模擬戦
この世界で初めて、僕は遠く離れた人と連絡を取る。
元々電話は苦手だ。コミュ力が低いし相手の顔見えないし、声はなかなかイケると思うんだけどな。
この世界の通信手段は二つある。
通信用魔法石を使うか、スキル所持者がスキルを使うかだ。
通信用魔法石の場合は、予め決めておいた人としか連絡出来ない。スキルは自由に誰とでも通信出来るらしい。
魔法石に魔力を込めた。すると青い光を放ち、点滅する。点滅が止まり、ずっと光ってる状態になったら通信完了だ。
点滅してから三十秒ほどで繋がった。
「もしもし、カイトです。リリア様ですか?」
「カイトさん!?」
「はいそうですけど。会って話したいのですが」
「えっと、三日後にカルモに来てください。失礼します」
すぐに切れてしまった。僕って嫌われてるんだろうか……。
「アリス、僕嫌われてるかな?」
「安心して。たとえ世界中がカイトを嫌っても、私はカイトを愛してるから」
カイトは重い愛に追われながらこれから生きていくことになる。知識を得る為の代償だと思えば安い方だとカイトは受け入れた。
それにしても暇になってしまった。バルバトスを観光するのもいいけど、人間の僕が歩いていると変に思われるし。
「ねぇねぇカイト、暇なんでしょ?」
「フィディオだっけ? 暇だけど、何か楽しい事あるの!?」
「うん! 僕たちと戦おうよ!」
「へ?」
「俺もやるぜ! カイトには借りがあるからな」
「借りを返すって、もっと他に方法があるような……」
「ではこれより、カイト対幹部(やりたい者)による模擬戦を始める」
魔王様までこの悪乗りに乗ってしまった……。あくまでも進行役だけど。
「カイト、お前はまだ力を使いこなしていないだろう? 良い機会だ、色々試すといい」
ザイカにそう言われたら断れないな。
「分かりました。受けてたちますよ」
こうして、カイト対幹部(やりたい者)の模擬戦が始まった。
「では、先鋒はフィディオ。ルールは簡単。殺さなければいい。
始め!」
フィディオは一気に距離を詰めてきた。全くデータがないから正直困る……。
「構えなくていいの? やっちゃうよ?」
視界からフィディオが消えた。速い。
「出力二十パーセント、『雷流拳』」
左足を殴られた。しかも雷を纏っている。
「痛った! 電気流された……?」
「“雷流拳”は、殴った所に電流を流すんだよ。出力に応じて殴る威力も電量を変わるんだよ」
不味いな、足が痺れて力が入らない。
「出力四十パーセント、『雷流拳』」
さっきの倍の威力だ、まともに受けたら感電死もあるかもな。
「スキル創成、『砕』」
「それは、俺が戦った五帝のスキル!?」
「それがカイトの力だよ。だから強い。故に未知数」
『雷流拳』の雷の効果だけを無効化する。
「あれ? 電流が流れない」
タミエルは肉体も破壊していた。でも、調整すればかなり使い勝手がいいらしい。
「『ホワイトアウト』」
吹雪で相手の視界を奪う。寒さで体力も消耗させられる。
「寒! しかもこの吹雪やばい、視界が悪すぎる」
僕はフィディオの背後を取り、関節技を決めてやった。
「痛たたたたたた! ギブギブ!!」
「まずは一人目」
「勝者、カイト!」
周りからは歓声が聞こえてくる。まだスキルは上手く使えないな。
「では、次はガイゴン。始め!」
「ちょっと、少し休憩を」
「休ませるかよ! 『地形操作』上」
僕が立っていた大地が、天に向かって上昇した。操作系のスキルか。
「解除」
反りあがった大地が一瞬で元に戻った。高さは約十四メートル、ビル四階分。どこかしら骨は持ってかれる。
「『重力変化』」
僕の重力を、全方向から一定にする。これで僕は空を飛べるようになる。
「空を飛びやがった。やってくれるぜ」
ガイゴンは楽しそうに答える。戦闘を心から楽しむタイプの戦士なのだろう。
「だが、いつまでも上から見下ろせると思うなよ。『地形操作』砲」
大小様々な丸い石がカイトに放たれる。
「スキル創成、『テリトリー』」
自分を中心に、自分が決めた物を感知するテリトリーを展開する。
広くすればその分感知する力が鈍くなり、狭くすればより敏感になる。
三メートルに設定。そして対象を石に設定、『重力変化』で感知した石を向かってきた逆の方向に重力を変化させる。
これで簡易的なオートカウンターを、カイトは作り上げた。
カイトへの攻撃は全て跳ね返され、ガイゴンに攻撃が返っていった。
「『地形操作』壁」
「凍れ」
土で出来た壁が凍る。
「『アイスロック』」
氷で出来た鎖が、ガイゴンの四肢を拘束する。
「こんなの、壊して……、壊れねぇ!」
僕が出せる氷の量を、すべて鎖に使ったから、硬さは岩盤と同じくらい固くなっている。
「くそが!」
ガイゴンは抵抗で出来ず、カウンターをもろに食らってしまった。
「勝者、カイト」
これで二連勝。スキルの重ね掛けもうまく出来るようになってきた。この調子だ。
「最後は我が相手をしよう」
絶剣のザイカが、カイトの前に立ちふさがる。




