175話
そうして一旦話を区切ると、顔を覆っていた布を取ったのです。
顔には疫病で出来る、赤黒い痣が……!
「見苦しものをお見せしてすみません。その場にいたあたしも、その時に受けた邪気により、このような姿に……」
「その痣!?今、国中で流行っている疫病と同じ痣…!!」
「はい。そうです。あたしは神ですから死ぬ事ありませんでしたが、兄の邪気を浴び永遠に消える事の無い痣だけが、体中に残ったのです。顔や体の肌を見せない様にしているのは、その為です……」
そんな事があっても、あたしは、兄を必死で探して続けました。
あたしは、兄が大好きでしたから……。
そして兄の撒き散らした疫病は、地上のあちらこちらに広がり、兄の疫病による人間達の大量死は人間の魂を管理している、冥府にも問題視されました。
疫病を地上に撒き散らし、疫病神として地上を混乱させているとし兄は冥府から追われる身になっていました。
あたしが兄を見つけたのは冥府のエンマ様の使いが今まさに、兄を捕らえて地獄に連れて行こうとする処でした。
「お前が疫病神かいニャロメ―?!わっちは、冥府のエンマ様の使い、火車の玉獅子ニャロメー!!エンマ様の命令により、お前を捕まえに来たニャロメー!」
突然、兄の前に現れたのは大きな化け猫です。
兄は戦に強い神ではありません。
邪気や穢れに強い冥府の使いには、太刀打ち出来ず、あっという間に、兄は捕らえられてしまいました。
「地上で穢れを撒き散らした疫病神!!年貢の納め時ニャロメー!このまま冥府ヘ連行ニャロメー!!」
「止めて!兄を連れていかないで!!!」
そしてあたしにも戦うなんて出来ませんが、兄を冥府に連れて行かせる訳には行かないので必死に冥府へ戻ろうとする、火車にしがみついて邪魔しました。
ですが、そんな抵抗が、いつまでも通じる外もなく…。
兄がいよいよ冥府へ連れられそうになった時に、
冥府の使いの前に、アシア様が現れたました。
アシア様は、冥府の使いの前に立ち塞がり冥府の使いに話をつけてくれました。
「ちょい待ってや!萬福を冥府には連れて行く事は自分がゆるさへん!絶対にさせへんで!」
「ニャロメ?!貴方様は大陸の神アシア様?!そう言われてもこの地上の状態を、どうされるおつもりニャロメー!!このまま疫病を放置すれば、ますます穢れが増え最終的に、その影響は三界にまで広がるニャロメー!エンマ様は、それを心配されて、今回わっちを、地上に使わしたニャロメー!」
「そんなん言われんでもわかってますわ!萬福は自分が封印して、けじめをつける、だから冥府は手を引きや!エンマはんにも、そう伝えてや!」
冥府の使いは、少し考えてから返事を返します。
「………分かりましたニャロメー!!今日ところはアシア様の顔を立てて引くニャロメー!エンマ様には、
そうお伝えするニャロメー!」
そう言って冥府の使いは捕らえた兄を残して冥府へと、そのまま帰って行きました。
捕らえられた兄は最早あたしの事も分からなくなっていて、ただ縄で縛られた体をジタバタさせながら暴れてました。
「……萬福…。堪忍してや……」
そうして、兄はアシア様によって地上に封じられ、その場所には塚が建てられ結界を張り誰も近づけない様にしました…。
アシア様に封じられ、兄の放ったっていた邪気は
次第に自然に薄れ、やがて地上から疫病は消えました。
兄を失い、一人ぼっちになった、あたしに手を差し伸べてくれたのがアシア様や白桃様でした。
それ以後、ずっと桃源郷で暮らしています。
ですが、先日…。
……地上では日月星の放った呪い『死星』が復活してしまって。
『死星』は、地上を穢れに満たすのが目的とする呪いです。
兄の疫病神の力を利用しようと、兄の封じられていた塚を封印を破壊したのです。
幸い、アシア様の封印は強力で、完全に封印が解けた訳ではありません。
しかし、一分の壊れた封印から兄の邪気が溢れ出て、地上は再び疫病が流行ってしまったのです。
そうして幸福さん辛そうに話を終えます。
「自分が、その事態に気が付いた時には、すでに疫病が広がった後やった……」
「それで、わたくしを拐った理由って?あの、つまり、萬福さんを浄化して欲しいとかですか?」
「当たりや!セリはんの力ならきっと萬福を正気に戻せると…。さっきの話に戻るが、セトはんに協力を頼んでもセトはんにも萬福を救う事は出来へん。
セトはんに出来る事は、日月星と同様に萬福を消滅させる事だけや。エンマはんなら地獄に、アマテルはんなら空中監護に幽閉、どれも自分は嫌なんや!だから、他の道をずっと探してたんや。そして、やっと見つけた……」
「あの消滅って……」
「ん?ああ不老不死、死が存在しない筈の神に取って日月星の消滅は、衝撃的な出来事でな。神の魂は人間と違って冥府には逝かないからな。多分、消滅したんやろ言われてますわ。正直、日月星の肉体は、霧散して塵と消え、まあ神通力は、天へと還っていったとから。だから、もしかしたら生き返るかもやけど。死の無い神を消したセトはんが同族にも恐れられて居るのは、その為やな」
「父様が……」
地上でも、天界でも、皆に恐れられていたんですから、何かあったとは思っていたけど、神様を消滅させたとか、びっくりですね!
「まあ~。余り気にせんと…。正直、日月星は自業自得やし。今、大事なんは萬福を救うことや!」
「それはそうですが…。あの、でも『死星』の時は
夢中で……。また同じ事が出来るかどうか…。わたくしには自信が無いんです。せめてわたくしが、自由に神通力を使える様になるまで、もう一度、封印して時間を稼ぐとかは無理なんですか?」
(あの時は追い詰められてましたし……。時間を稼いでも、浄化の力を上手く操れる様になるか分かりませが……)
「無理や。封印されてた年月も萬福の憎悪は、増していて、再度封印を試したんやが、いよいよ自分にも封じられん様になってしまったんや…疫病はどんどん広がりよる、時間がないんや……」
「…………」
わたくしは、困ってしまって、ただ、うつ向いて黙って居る事しか出来ません。
そこへ突然けんちゃんの声がしたのです!!
お読み頂きありがとうございました。
今更ながら最近の神の娘の話には残酷な描写が増えたのでR15とさせて頂きました。
さて、ちょっとした設定を書きますが、今回、『冥府の使い』として登場した『玉獅子』と前回登場した『玉獅子』の玉ちゃんは別の猫です。
植物の万年青では、『玉獅子』は獅子万年青の祖先とされていて、その話を作品の設定に反映させてます。
そのため、今回の『冥府の使いの玉獅子』は、最初にエンマが造った火車の『玉獅子』で、火車族のボス猫的存在でそのボス猫にあやかって、『玉獅子』と云う名前は火車族では大人気で、『玉獅子』と言う名前の猫が沢山いる設定になっています。
実際に植物の万年青でも『玉獅子の虎』と言う『玉獅子』に虎斑が現れた品種が人気です。人気なので、需要と供給が釣り合っていないのか、万年青名品展で展示されているのを見たことはありますが、売られているのは残念ながら見たことはありません。
もし売っていたとしても、高価なので買えませんが…(泣)
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また来週もよろしくお願いいたします。