事後報告
ここからは交渉だ。戦って契約する者もいるらしいが、僕の場合は格が違いすぎる…。
「オベロンよ、僕に力を貸してくれないか? 仲間を助けたいんだ!」
「童を手懐けたいか。頭が高いぞ人間」
寒い。とんでもない殺気が伝わってくる。
「ええ、そうですね。僕なんかが頼める立場では無いですね」
カイトは無意識のうちに、怒りや憎しみといった負のオーラが溜まっていた。
最初はオベロンの殺気でかき消され、途中から違和感に感じ、それは次第に確信的なものへと変わっていた。
「僕は仲間を助けたい。いいから貸せよ。使ってやる」
オベロンを超える負のオーラがカイトから出ていた。オベロンでさえも震えたほど、カイトは狂気じみていた。
「いいぞお主。その殺気は好物じゃ。よいよい貸してやる。ただ、お主は童に何を見せてくれる?」
「そうだな。千年続く人間と魔族の戦いに終止符を打ってやる。それを特等席で見られるチケットをやろう」
「それは楽しみじゃのぅ。まぁ、童を呼べるものはもう現れないじゃろう。最初からお主と契約するつもりじゃったよ」
「それは良かった! 早速なんだけど、ここら一帯の草木を蘇らせてくれ!」
「良いぞ。『エルフの雫』」
オベロンの目から、一滴の涙が枯れた大地に落ちた。落ちた場所から草が生え始め、どんどんと広がっていった。
数分後にはベレトの街と周辺が、自然豊かな土地へと変わった。
「凄いな……。これが精霊の力」
「はやく生き返らせてやれ。時間ないんじゃろ」
僕は『大地の恵み』を使って、死んだ仲間を全員生き返らせた。
「俺は死んだはずじゃ……」
「説明すると長くなるんですけど、お帰りなさい! ガイゴンさん」
ガイゴンさんの兵士はみんな泣いて喜んでいた。この状況を見ると、人間たちより魔族の方が仲間を大切にしている気がする。
僕たちはバルバトスへ戻り、事後報告が始まった。
「ガイゴン、死んだんだって?」
「生きてるわ! 一回死んだけども! てかお前は何してたんだよフィディオ」
「僕は右側見張ってたよ? 誰も来なかったけどねー」
「なら助けに来てくれよ……」
「それはエドラスに言いなよ。後方支援のはずが後退阻止してたもんね」
「別にそんなつもりは無かったぞ? 命令が無かったから動かなかっただけじゃ」
確かに、何故待機していた兵士が一体も援護に来なかったのか。魔王の指示がないと動けないから?
それでは魔王が部下を見捨てたとも受け取れてしまう。
「さて、そろそろ異世界人の“カイト”の話の続きをする」
幹部たちの視線が一斉に僕に集まる。
「カイトの実力はもう知っての通り、ガイゴンを含め多くの兵を助けてくれた。さらに異世界人四人を戦闘不能、五帝の二人を倒した」
空気が重くなる。五帝を二人同時に倒せる力だ、それはもう魔王軍幹部を超えている。
人間側に寝返る可能性を考えれば、ここで殺しておくのが最善だ。
その時はこちらも本気で抵抗させてもらうけどね。
「彼を僕の秘書にしようと思う。意見がある者は挙手」
戦いに行く前に言っていたことを、魔王はそのまま言った。幹部たちも一瞬驚いてはいたが、すぐに静まった。
「俺は命を救ってもらった。カイトには感謝してもしきれねぇ。俺は異論はないぜ!」
「あたしも賛成。この中で一番近くで見てたから分かるけど、魔王軍幹部が全員で襲っても勝てないと思うぞ」
「それは聞き捨てなりませんね。我々は魔王様直属の幹部です。そんな半端者に劣るなど、決してあってはならないのです」
半分賛成、半分反対といったところか。このままではいつまでたっても話がまとまらない。
「我は賛成だ。一度カイトと戦ったが、そいつは力を手にしてまだ一日も経っていない。それでこの強さだ、これから先もっと強くなれる」
幹部の中で一番強いと言われているザイカが賛成したことにより、反対派も賛成せざるを得なくなった。
「では決まりだね。カイトを正式に、僕の秘書に任命する」
一応一礼はしておく。
「私のことは好きに呼んでもらって構わないよ」
魔王はニコニコしてそう言った。“魔王様”と呼べと言っているようなものだ……。
「では“魔王様”と呼ばせて頂きます。それで魔王様、僕は何をすればいいんですか?」
「よく聞いてくれたね。早速だけど、人間の国に潜入してもらう」
「潜入ですか。確かにスキルを使えば簡単ですけど、何を探ればいいんですか?」
「話が早くて助かるよ。君には第三王女に会ってもらいたい」
魔王様の話を要約すると、第一王女のリリア様に会い、情本交換をして欲しいとのことだ。
僕がリリア様と通信用魔法石で連絡をとればいいと思ったけど、盗聴が怖いから直接会ってこいとのことだ。
初めて通信用魔法石を使うことになる。あれから一月も連絡してないから、とっくに向こうは捨ててるんじゃないかという不安もある。
とにかく、僕はリリア様に連絡することにした。
そのころ、スカーレット王国でも戦いの事後報告がされていた。
五帝の二人が戦死したこと、異世界人四人が戦闘不能にされたこと、一般兵が五十三人戦死したこと。
五帝の五人が集まる“帝の間”で、五帝の残り三人と、参謀長、国王が集まっていた。
「一体どうゆうことだ! 何故魔族ごときに五帝が二人もやられる……」
「落ち着いて下さい国王。現場で予想外のことがあったとしか思えません。ここは現場にいた者に聞きましょう。入ってきなさい」
現場で五帝の次に前線にいて、生き延びた人間は四人しかいない。
「失礼します」
異世界人四人が、全員ボロボロで事情聴取をされに来た。
「早速ですが、君たちが負けたのは幹部の者でしたか?」
「幹部とは言っていませんでした。しかし、あの強さは異常でした」
「具体的には?」
「多種多様なスキルを使っていました。重力を変化させたり、武器を生成したり、回復もしていました」
「それほど多くのスキルを……。魔王軍にそんな隠し玉が」
「あの、確信はないんだけど、人間だと思うわ」
「なんだと! それは真かアンナ!」
「顔は隠れてたんだけど、殴られるときに見えたの。肌が」
「人間と魔族の肌は全く違います。それが本当なら大問題ですよ」
様々な憶測が飛び交う。とてもスマートな会議とは言えない。
「うるさい」
冷気が部屋中を覆った。
「“雷”と“砕”がやられた。残りは“氷”と“空”と“炎”だ。
三人いれば問題ない。最初から異世界人になど期待していない」
氷の帝王、“シン”は冷静だ。五帝の中で一番の実力者だけあり、二人欠けたくらい何の変りもないのだ。
「そいつが人間だとして、何者だ?」
「見当も付きません。魔王軍とつながりがある者など……」
ヨウスケは、現世に居た頃から頭の回転が速かった。特に、ミステリー小説などの犯人特定に関しては群を抜いていた。
「この世界に、顔を隠せる袋のような物が付いている衣服はありますか?」
「そんなものは聞いたことが無いですね。他国の輸入品にもありませんし、魔族が身に着けていた報告もありません」
これで犯人は決まった。この世界に無い物を創れる、そんな人間は一人しかいない。
「その人間は、俺たちと共に現世から来た“カイト”です」
全員が驚きの表情を隠せなかった。
更新速度遅くなってすみません。
今月は遅れてしまいます。




