初恋。-キミと僕と、時々おねぇ-
幼なじみのキミに恋する僕。
僕ではない人に恋するキミ。
だから、僕はいつまでも自分の気持ちをキミに伝えることが出来ないままだ。
でも最近は膨らむ一方のこの気持ちが重くて苦しくて、溢れそうになる。
……ねえ。もし、「好き」って言ったら、キミはどんな顔をするかな?
今日は日曜日。
まだ寝ている家族を起こさないようにそっと家を出ると、自転車にまたがり公園へと走らせた。
予想では来週にも桜が満開を迎えるらしく、朝から暖かい。約束の時間より早く着いてしまった僕は、一人ベンチに腰掛けると五分咲の桜を見上げた。
キミと2人でお花見をしたいな、とかいろいろ妄想していたら、ラケットを抱えたキミが走って来た。
「悪いっ、遅れた!」
背にしたお日様よりもキミの笑顔が眩しくて僕は目を細めた。
「おはよう」
登下校と部活の時間をキミと一緒に過ごすだけで満足している僕にとって、休日の早朝にここのテニスコートでキミと自主練をするこの時間はまさに至福の刻だった。
1時間ほど練習した後、ベンチに腰掛けて休憩した。
「げ。慌てて家を出たからサイフと水筒忘れた。……なあ、それ、一口ちょーだい」
キミは僕が飲んでいるペットボトルを横から奪うと、ゴクゴクと美味しそうに飲み、半分くらい残して僕に返した。
間接キス。そんな言葉が頭の中を駆け巡り、残りを飲んでもいいのか迷う。
そんな僕を気にすることなく、キミは立ち上がるとコートに戻っていった。
練習を再開しても僕はうわの空。結局ペットボトルはそのままカバンに片づけてしまった。
(間接キス間接キス間接キス……)
脳内がゲシュタルト崩壊を起こす。背筋に悪寒が走ったのはその時だった。
「あらぁ、ラケットの持ち方はこうよ、こう!」
重なる右手。腰に添えられる左手。テニス部のおねえコーチがいきなり背後から現れた。
そのまま2人羽織状態でキミからのサーブを打ち返す。
「は〜い、よく出来ましたぁ。ご褒美、ア・ゲ・ル!」
チュッ。
彼は僕の頬にキスをすると、きつく抱きしめた。
……ああ。僕を睨み付けるキミの視線が、痛い。
だから、僕はいつまでもキミに「好き」と言えないままなんだ。
「タイトルは面白そう!」の「おねえ」へ投稿しようと考えた作品です。
今回の大賞に応募するため、あらすじを膨らませて1つのお話にしました。
気に入ってくださるとうれしいです。