叡智の神
ガイゴンは分かっていた。今の自分の実力では五帝に勝てないと。
それでも一人で向かったのは理由がある。
カイトだ。
カイトの潜在能力に気づいたガイゴンは、カイトを死なせないように五帝から遠ざけた。
ここで自分が死んでも、カイトはそれ以上に貴重な戦力になると確信していたからだ。
僕は『俊足』を使い、街の中心に向かっていた。人間も魔族も、共に同じくらいの死体が転がっていた。
十分程で街の中心に着いた。その光景を僕は一生忘れないだろう。殺気を抑えることが出来なかった…。
「おや? 君も幹部かい?」
「魔力を感じない。ただの死にぞこないだろう」
白い服に身を包んだ男が二人立っていて、足元にはガイゴンの上半身のみ置いてあった。
「ガイゴン…。お前たちがやったのか…?」
頭に血が上る。こんな気分になるのは初めてだ。
「そーだよ。綺麗なオブジェだろ? お前たちの城に飾ってくれよ」
男はふざけた口調で煽ってくる。もういい、殺そう。
「重力変化」
対象の重力を二十倍に。
「なんだこれ!? 体が動かねぇ」
「流れ星」
無数の星の光が空から降り注ぐ。重力により回避不可能。
「粉砕」
重力、流れ星の全てが粉々に粉砕された。
「私は全てを壊す。貴様もこの手で粉々にしてやろう」
これが五帝…。先の戦いのようにはいかないか。
「君強いね? 僕の名前は“ラグエル”で、そっちのが“タミエル”だ」
両方天使の名前かよ。どうする…、タミエルのスキルが謎すぎて戦略が立てられねい。
「今度は僕から行こうかな! 『雷神の御前』」
空は雷雲で暗くなり、雷が鳴り響いている。
「舞台は整った。楽しもうよ!」
ラグエルは笑顔で距離を詰めてくる。拳に電気を帯電させて。
「雷神の鉄槌」
雷が落ちた。そう感じたほどに桁違い。単純なパワーならリクの方が上だが、雷の威力がおかしい。
僕は感電した。まずい、意識がもたない…。ここで気を失ったら殺される…。
エクストラスキル『叡智の加護』を獲得しました。
またエクストラスキル? どうして意識を失う直前なのか。もう限界…。
『叡智の加護』
“叡智の神”に知識を授かることが出来る。
“叡智の神”に肉体を貸すことが出来る。
スキル保持者の意識に問題が発生しました。只今より、“叡智の神”に肉体を一時的に受け渡します。
僕はその時の記憶はない。意識が無かったから。
僕が起きた時には、すべてが片付いた後だった。
「現世は実に久しい。いつ来ても無知が世界中にあるのはいいことだ」
タミエルは異変に少し気づいた。ラグエルの一撃をくらって、まだ立ち上がることが出来ることにというより、中身が変わった気がしていた。
「おいおい、まだ起きるの? 一思いに逝かせてあげようと思ったのにな」
「ラグエル離れろ!!」
「凍れ」
ラグエルは凍りついた。
「君、“雷神”を従えているとはね。それじゃあ平等ではない。こちらにも神がつかないとねぇ」
「貴様何者だ!? さっきの男とは雰囲気が違いすぎる」
「私が変わったことに気づくとは、誉めてやろう」
タミエルは動揺していた。ラグエルを凍らせたスキルは、五帝の一人のスキルと同じだったからだ。
「ホワイトアウト」
一瞬で吹雪が視界と体温を奪う。ベレトの町全体を銀世界に変えてしまった。
「カイトはまだスキルの使い方が若い。だから負けてしまう」
タミエルは『粉砕』でなんとか無傷だ。
「流石は破壊者。この程度では破壊を止められませんか」
「誰だか知りませんが、本気で殺しにいきます」
タミエルは距離を詰める。タミエルは破壊する波動のようなものを手から出している。
だから手以外で破壊のスキルを使うことは不可能ということだ。
「必死ですね、嫌いじゃないですよ。『生成』“大蛇の剣”」
叡智の神は“大蛇の剣”を同時に三本生成した。
「スキル創成、『遠隔操作』」
“大蛇の剣”を三本同時にタミエルに矢のように放つ。手が二本、処理できる数は二つまで。
タミエル攻略はとてもシンプルだった。数で制す。ただそれだけだった。
タミエルは二本を破壊し、一本は避けた。しかし、同じ手が何度も通じるわけないと分かっている。はやくけりをつける必要があった。
「粘るね、これで五十本粘ったね」
「はぁ、はぁ、最初から五十本同時に出していれば、殺せたのに、馬鹿な人だ」
「そう? 君は魔力を使いすぎて息切れしているみたいだけど。それに、君はもう詰んでいる」
「なんだと?」
「君のスキルは破壊。消滅じゃない。ということは、破壊されたものを復元することも出来るというわけだ」
「まさか!?」
「もう遅い。『時の管理者』」
叡智の神は五十本の剣の時間を戻した。それにより、タミエルは全方位を囲まれている。詰みだ…。
タミエルは何も抵抗出来ず、死んだ。
ラグエルも凍り漬けにされた状態で心臓を貫かれた。




