剣聖
ザイカとは一度だけ戦っている。戦いにしては力の差がありすぎたけど……。
「では、始め!」
ザイカは他の二人と違って間合いを詰めてこない。僕が遠距離攻撃を警戒しているからだ。
沈黙が続く。時間で言えば三分ほど、どちらも動かなかった。
これは、素人から見たらただ突っ立っているだけに見えるが、高度な駆け引きがこの二人の間で行われていた。
「これ以上は無意味か。我から行こう」
ザイカは目に見えない速さでカイトの懐に入った。
「なっ!」
「『絶剣、抜刀』」
剣を抜くのは一瞬。剣を鞘から抜いた音と、ほぼ同時に剣を鞘を納める音のみが聞こえる。
ザイカの技の中で、一番速い技だ。だが……。
「生成、“黒龍の鱗”」
ザイカとカイトの僅かな間に、黒い盾が現れた。その盾が、ザイカの最速の剣を受け止めた。
「止められた。それに、何故浮いている?」
「『遠隔操作』を自動発動させている」
スキルを詠唱しなくても、自分の意志だけで使えるようになってきた。僕のレベルが格段に上がってきている。
「おいおい、ザイカより強くなんのかよ……」
「嬉しい誤算じゃ」
周りの幹部たちも、カイトの成長には驚いているようだ。
「ならば、我も本気を出そう」
ザイカは身に着けていた黒のスーツのようなものを一枚脱いだ。手袋も外し、目に少しかかる程の前髪をオールバックにした。
「イメチェン? ていうわけではなさそうですね」
さっきとは明らかに雰囲気が違う。
「はぁー。よし」
ザイカは息を吐いた。体に緊張はなく、とてもリラックスした状態だ。
「抜刀」
先ほどとは比べ物にならないほどの速さ。僕の左腕は地面に落ちていた。
自分でも切られたことに気づかないほどだった。
「ぐっ!」
「まだやるか?」
相手にこれを言われると、こんなにも屈辱なのか……。絶対に次は僕が言う立場になってやる。
「精霊の祝福」
切られた左腕が再生される。
「そう来なくてはつまらない」
さて、どうしようか。
新しいスキルを創る? 違う。
遠距離から戦う? 違う。
答えは決まっている。
剣しかない。
「生成、“エクスカリバー”」
金色に輝く剣が、聖なる光を放って現れる。
「何て美しい剣なんだ」
ザイカは、その剣に見惚れていた。それもそのはず、“エクスカリバー”は伝説上の剣なのだから。
「イメージでしかないけど、上手く作れたみたいでよかったよ。次は、こっちの番だ」
名刀を握ったからと言って、誰でも剣士にはなれない。逆に、素人には扱うことすら出来ないのだ。
しかし、カイトは違った。短剣とはいえ、カルモで剣の稽古をしていたのだ。
「瞬足」
カイトはザイカと距離を詰める。まともに切りあってもカイトに勝機はない。素早く、一撃で仕留めなければいけないのだ。
「真っすぐ向かってくるとは、愚か者!」
ザイカは抜刀の構えを取る。
「『重力変化』」
自分の横方向の重力を十倍に。さらにそれを解除して、下方向の重力を五倍に。
これにより、超高速で、体勢を崩すことなくフェイントをかけられる。
カイトは下方向の重力により、頭が地面に限りなく近い状態になっている。カイトは最初から、ザイカの足を狙っていたのだ。
「これは驚いた」
金属同士がぶつかり、高い耳が痛くなる音が響く。
「嘘だろ! 今のも受けるのかよ」
「悪くない攻撃だった。だが、まだ届かない」
ザイカは僕の四肢を切り落とした。
「おいザイカ! そこまですることはねぇだろ!」
「カイト、死んじゃうよ?」
やばい、頭が真白だ。はやく、回復……しないと。
カイトの意識が薄れていく中、カイトの前に優しい光が現れた。
「この光は一体……」
「それは!?」
謎の光は、カイトに喋りかけてきた。
「君は、候補だ。これからも剣を握りなさい。私は、君に期待していますよ」
そう言い終えると、光はカイトの失われた四肢をすべて再生させ、消えた。
「今のは光は何だったんだ」
「あの光は、『剣聖』と呼ばれる存在だ」
ザイカの話によると、『剣聖』は、自らが選んだ者にスキルを与えると言われている。
その条件は、一般的に剣の技術が一番優れている者を選ぶと言われている。
だが、他に別の条件があるとも言われているらしい。
「カイト、お前は『剣聖』の候補に選ばれた。これからも我と剣の稽古を続けるぞ」
というわけで、このスパルタ稽古を受けることになってしまった……




