170話
父様は、薬草の根っこを掴むと葉っぱを根元から引き千切ります。
すると薬草から襲ろしい悲鳴が聞こえてきます。
『ギャォォ〰️!』
(ひゃっ!ちょうちん草と、いい父様の造った動植物とやらは、ほんと不気味な声を出しますよね…。
でもあんなに強引に葉っぱ千切ったらから痛かったですかね?……何だか可哀想です)
葉っぱを千切られた薬草さんは、不思議な事に直ぐに新しい葉が生えてきましたよ。
驚きの生命力です!そして何事も無かった様に、机の上で、今度はのんびり体育座りして父様の作業を見ています。
父様は、その葉っぱを急須に入れて元素造化で造ったお湯を注ぎます。
急須でよく蒸らしてから、湯飲みに薬湯が注がれ、
わたくしに手渡します。
(薬り作りって言うから、色々な薬草とかを調合したりとかを想像してたんですが……。自前で病気に効く薬草を造って、葉っぱを急須に入れてから、湯飲みに注ぐだけで終わりなんですか?!)
「さあ出来た」
薬草の正体や薬を作る所を見ちゃうとなんだか飲みたく無くなりましたよ。
「どうしても飲まないダメ??」
「また、ぶり返したら嫌でしょ?」
ええ。それは嫌ですよ…。
でも今のわたくしは、『首斬りがいいか?』『首吊りがいいか?』の選択を迫られている様な気分で、
どちらも選びたく無いんです!
「……うん」
「それに甘いお菓子や桃をお腹一杯食べたいんでしょ?なら薬をちゃんと飲まないとね」
そうでした!!
お薬飲んだら、お菓子や桃をお腹一杯食させてくれる約束です。
わたくしは覚悟を決めて一気に飲み干します。
「えぃー!」
全部、飲み終わった時に違和感を感じます。
「……あれれ?今度は眠くならない?!」
「ああ…最初の薬には眠くなる薬も入れたからね。眠った方が辛く無いと思ってね。また眠りたいなら眠くなる薬も用意するけど…」
「ううん。もう朝だし、ご飯も昨日の夜から食べてないの。お腹ペコペコだもん」
苦し薬をもう1回飲むなんてお断りですよ!
「ところで、その薬草さんはどうするの?」
「ああ、これはセリを治す為に造った薬草だし、他に使い道はないから消すよ」
薬草さんは、わたくし達の言葉が分かるのか、父様の発言に机の上で今度は、がっくりとして泣いてる様に見えます。
「えー!!なんで?!折角、疫病に効くのに!疫病は、国中で流行ってるんだし、沢山の薬草を造って病気の人達に配れば?!」
「それはダメ。地上で暮らす者は地上の薬草以外は与えてはならない決まりになっているから…」
「そうなの?どうして?」
「地上に生きる者には、全てに定められた寿命と言うか、運命があって神の作った薬は、その定めすら変えてしまう位に薬効が強いんだ。
そうすると魂を管理している冥府では色々と混乱が起きる。
僕が地上で問題を起こすのは冥府に取っては、日常茶飯事かも知れないけど、なるべく問題は起こさない方がいいからね。
どこかでエンマに会った時にお説教とか怨み節を言われるし…」
(エンマ様の苦労が忍ばれますね)
「じゃあ。もし他の神様がやったら??」
「他の神が地上いることは殆ど無いし、基本的に神は、人間には興味が無いからやらないとは思うど…。もしやったら、冥府の追っ手に捕まって最悪地獄に幽閉されるかも…。エンマは結構、神が相手でも厳しからね」
「そうなんだ。父様が幽閉されないのはエンマ様の弟だからでしょう?弟じゃなきゃ絶対に今頃は地獄に幽閉でしょう?弟で良かったねー☆」
「まあ、エンマが身内に甘いのは確かだけど……。
それ以前に僕は追っ手に捕まる様なマヌケじゃないし、冥府から追っ手が来ても返り討ちにするだけだよ」
(エンマ様が父様を放置しているのは諦めなんですかね??)
父様は、ほんと困ったちゃんですね~。
「それなら竜宮で育てるのは?父様の造った動植物が沢山いるし管理も厳しから地上には出回らないでしょう?
その薬草は、わたくしの命の恩人なんだし消さないで植えてあげて」
「命の恩人って、それは何か違う気が…。まあセリが、どうしても消さないでって言うのなら竜宮で育てさせるよ」
「ほんと?良かった」
薬草さんも葉がピンと伸び、立ち上がって万歳をして喜んでいます。
「さて、僕もそろそろ仕事に戻らないとね。セリは、病み上がりなんだから、今日は一日、大人しく寝ている様にね」
「はぁい。父様いってらっしゃい」
そう言って父様は薬草さんや急須、湯飲みをおぼんに乗せてから持って出で行きます。
(薬草さんは、これから竜宮にいくのかな?)
入れ替わりにカヤメが部屋に入って来ましたよ。
「姫様。昨夜は陛下に下がれと命令され、ずっと隣のお部屋の控えて下りましたが、先程、陛下より姫様がお元気になられ、再び世話をするようにと命ぜられ、参りましたが、この目で姫様のお元気な姿を見てやっと安堵致しましたわ」
カヤメ、目の下が少しクマになってますね。
余り寝て無いんですかね?
「カヤメ心配掛けてごめんね。もう大丈夫だよ。元気だからね」
そう言って、わたくしは側に来てくれたカヤメに抱きつきます。
「はい。姫様」
カヤメ、近くで見たら涙目です。
「主。あたいも近くに行っても良いにゃ?!」
(ふぁ!賢ちゃんもずっと部屋に居たんですか?)
「賢ちゃんも、昨日はごめんね。こっちにお出で、一緒にご飯食べよ」
「にゃー♡」
こうして日常が戻った様に見えましたが、この疫病は、ほんの序章に過ぎなかったのです。
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