VSフレア
僕は今まで本気で怒ったことは無い。ガイゴンが殺された時も、あれが本気の怒りだったかと言われればそうではない。
だが、今日僕は初めて本気で怒ることが出来そうだ。これが良い事なのか悪い事なのかは分からない。
本気で怒るというのは、実に悲しいことだ……。
バルバトスは壊滅状態だった。魔王城は破壊され、街の至る所に死体が転がっていた。
「魔王様……。僕はどうしたらいいですか……」
「……私にも分からない。幹部の半分は死んでいるね」
魔王様は冷たくそう言った。しかし、その声とは裏腹に今まで見たことのない恐ろしい顔をしていた。
「カイト、指令を出す」
「はい、どんな指令でもやり遂げてみせましょう」
魔王様は一度大きく息を吐いた。
「全員殺せ」
「はい。かしこまりました」
僕は破壊された魔王城へと入っていく。
そこにはまだ名も知らない幹部たちが倒れていた。
「アリス、まだ蘇生は可能か?」
「うん、でもオベロンの力がないと無理」
「あと何分で蘇生不可能になる」
「ジャスト二十分」
充分だ。全て片付けてから蘇生しよう。
「お前が異世界人“カイト”か」
入口の正面にある階段から声が聞こえてくる。
「お前か、この城を荒らしたのは」
「あぁそうだ。まぁ後二人いるがな」
男は笑っていた。
「早く殺ろうぜ、物足りないんだよ。おっと、そこの死体邪魔だな」
炎の帝王“フレア”は、僕の足元にある死体をすべて焼き払った。
「これで殺りやすくなったな。さあ始めよう」
カイトの怒りはマックスになっていた。死体がすべて灰になった。
蘇生不可。
「もういいよ……」
カイトはフレアへ向けて歩き出した。
殺気は少しもなく、とても落ち着いていた。
「随分と鈍いんだな。燃えカスにしてやる」
「絶対零度」
フレアは技を出す前に凍り付いた。
しかし、氷はフレアの熱で溶けてしまった。
「それはシンのスキルじゃねえか。でも残念だったな、俺の体温は炎と同じなんだよ」
「なるほど、なら趣向を変えよう」
カイトは人差し指をフレアに向ける。銃を撃つ時のように。
「アイスガン」
指先から氷で出来た弾丸がフレアの左肩を貫通する。
「ぐふっ!」
「何で溶けないか、不思議か?」
カイトは説明する。
これは氷の純度の問題だ。
カイトが一度に出せる氷は決まっている。それを広範囲に使えば純度は下がるし、逆に凝縮させれば純度の高い氷が出せる。
「もういいよね」
カイトはアイスガンでフレアを攻撃する。
「くそ! 避けるしかねぇのか」
フレアは弾を避け続ける。流石五帝なだけあって、体術の方もなかなかだ。
「遠くから撃ちやがって。近づいて穴開けてやる」
フレアは間合いを詰めてくる。しかし、少し視野が狭かったようだ。
「周りをよく見てみろ」
フレアの周りには撃ち続けた弾が浮いていた。
「これは一体!?」
カイトは『遠隔操作』で気づかれない距離に待機させていたのだ。
「全方位、フルアイスガン」
氷の弾は一斉にフレアに向かう。その数はおよそ三十。
「ちくしょう! 『オーバーヒート』」
フレアは体を燃やす。どんどんと体温を上げていき、一か八か氷を溶かす賭けにでた。
「うぐっ! くそ、少し食らったか……」
フルアイスガンを対処するために全神経を注いだ。
「地獄に堕ちろ」
カイトはエクスカリバーでフレアの首を刎ねた。
「ど……こか……ら」
カイトは『隠密』のスキルを持っているため、足音も気配も消せる。
完全に別の所に意識が向いている状態でバレるわけがない。
「フレア、お前たちは僕を怒らせた。その罪はお前たちで払ってもらう」
カイトは上の階に行く。
五帝はあと二人。




