魔王クロード
今から約千年前、人間と魔族の戦いが始まった。
その力は魔族が有利であったが、人間の異世界人の召喚、剣聖の出現、精霊との契約など、人間は多くの奇跡を起こして対抗してきた。魔族の寿命は長いが、その分長い年月をかけて対策されてしまう。
戦争から五百年たった頃、人間と魔族は停戦協定を結んだ。初代の魔王“クロム=バルバトス”。
しかし、二代目魔王“シーナ=バルバトス”の時に人間の裏切りにより協定は破棄された。今から百年前の事である。
人間と魔族の定期会議で人間は魔王を殺した。その時から三代目魔王“クロード=バルバトス”が指揮を執っている。
「これが人間と魔族の歴史。私は、停戦ではなく終戦させたいのだ。もともと人間と魔族は友好的だった。もう一度手を取り合って共に歩んでいきたいと思っている」
そんな歴史があったなんて。しかも人間が裏切ったのか……。
「もし今、人間と魔族が全面戦争をしたら、どっちが勝ちますか?」
魔王は表情は変えなかった。でも、少し間が開いて、
「人間だろうな。人間には“五帝”と言われる魔王軍幹部に匹敵する者が五人。そして異世界人が四人。正直策を練らなければ勝つことは不可能だな」
そこまで強いのか、人間は。魔王が言うんだから本当なんだろうな。僕に何か出来ることがあれば。
「カイト、君に頼みがあるんだ」
「な、何ですか?」
人間との橋渡しか? でも僕は追放されてる身だからそれは出来ない。
「私の秘書になってくれ」
「え? それは一体……」
「そのままの意味だよ。でも、魔王軍として人間と戦ってもらうことになる」
「それはまぁ、追放されてるからいいですけど…。本当の目的は何ですか」
「歳のわりに出来る男だね。スカーレット王国第一王女は知ってるね?」
「リリア様!? リリア様がどうかなさったんですか!?」
「第一王女リリアとは利害の一致関係にある。今の人間の王は戦争をしたくてたまらないのだ。
王女が政治の舞台に出ていた時は今よりも好戦的ではなかった。しかし、王女が魔王軍領から流れた伝染病にかかり、今は寝たきりだそうだ。
その病は我々も研究中で、ワクチンは出来ていない。人間の王はワクチンを作るためにもはやく魔王軍領の調査をしたいのだ」
「そうだったんですね。だから王女の椅子が空席だったのか」
「この戦争を止める方法は三つ
一つ、スカーレット王国を滅ぼす。
二つ、バルバトスが滅ぶ。
三つ、リリアが王女の座に就き、我々と条約を結ぶ。
可能性が高いのが二つ目で、希望は三つ目さ」
「成程、理解しました。でも、僕は何をすれば…」
「カイトには王国を我々と潰してほしい」
「いやいや、そんな力ないですよ!」
「君はリリアとつながっているね? 君が王国を滅ぼし、圧倒的な力を見せる。そして、リリアに人間と魔族の歴史を国民に暴露し、魔族は裏切られたことを公にする。そのためにリリアは君を魔王軍へ送ったことにする。
あとはリリアが王女になればいい。リリアは民の人気もある」
「そんな上手くいくのでしょうか。王国に勝つのは難しいんじゃ」
「君なら大丈夫だよ。『隠密』も見抜けなかった三流鑑定士しかいないんだ。君は異世界人の中で一番強くなれる」
隠密がばれていた!? ただものじゃないな。
「断ってくれても構わない。君のもその周りにも危害は加えないよ。ザイカの兵を助けてくれたからね」
「何で知っているんですか!?」
「ここで見ていたからね、君のスキル強すぎ」
「すべてお見通しってことですか。わかりました、その話引き受けます」
もうここまで来たらどうとでもなれ…。この世界救ってやる!
話がまとまったところに悪い知らせが来た。
「大変です魔王様!ベレトに、五帝の二人と異世界人四人が兵を引き連れて攻めてきました!」
「数は?」
「およそ百です!」
「ガイゴンの隊を向かわせろ。エドラスの隊は後方で待機。ザイカの隊は城の守護。その他はそれぞれの持ち場に付かせろ」
「はっ!」
魔王は的確に指示を出す。さっきでの口調とは全く違う早口だった。
「カイト、君もガイゴンと行ってくれ」
「え、僕じゃ足手まといになりますよ」
「幹部はザイカ以外は君を秘書とは認めないだろう。この戦いで証明してほしい。頼む」
僕が、あいつらと戦う…。ここで逃げたら、ダメな気がする
「分かりました。戦います!」
「ガイゴンには言っておく。武運を祈る」
僕は今から人間の敵となる。“英雄”なんて大層な存在にはなれない。“ダークヒーロー”で充分だ。