95話
人魚達が竜宮に帰った後に、春眠が怒鳴る。
「てめら~!よくも俺様の邪魔をした上、こんな目に会わせてくれたなー!!」
「春兄が悪い!!」
「そうですよ。主様…」
「俺様は別に役目を放り投げられた訳じゃねーよ!!大会に参加してから、ちゃんとやるつもりだったんでぃ!」
「あのね。季節の遅れは、地上に生きる者に取っては、とっては、迷惑なんだよ。竜宮の大会参加より、地上に春の芽吹きを、よろしく頼むよ」
「うむ。その通りだ。さあ春兄、役目を果たしに行こう」
そう言うと冬厳は、す巻きの春眠を抱え荷物でもって積む様に天馬へと乗せた。
「セト殿、この度は協力感謝する。今は急ぐ故、無理だが、この借りは必ずお返しにあがる。では…」
そう言って一礼すると、天馬は、獅子、春眠、そして冬厳を、乗せて空を飛び去っていくのだった。
◇◇◇◇
へぇ~。そんな事があったんですね~。
「そういえば、そんな事があったね…」
父様に取っては、もう過去の思い出なんですね。
「でも、どうして春眠様は、今回の大会にも出られ無いの?」
「よくぞ、それを聞いてくれたな。嬢ちゃん。
それはなぁ~セト!!
お前が、大会に参加させるなって、ジェノに命令したせいだ!!今すぐその命令取り消せ!!今年の大会は、地上の季節で夏の頃に行われる!俺様が、大会に参加しても地上には問題無いはずだ!!」
5年前の命令が、今でも有効なんだ。
でもジェノなら父様が命令を取り消すまで永遠に忘れなさそうですね。
「そんな命令だしてたっけ??わかったよ。今回の大会から、また春眠を参加させる様に言っておくよ」
命令を出した父様は、きれいさっぱり忘れてるのに……。
でもあっさり大会参加を認めましたね。
「ほんとか?!」
「うん。地上に影響が無いなら、別に、どうでもいいしね。
小通連を使いにだすよ」
父様の本音ただ漏れですね。
小通連も、父様のお使い大変ですね~。
「その代わり、この苺の苗を少し分けてくれない?」
甘党の父様もこの蜜苺が気に入ったんですね。
「俺様の話を聞いてたか?この蜜苺は、栽培が難しいんだぞ」
あっ!?そうでしたね。じゃあ無理ですか~。
ガッカリ
「それなら大丈夫。竜宮にはキシルがいるからね」
ふぁ~。もしかして育てられるんですか?
「そう言えばそうだな。あいつなら栽培できんな。キシルは、無口で無愛想だが腕は飛びきりいいからな。」
春眠様の所にいた頃から無口で無愛想だったんですか?
しかし、さすがは、竜宮の庭の魔王様ですね~。
どんな植物もどんと来いなんですね。
でも、まさかキシルが、ちょうちん草と交換って……。
チョットヒドクナイ?
人身売買ならぬ精霊売買……いや精物交換?
まあ、その後、妹のシノエやファイも竜宮に来て、みんな楽しくやってるからいいけどね。
「よし。わかった。竜宮に後で苗を、届けてさせとくぜ」
(おお、交渉成立ですね)
「じゃあ。これからも、この苺、食べられるの?」
「もちろんだよ。苺が収穫できたら、王宮にも送ってもらおうね」
「うん♡やったー♡」
こういう時、父様の娘に生まれてよかったって、すご~く思いますよ。
「それにしても、僕も5年前の事、思いだしたよ。あの年はほんと色々大変だったよ」
おや?父様にも何かあったですか?
「竜宮じゃ無くて父様が?」
「そう、あれは春が終わって夏になった頃だった……」
そうして、今度は父様が、思い出話を初めたのです。