんであまりの愛おしさに俺フリーズしちゃってさ、
リサーチ初日はそこでお終い、てかしばらく動けなかった、射精してた。
現実はいつも俺の想像を超えて来るね。
真実は小説よりエロしってな。
その後、絹香がヒロインのエロ小説のバリエーションが増えたのは、まあ言うまでもないか。
●1週間前
よおキモオタども、愛のプロポーズ&逃避行大作戦は大成功さ。
俺の婚約者は、俺の創作の女神は、俺のオンナは、
俺の理解者は、俺のオナホは、俺の運命そして俺の人生は、今、俺のベッドで寝ているよ。
絹香も最初は戸惑っていたけどな、そこは俺が強気のリードをしてやったよ。
こういう時は物事をよく知っている経験豊富な大人の紳士が、多少強引に導いてやるべきなんだよ。
欲しいモノは力づくで奪う、まるで俺のなろう小説の主人公みたいだな。
ちなみに俺の両親は俺の初原稿料と印税をサラ金から前借りした金で、
GO TO トラベルして家を出てもらってる。
絹香と正式に大手を振って皆に祝福される結婚をしたい。
その為には俺に実績が必要だ、つまり俺の小説が世間に、世界に認められなくてはいけない。
売れていなければならない、だが売れていない、どうするか?
俺はこうしたさ、やはり才能がある者は何をやらせても光り輝くね。
俺ちょっとしたルパーンしゃんしぇーだよ、絹香と狂言誘拐を自作自演したんだよ。
絹香も迫真の演技で乗ってくれたよ。
絹香を無事に返して欲しかったら、俺の大傑作なろう小説
『マジ勇者!チョイチョイくんくん君』をアニメ化して放送しろってな、
一度でいい、どんなかたちでもいいから世間の目に触れれば俺は勝てるんだ、売れるんだ。
●
狂言誘拐は見事に成功したさ、思いがけずアニメの宣伝効果も出てな。
ネットでもことあるごとにトレンドに入ったよ。
ワイドショーに俺と絹香の顔写真が出ていまや有名人夫婦よ。
ちなみに俺の写真は高校の卒業アルバムのやつだった。
誰だよリークしたの。あと何故か俺の年齢が48歳になってやんの、
10歳以上多く間違ってんぞこのフェイクニュース野郎どもめ。
『マジ勇者!チョイチョイくんくん君』のアニメ制作は、
俺の指定した尊敬する創作集団、引き金屋さんが進めている。
いやあ原作者冥利に尽きるね、放送時間帯は地上波二チアサ希望したけどBS深夜で折り合った。
声優さんの選考とかやってみたかったけどなー。
まあこれは今後嫌でもやってかなきゃならなくなるし、楽しみとしてとっておこう。
ああそうだ、俺とか絹香とかが、ゲスト声優出演とかも、まあありだな。
『マジ勇者!チョイチョイくんくん君!』ってのは、
股間をチョイチョイいじくった手のにおいをくんくん嗅ぐクセのある、
異世界転生やり直し勇者の成り上がりハーレムギャグストーリーさ、ウケるぜこれは。
『オエッ!ホワンホワンホワンさん!』って口臭がキツイ聖女の、
ざまあストーリーもあったんだけどな。
あと『クッサ!転生したらうんこっこスライム!―スライム成分の90%がうんこな件―』もな。
マーケティング的に勇者だけにしてくれって警部に言われちゃってさ、思わず「ホシを、アゲる!」って言い返してやったぜ。
●放送後日
よおキモオタども、俺の記念すべき伝説のアニメ初放映は大成功さ。
一部のヘイターを除いてネットでは作品そして俺に称賛の雨あられだよ。
みんなを笑顔にしたかったんだけどみんな大爆笑したってさ。
「鬼才」それが俺の新しい称号さ。
もうワナビーとか無職とは言わせないぜ。
世の中は、世界は、俺を認めたんだ、俺は作家として認められたんだ。
まあそれよりも、絹香が俺を畏怖の眼差しで見つめてくれたことの方が嬉しかったけどな。
というわけで、俺はなんとかいう警部との約束通り絹香をつれて警察に出頭した。
約束は守らないとな、俺は約束を守る漢だぜ。
狂言誘拐だけどな、世間をお騒がせしたんだ、ちゃんとごめんなさいするさ。
俺は逮捕された、これで俺も前科者か、まあこの様子もテレビやネットで万人に見られてんだろな。
ここはむしろ俺のこれからの作品の良い宣伝になったと思うべきだろうな、ステマとか炎上商法は嫌いなんだけどさ。
絹香との別れは辛かった。
出所したら必ず迎えにいくよって最後に耳元で囁いたら、絹香泣いて喜んでたよ。
わっぱかけられた両手で抱きしめたら絵になるなと思ってやろうとしたら、
止められた、そりゃないぜとっつぁん。
●
北の刑務所からヒット作連発中。
ジェイルハウスノベルは今年の流行語大賞になりそうな勢いだってさ。
まあムショってのが謎の付加価値になってるってのもあるけど、やるもんだろ?俺。
俺のファンの声、いつでもきこえているさ、耳をすませば今すぐそこに、そうムショでも人気者さ。
いまや国民的小説家、いや世界にその名を轟かせている芸術家なんだよ、アーティスト!いや照れるね。
普通のそこらの書店で平積みされてるんだってよ、俺の本たち。
ウニメイトとか、オラの穴みたいなとこでは作画担当の漫画家がイベントやってるってな。
俺もそういうのやりたい、ちやほや称賛されたい、ちくしょう!
絹香に会えないのがツライ、なぜ婚約者の面会に来ないのか理解出来ない、浮気か?まさかな。
それに両親からもまったく連絡が無い、どうなってんだよ親孝行してんじゃんかよ、ちくしょう、ちくしょう!
とまあ適当に苦悩もあるけどまあ作家だしな。
人間努力する限り苦悩するっていうし、これが物書きの生きる道なんだろ。
今日も俺はONOREと向き合い、自分自身を描写し、作品を世に送り出す、それだけだ。
●秋葉原電気街
よおキモオタども、シャバだ!シャバダバシャバダバ!
アキバの電気街、久しぶりだなーって全然変わってないやんけ!ってな。
でもなんかこう、今の俺にはまったく異なった世界、新しい新鮮な世界のように見えるね。
ある意味凱旋帰国みたいなもんだからな、俺は今やキングオブなろう小説、
オタクドリーム成り上がりストーリーの具現者だからな。
羨望と嫉妬の視線がグサグサ突き刺さるぜ、おっと今日はサイン勘弁してくれよ。
駅から全然進めてねえよ、ファンに囲まれてな、早くラーメン喰いに行きてえんだけど。
ん?人の波がモーゼしてんじゃんなにこれ、って絹香!絹香じゃないか!
それもウェディングドレス!もう軽くイッたぜよ!
なんてサプライズだ!サプライズ嫌いの俺も思わずニッコリだぞこれは!
絹香の両親もいる、ああいつか親子丼もいいな!
そして俺の両親も、俺の家に入れてる印税でいいもん食って、いいもん着てるからシャンとして見えるぜ!
俺の担当の編集さんもいる、
担当の弁護士さんもいる、
精神科の先生もいる、
警備会社の護衛ちゃんたちも、
とっつあんもみんないる、
みんながみんなハイライトの消えた眼をして嬉し泣きしているよ!
俺の人生はまるでなろう小説だ、
なろう小説の人生は、
なろう小説の主人公は、
そしてなによりキングオブなろう小説は!
こうでなくっちゃいけねえよな!
えっ!?これでおしまい!?おしまいだよバーカ!