268話
そして翌日になると、わたくしは地獄へとやってきましたよ。
最初は、地獄の浄化に時間が掛かると思ってましたが、エンラ様は、地獄の入り口で動きません。
「セリさん。今回は、ここで浄化をお願いします」
「え?それだけで良いんですか?」
「はい。全ての汚れを浄化されると黄桃さんが困りますから。穢れは黄桃さんの肥料でも有るので、全て無くなってしまうと桃の実の成りが悪くなります。
それに、ユジンさんや叔父上には地上に居る妖獣等を、冥界に送って頂く仕事をして頂きたいのです。ですから、余り時間を掛けたくありません」
「成程。分かりました…」
(これから忙しいなりそうですね。父様も冥府から、お仕事を増やされて怒ら無いと良いのでが…)
そして、わたくしは、雨を地獄に降らせて、浄化完了です。
そして帰り道に、わたくしはキャラさんの為に思いっ切って、エンラ様に、どんな女性が好みかを聞きます。
「エンラ様。エンラ様は、どんな女性が好みなの?」
正直、恥ずかしいので無邪気な子供を装って、直球勝負です。
「はい??」
そう聞くとエンラ様は、訳が分からないといったお顔になります。
(いきなりの直球すぎましたかね?)
そう思い、わたくしは、何とか言い訳を並べます。
「えっと…。ほらエンラ様って、神様と鬼との間に生まれたでしょう?そうしたら、どっちの種族の女性が好きなのかなって思って…」
そう言うと、エンラ様は、結構真面目に答えてくれましたよ。
「そうですね。特に種族とは気にしません」
「え?そうなの?なら人間でも良いの?」
ここはキャラさんの為にも、ちゃんと聞きたいですよね。
「はい。別に気にしません」
「そして出来れば、私の趣味を一緒に楽しめる方が良いですね」
「それってちょうちん草、栽培?」
エンラ様の趣味と言えば、これですよね?
だけど、ここで、エンラ様が爆弾を落とします。
「後は料理ですね。私の創作料理を笑顔で食べ頂ける方が良いです」
え?エンラ様の創作料理って、以前、父様とユジンを真っ青させた、あの料理の事ですよね?
ちょうちん草は、ギリギリ受け入れられかもですが…。
料理はねぇ〜。どうなですかね?厳しいかも知れません…。
でも聞いたからにはキャラさんには、お伝えしないとですね~。
そして、わたくし達の会話を黙って聞いていた、ユジンにも話を振ります。
「じゃあ。次はユジンの番ね。ユジンはどんな女の人が好みなの?」
「は?///私は//」
そう言うと、ユジンは顔を真っ赤にして困ってます。
ふふふ。だから、ユジンをからかうのは止められないんですよねぇ〜♡
◇◇◇
そして浄化が終わって、わたくしは竜宮に帰る事になったのです。
わたくしが滞在した間の荷物は、まとめて竜宮に送ってくれる手筈になって居るので、わたくしは手ぶらで帰ります。
エンラ様は、父様に例の件の協力を要請する為に一緒に来てくれる事になりましたよ。
そして帰る日には皆さん見送りに来てくれましたよ。
赤兎ちゃんが、最初に声を掛けて来ます。
「小娘。色々と世話になったな。ありがとうよ」
「うん。赤兎ちゃんも、お仕事を頑張ってね」
(赤兎ちゃんは、地獄に就職が決まったですよね~。嫌いな人間を仕事の名の元に痛めつけられるから、天職とか喜んでましたね…)
次は、黄桃様です。
「セリちゃん。また遊びに来てね。うふ。今度は、もっと手芸が上手に出来る様に特訓してあげる♡」
(いや〜。それは勘弁して欲しいですね)
「えっと、お手柔らかにお願いします」
わたくしはそう答えます。
「お姫様、道中お気をつけてであります」
「うん。雪ちゃんも元気でね。次会った時は、遊ぼうね」
今回は、エンラ様が、わたくしのお世話係として休みを取ったから、エンラ様の部下である雪ちゃんは忙しかったので、殆ど遊べ無かったですね。
そして、キャラさんです。
わたくしは、キャラさんに小声でエンラ様の事を伝えます。
『キャラさん。エンラ様は、一緒に趣味を楽しめたり、自分の料理を笑顔で食べてくれる人が好みなんだって…』
『まぁ。そんなですか///ありがとうございます。私、素敵な笑顔が出来る様に練習してみます』
そう言って、張り切ってます。その様子をみてしまうと、エンラ様の料理がどんななのか詳しく伝えるの厳しいですね。
『…うん。頑張ってね』
(わたくしは、これ以上何も言えません)
そして、見送りに来てくれた、皆さんの話をして、最後は母様です。
今まで、一緒に過ごして来たけれど、もうお別れなんですよね…。
そう考えたら、急に悲しくなって来ましたよ。
「……母様」
「セリ。貴女の笑顔を良く見せて。また会える時まで覚えて起きたいの」
「また、会える時?」
「ええ」
「あ、そうですよね」
「だから『さようなら』では無くて、いってきますって挨拶にしましょう?そしたら、悲しく無いでしょう?」
「うん。そうですよね。それ良いですよ!」
「またね。母様。いってきます」
そう言って、わたくしは笑顔で手を振って竜宮へと歩きます。
◇◇◇
そうして暗い道を歩くと竜宮と冥界を繋ぐ扉が開き明るく光りが見えてきましたよ。
扉をくぐり、竜宮の方に入れば扉の前には、父様が居ましたよ。
「セリ。おかえり」
そう言って、笑顔で出迎えてくれる。
「ふぁ!父様?!」
「ただいま」
って、どうして、会って直ぐにわたくしを抱っこしますかね?
わたくしは離して欲しくてもがきますが残念ながら離してくれません。
「セリは、少し背が伸びたね」
「ふぁ!?そう?」
「冥界はの時間の流れは速いですからね。セリさんは二年位、冥界に居たと思います」
そうすると、もしかして、わたくし普通より速く歳を取ってしまいましたかね?
はぁ〜。もうわたくし一体、何歳になったのやら?
「エンラも、わざわざ、セリを送ってくれてありがとう。冥府の仕事は大丈夫なのか?」
「はい。それに今回は叔父上に、お願いがあってきました」
そう、エンラ様が言った途端に父様の顔が無表情になりましたよ。
そして、わたくしの方に質問が飛んで来ます。
「………セリ?また、何か余計な事をやったね?あれ程、危ない事は、しては駄目だと言ったのに、冥界で一体なにを!?」
そう聞かれ、わたくしは笑って誤魔化します。
「いや~。余計と言うか…。なんとなく成り行きで、そうなっちゃただけなの…危険な事なんてしてないよ」
まぁ、ちょっと危険な事も有りましたが、それは父様には言えません。
そんな、わたくしの様子に父様は諦めたのか、エンラ様のに向かって返事をします。
「やれやれ仕方ないな。話を聞こう。ただし協力するかは話を聞いてからだよ」
「はい。ありがとうございます」
わたくし達は船に乗り竜宮の宮殿に戻ります。
その間も、父様は、わたくしを膝の上に乗せて抱っこしたまま離してくれません。
その姿を、エンラ様とユジンが生暖かい目で見るから、わたくしは居た堪れません。
(わたくしは、お人形じゃ無いんですけどね…)
本当に困った父様ですよ。
そうして、ようやく、竜宮の宮殿に着いたのです。