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これはデートですね、間違いない

咲「ごめん、待った?」


凛「いや、今来たところだよ」


来たるXデー、週末の混雑に紛れて凛と咲が遊園地の入り口付近で待ち合わせをしていた。


咲「いや、ごめんね、セキくんの朝ごはん作ってたら遅れちゃって…」


凛「セキの朝ごはん?。…あぁ、そういえば毎朝ご飯作ってこっそり家の前に置いてるって言ってたな」


咲「そうそう、学校がある日はお弁当も作ってるんだけど、今日はお休みだから朝ごはんだけのつもりだったんだけど…ちょっと凝ったの作ったから思ってたよりも時間かかっちゃってさ」


凛「へぇ…」


咲のお弁当の渡し主であるセキが今日、来ることも知らない咲は呑気にそんなことを話していた。


咲「まぁ、それはそうと早く入園しようよ。私、今日なんだか無性にコーヒーカップに乗りたい気分なんだよねぇ」


凛「どういう気分だよ?それ」


咲「あの真ん中のハンドルをさ、所構わずぶん回したい気分なんだよ」


咲がそんなこと言いながら遊園地の入り口へと進もうとしたが、凛が待ち合わせ場所から動く気配がないことに気がつき、咲が声をかけた。


咲「あれ?凛。行かないの?」


未だにこれが意中のセキとおまけの水橋とのダブルデートであることを知らない咲は無邪気にそう尋ねていた。


凛「あー…えっとだなぁ…実はその…今日のメンバーは私たち二人だけじゃないんだ」


咲「え?二人じゃないってどういうこと?」


凛「実は…」


その時、二人の後ろの方から水橋の声が聞こえてきた。


水橋「ごめんごめーん、おまたせー」


凛「遅いぞ、水橋」


水橋「いやぁ、ちょっと荷物が多くてね。それはそうと結城が誘ったもう一人の女の子は…」


水橋はそう言って凛の隣にいた咲と目があった。


水橋「あー、小稲賀か…」


長内や今田の件があってか、心象が最悪な咲の顔を見て水橋は表には出さない程度に嫌な表情を浮かべた。


咲「え?今日水橋が来るなんて聞いてないけど?」


咲は咲であまり関わりのないモブ男子の水橋が割り込んできたこと対して露骨に嫌そうな顔をしていた。


凛「水橋一人だけか?」


てっきり水橋と一緒にセキも来るかと思っていたが、セキの姿が見えないため凛は水橋にそんなことを尋ねた。


水橋「あー、実はこのでかい荷物が遅れてきた原因なんだよね。…いい加減後ろで隠れてないで出て来いよ、セキ」


いままでずっと凛達から見えないように水橋の後ろに隠れていたセキは観念したかのようにその姿を現した。


セキ「きょ…今日はよろしく…」


凛にどんな顔を向ければいいかわからないセキは明後日の方向を向きながらそんなことを呟いた。


凛「よろしく」


セキに笑顔でそう返した凛は咲の方へと振り向いた。


『愛しのセキのお出ましに咲はどんな顔をするのかな?』と、咲のリアクションを期待していた凛、しかし、振り返ってみた咲は予想に反して無表情な顔をしていた。


凛「…咲?」


意外にもノーリアクションな咲を見て変に思った凛は咲に声をかけるが、咲の口から返事はなかった。


その代わり、凛の脳内に直接咲の声が聞こえてきた。


咲『凛、聞こえますか?凛。いまあなたの心に直接呼びかけています』


凛「え?」


唐突にテレパシーでコミュニケーションを取ってきた咲に驚きつつも、これもなんかの忍術かと凛はすぐさま順応した。


咲『凛、聞こえます?凛。いま衝撃のあまり思考がショートして、全身の筋肉が硬直してしまいました。助けてください』


凛「マジかよ」


咲『あとビビってちびりそうです。助けてください。お願いします』


凛「ごめん!私たちちょっとトイレ行くわ!」


脳内に響く咲の声から鬼気迫るものを感じた凛はいそいそと咲を押してトイレへと連行した。










咲「プハァー!!あぁぁぁぁぁ…びっっっっくりしたぁぁぁぁ…」


全身が硬直し、ついでに心臓まで停止していた咲はセキが視界に入らないトイレに到達するや否や、勝手に自己蘇生した。


凛「まさか心臓まで硬直するとは…」


咲「ちょっとちょっとちょっとちょっと!!凛!!セキ君が来るなんて聞いてないんですけどぉ!?心臓止まっちゃったんですけど!?一回死んじゃったんですけど!?」


凛「悪い悪い。セキが来るって聞いてたらたぶん咲が来ないと思ったからさ」


咲「失敬な!!ちゃんと地球の裏から千里眼で参加するよ!!」


凛「遠いわ」


咲「あぁ、もう…セキ君が来るならちゃんと前々から教えてよ、準備とか色々あるんだから…」


凛「準備って?」


咲「とりあえず3年間滝にうたれ続けて雑念を飛ばすところから始まるね」


凛「それもう卒業式終わってるぞ?」


咲「とにかく…無理だよ!!いきなりセキ君と遊園地だなんて!!」


凛「まぁまぁ、私と水橋もいるんだし、ちょっとは気が楽になるだろ」


咲「自惚れてんじゃねえぞ!!。セキ君が放つ無限の輝きをたかが人間ごときが遮れるとでも思ってるの!?。セキ君という太陽を前に凛達なんてボウフラみたいなものだよ!?たかがボウフラに何が出来るっていうの!?」


