192話
やがて甘い香りも水飛沫や強い風も全て消えます。
「ほう。『魅了香』の力を無効にしたか…」
ユジンの苦しむ声が、耳に入り、わたくしはユジンの側に行きます。
「ユジン、大丈夫?!」
「あ、姫様……。うっ…大丈夫です。香が消えて頭がすっかりして楽になりました……」
そう答えたユジンは、いつも優しい笑顔です。
ムクロの魅了香の支配から完全に抜け出せたようです。
「良かった。ユジン。心配したんだから…」
「…ご心配を、お掛けして本当にすみません……。」
「ううん。それより早く怪我の手当てをしないと……」
自分で刺した足の怪我の他にもエンマ様にやられて酷い状態です。
神に死は無いと言うけれど、ユジンが心配です。
ですが、エンマ様は、わたくし達の方をに向かって話ます。
「残念だが、まだ戦いは終わってはおらぬ……ムクロを見ろ」
そう言われムクロを見れば、赤黒く長い気持ち悪い見た目の虫の様な物が体のあちらこちらでムクロさんの体を破り現れます。
「ふぁー!な、なんですかアレは!?」
「ムクロに取り憑きし、ムクロを狂わせたていた『モノ』だ…」
「あの虫見たいなのがですかー?!」
そして、その言葉を聞いたユジンは驚いています。
「なっ!それはどう言う事ですか?!」
「詳しい話は後だ。まずは、あれを倒すぞ。セリの浄化や解呪の力に苦しみ、寄生していたムクロの体内から出て来たのだ。ユジンそなたはまだ殺れるか?」
「……はい」
「ユジン、ダメだよ!酷い怪我してるし!わたくしがユジンの変わりに頑張るよ!」
「これくらいの傷はかすり傷で、なんともありません。大丈夫です。姫様」
そう言って、立ち上がります。
(いやいや、その傷は絶対に重傷ですよー!)
「ダメ!安静にしてて!」
わたくしは必死に止めますが、ユジンは泣きそうな表情になり、わたくしの前に跪くき話します。
「姫様。私は、ずっと自分の無力を嘆き続けて来ました…。ずっと何も出来ませでした。…でも今、ムクロを助ける機会を、そして姫様を守る事が出来るなら、この身がどうなろうと構いません。私は、やっとこの苦しみから抜け出せるんです。私に戦わせください。そして姫様を守らせてください」
そう頼む、ユジンの強い意思が、わたくしにも伝わってきます。
「……わかった。だけど絶対に無理はしないでね……」
(結局、わたくしが折れるしか無いんでよね…)
そしてエンマ様とユジンが作戦を話し合います。
「余がをあれを、ムクロから切り離し、石に閉じ込めよう。ユジン、そなたは、あれを業火で焼き払い消滅されるのだ。よいな?」
「はい。お任せください」
エンマ様は、作戦通り槍を使って、虫を切り離します。
『石化』
そう言って、槍が刺さった場所から虫が石に変わって行きます。
「今だ。ユジン!」
「はい!『火炎竜』」
ユジンの放った、炎の竜が気味の悪い虫を飲み込み虫は炎で焼かれて炭になりやがて消えてしまいました。
「終わったな…」
「はい」
無事に虫は跡形も無く消えて安心しましたよ。
ムクロさんは、体からは沢山の血が流れていますが
大丈夫なんでしょうか?
「う、う~ん。妾は、一体何を…」
意識が戻り『ヨロヨロ』と立ち上がり、ぼんやりと呟きます。
その様子からは、禍々しさはありません。
でもユジンは警戒しながらムクロに近づきを話します。
「詳しい事は分かりませんが、貴女は何かに変な虫に取り憑かされ、正気を失っていた様です…」
「……そうなのか……。ずっと長い間、気分が優れなかったが…。
だが、妾のし事も良く覚えている。
どんな理由があろうとも冥界の統治神としての役目を放棄し、三界を騒がせた責任は取らねばなるまい。
エンマよ…。
全ての責任は妾だけにある。故に冥界で妾に味方した神々に罪は無い。
出来るなら、彼を受け入れ冥界で暮らす事を許してやって欲しい。妾からも、対立的な行動は取らぬ様に良く言って聞かせるから…」
「よかろう」
「そうか…では妾は去るとしよう」
そう言うと突然、地面に巨大な穴が空きます。
穴の中にはマグマが流れていて危険です。
「では皆の者、去らばだ…」
そう言うと、その穴に身を投げようとしています。
(ふぁー!!もしや自殺ですかー?!)
「自殺なんてダメー!やめてー!」
わたくしは慌てて着物の一部を掴み止めます。
わたくしの言葉に『ピタッ』と動きを止めて、不思議な顔でわたくしに聞き返します。
「??自殺とは何じゃ??」
「え?だって、今この穴に飛び込もうとしてたでしょ?こんな深いくてしかもマグマが溜まっている穴に落ちたら死んじゃうじゃない!」
「死ぬ??神は死なぬ。この穴は冥界の最下層に通じる穴よ。妾は冥界の最下層に帰るのだ」
「え、帰る??えっと…もしかして、その穴の中にムクロさんのお家があるの!?」
「……」
驚いて聞き返せばムクロさんは黙り込み困惑した表情を浮かべます。
そしてエンマ様は、先程までの厳しい表情が消えて、クスクスと笑い出します。
「ふっ、はは。セリ。そなたは地上の人間達に影響され過ぎだな。神は死なぬし、冥界の最下層にムクロの屋敷など無い。最下層に有るのは地獄の業火が燃え盛る牢獄だ」
(わたくしが、神様らしく無いのは認めますが、そんなに笑わ無くても///)
「牢獄って…。あの、もう争ったりする気が無いなら、ここで皆で仲良く暮らした方が…」
わたくしの提案に先程までクスクスと笑っていた、エンマ様は、いつもの表情に戻りムクロさんに言います。
「確かにな。そなたが正気に戻り、これ以上争う気がなのなら、今後、どうするか我々は話合う必要がある」
「…………妾に、今更、冥界を統治する資格など無い」
「そなたが、どう思っていようと、そなたを慕う冥界の神が居るのも事実だ。この先、余とそなた、そして冥界をどうして行くのか、はっきりせねば、冥界は、また荒れよう」
「……そうだな。わかった。話し合いに応じよう」
そう答えると突然、穴は消えて元の地面に戻ります。
どうやら地獄に行くのは思い留まってくれた見たいですし、和解が出来そうな雰囲気ですね。
ふとユジンを見れば、とても嬉しそうな表情で成り行きを見守っていましたよ。
(もう、きっと大丈夫ですよね)
「良かった~」
(ふぁ~。安心したら急に力が抜けてちゃいましたよ~)
わたくしが、その場に座り込んでしまったので、ユジンが心配して様子を聞きます。
「姫様!大丈夫ですか?お加減が悪いのですか?」
「ううん。体の調子は悪く無いんだけど……。安心したら体の力が抜けちゃって、とても眠くなって来たの~むにゃ」
そう答える間にも眠くなっていきます。
そんな、わたくしを、ユジンが優しく抱っこしてくれた事に甘えて、迂闊にも、わたくしは、その後ぐっすりと眠ってしまったのです。
「…ご安心して、ゆっくりお休み下さい。姫様」
こうして、一応、冥界の騒動は無事に解決したのです。
今週もありがとうございました。
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