凛「ひっでぇ物言いだな」


そうこうしていると、咲は荷物をまとめてトイレを後にしようとしていた。


凛「なにしてんだ?」


咲「なにって…隠密行動するんだよ。隠れて見守ってるから、凛一人で楽しんで来て」


凛「セキと仲良くなるチャンスをみすみす逃すのか?」


咲「別にいいよ」


凛「おいおい、私は咲のためを思って…」


咲「そんなこと頼んでない!!」


突然、大声をあげて否定した咲に、凛は驚いて言葉が詰まってしまった。


そして凛が固まっているすきに、すかさず咲がこう続けた。


咲「私は、そんなこと頼んでない」


その声は、強い決意のようななにかに満ちていた。


凛にとってその否定は意外な言葉でしかなかったが、その強い決意を感じ取った凛は咲の態度はテコでも動かないことを悟り、諦めたかのように口を開いた。


凛「そっか…そこまでいうなら無理強いはしないよ。咲がそうするなら私は帰るよ」


咲が来ないのならばこのダブルデートに意味はない、そう考えた凛がそういうと、また咲が声を荒げてこう言った。


咲「それはダメだよ!!」


凛「…え?」


咲「いや、その…ほら、私一人がいなくなれば万事解決なんだから、凛は私なんか気にせずに楽しんで来なよ。せっかく遊園地に来たんだし…」


なにかを誤魔化すように慌てて咲はそんなことを口にした。


凛「いや、流石に私一人じゃ嫌だよ、咲が来ないなら私も帰るよ」


咲の提案を聞いても態度を変えない凛を見て、咲はボソリと独り言を呟いた。


咲「そっか…私が行かないと凛が帰っちゃうのか…」


そして少しばかり考えるそぶりを見せた後、今度はこんなことを口にした。


咲「じゃあ、やっぱり行こっか、遊園地」


凛「…え?いいのか?。っていうか、咲の生死的に大丈夫なのか?」


咲「大丈夫大丈夫、さっきはセキ君の私服姿をいきなり目の当たりにしたから死んじゃっただけだし、今度からはなんとか大丈夫だよ。それに、まだ残機もたくさんあるしね」


凛「…お前の命は残機制なのか」


こうして、二人は改めてダブルデートへと赴くこととなった。


一方その頃、トイレに行ったっきり戻ってこない女子を待ちっていたセキと水橋は…。


セキ「ねえ、水橋。このトイレってもしかしてアレかな?」


水橋「アレっていうと?」


セキ「いわゆる作戦会議ってやつ。合コンとか開始直後に女子がみんなトイレに駆け込んで相手の男達についてアレコレ品定めするやつ」


水橋「あぁ…俺、合コンで一回だけ開始直後の作戦会議後に女の子四人中三人帰っちゃった合コン経験したことあるわ」


セキ「マジかよ。『今日いい男全然いなーい、聞いてた話とちがーう、帰るかー』って話し合いがあったってことかな」


水橋「まぁ、そんなとこだろうな。今頃、結城と小稲賀はなに話してるのかね?」


セキ「『今日セキ来るとか聞いてなーい、帰るかー』とか言われてたらどうしよう。もう二度と立ち直れない」


水橋「心配すんなよ。俺たちが来ることは事前に伝えてあるんだから、それが原因で帰ったりしないだろ」


セキ「じゃあアレかな…『セキの私服ダサーい、あんなのと一緒に歩くとか無理〜、帰るー』とか…」


水橋「そんな心配するなよ、別にダサくねえよ」


セキ「私服じゃないならなにかな…もしかして僕、臭うかな?。『セキ臭ー、帰るわー』とか言われてたらどうしよう…臭わない?臭くない?大丈夫かな?」


水橋「強いて言うなら辛気臭い」


セキ「ほらぁぁぁ!!やっぱり臭いんだぁぁぁ!!」


水橋「セキ、小さいことでいちいち狼狽えるな。男なら、図々しいくらいにどっしり構えてろ。じゃねえと、いざという時、結城が頼ってくれねえぞ?」


水橋に真剣な表情でそう言われたセキは自分の顔を両手で叩き、気合いを入れてから、結城達が駆け込んだトイレの方へと向き合った。


そしてちょうどその頃、凛と咲がトイレから出て来た。


凛「ごめん、だいぶ待たせちゃったわ」


水橋「遅えよ。あんまり時間がかかるからセキが『自分が来たせいで帰っちゃうんじゃないか』って心配してたぜ」


凛「え?い、いや!別にそんなのじゃないよ!」


セキの心配が遠からずとも当たっていたせいか、凛は動揺を隠しきれないでいた。


凛「まぁ、そんなことより、さっさと行こう!コーヒーカップに乗りたい気分なんだよ」


『咲の気持ちやら、セキの気持ちやら、いろんなしがらみをコーヒーカップでごちゃごちゃに混ぜ合わせて、全部曖昧にしてしまたらな』なんてことを凛は思っていたとさ。


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