表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

ドキドキ、遊園地デート大作戦

水橋「結城、今度の休みってひま?」


凛「え?急になに?」


ある日の朝、凛は学校で水橋にそんなこと聞かれていたのだ。


水橋「実は知り合いから四人分の遊園地のチケットをもらってさ。暇なら一緒に行かねえ?」


凛「遊園地?…なんで私を?」


凛と水橋は小学校からの同級生ではあったが、プライベートで遊んだりするほどの仲でもなかったため、いきなり遊園地に誘われた凛は水橋に対してそんな疑問を浮かべた。


水橋「それはだな…うーん…」


理由を尋ねられた水橋は少し考えるそぶりを見せた後、こんなことを打ち明けた。


水橋「ぶっちゃけると、セキも誘っててさ、俺とセキと結城とあと適当な女子一人誘ってダブルデートみたいなことしたくてさ。ほら、この前、セキが結城に気があるって話したろ?。結城もあんまりセキのこと知らないだろうから、セキと関わる機会を与えてやって欲しくてさ。かといっていきなり二人っきりっていうのも気まずいだろうから、四人でダブルデートはいかがでしょう…的な?」


凛「うーん…セキには悪いけど、そう言われても困るなぁ」


別にセキのことが嫌いというわけではないが、咲という存在があるので、凛はセキと仲良くするのが躊躇われた。


水橋「まぁまぁ、別にそれでセキのことどうするかとか決めろってわけじゃないからさ。気楽にみんなで遊びに行こうぜって感じでさ」


結城を遊園地に誘うとセキと約束した以上、簡単には引けない水橋はなんとか楽しそうな雰囲気を醸し出そうとしていた。


凛「楽しい楽しくないとかの話じゃなくて、デッドオアアライフの話をしてるんだけどなぁ」


咲を差し置いてセキと仲良くなろうものなら、どんな仕打ちが待っているのか恐ろしくて凛は行くのを躊躇っていた。


水橋「あと一人結城の仲の良い女子でいいからだれか誘ってさ、四人で遊園地行けば楽しそうじゃねぇ?」


凛「ん?あと一人誰誘うかは私が決めていいのか?」


水橋「もちろん、誰でもいいぞ。…出来れば可愛い子がいいけど」


凛「…その返事、今日の放課後まで待ってもらえないか?。その子に予定を聞いてみるからさ」


水橋「お?マジで?。オーケーオーケー、全然待つよ。今週末がダメならその子の予定に合わせて来週でもいいぜ」


凛「わかった、ありがとう」


セキと関わることを躊躇っていた凛が急に態度を改めた理由…それはもちろん咲のことである。


いま、セキを煩わせている呪いはセキの嫉妬が引き金となって大きくなるもの、そしてセキの嫉妬を呼び起こさせるきっかけとなるものがリア充…だから凛たちはセキが嫉妬をしないようにリア充の芽を摘んできた。


しかし、長内仲達や先日の戦場花蓮達のように、リア充の芽を積むために沢山の人を傷つけて来た。


それに対する罪悪感もそうなのだが、なによりもセキのために行動をしているはずの咲が、セキのために行動をすればするほど誰かを傷つけ、セキに嫌われてしまうこの負のスパイラルは決して凛にとって気持ちいいものではなかった。


こんな誰も幸せになれないようなこと、さっさと終わらせたい。


そのためにもセキにリア充になって貰う必要がある。


そしてそんなセキの恋人になるのにふさわしい人間は、咲を置いて他にいないだろう。


そもそも咲を差し置いてセキと恋仲になろう者が現れたら、その時咲がどのような行動に出るかもわからないし、なによりも凛は心の底から咲の恋心が実って欲しいと願っていたからだ。


少々(?)歪な愛だが、それでも咲がセキを思う気持ちは本物…それがなにも報われず終わってしまうのが凛にとっては一番悲しいことであった。


咲の恋が実ってほしい、そのためにはセキと咲が直接関わりを持つ必要がある。


それ故にセキも来るというこの遊園地のダブルデートはたとえ諸刃の剣であったとしても、断るわけには行かなかった。


『絶対に咲を連れて行く』


凛はそう心に固く誓って、咲の元へと歩き、声をかけた。


凛「おはよう、咲。今日もいい天気だな」


咲「うん、今日もセキ君を崇めるのに絶好の日和だね」


凛「おう、そうだな」


咲「まぁ、そういっても、セキ君は晴れだろうが曇りだろうが雨だろうが雪だろうが台風だろうが、春夏秋冬一年中輝いてますけどね」


凛「おう、そうだな」


ツッコミを入れることすらめんどくさい凛はただただ話を合わせていた。


咲「本当にセキ君は素晴らしい。…だが、セキ君という絶景を妨げるあの不届き者は…万死に値する!!」


咲は怒りでワナワナと体を震わせながらどこからともなく無数の苦無と手裏剣を取り出し、セキの頭上に居座る黒いオーラに包まれた死神に投げつけた。


セキの頭上に居座るそれは背後から迫る無数の凶器を一切振り返ることなく、その全てを2本の指だけでキャッチし、一つ一つをどこからか取り出した付近で磨いてピッカピカにした後、一本の糸にその凶器を千羽鶴のように垂らし、咲へと丁重に返還した。


凛「手先器用だなぁ」


丁寧かつ目にも留まらぬ迅速な仕事に凛はただただ関心していた。


思えば凛はセキの呪いの根源とも言えるその死神のことをよく理解していなかった。


咲や、ずっと前に近くの公園の池で出会った座敷わらしのような小さな女の子の小雪から、あの死神がセキの命を刈り取らんとする危険な者だと聞かされてはいたが、凛はそのことに対してどこか半信半疑であった。


あの死神が言葉を話すのは見たことはないが、挨拶をすればぺこりとお辞儀してくれるし、咲の殺気に満ちた猛攻も紳士的に、かつどことなくユーモラスに対応している。


あの身の毛もよだつような恐ろしい見た目とは裏腹に、お茶目な行動や仕草に、凛はどことなく愛嬌すら感じていた。


だからといって凛はどうこうするわけではないのだが…それでも凛は心のどこかでそのことが引っかかっていた。


それはさておき、咲を遊園地に誘うという目的を思い出した凛は咲に予定を尋ねることにした。


凛「そういえば咲、今週末って予定空いてる?」


咲「え?…まぁ、空いてるといえば空いてるけど?」


凛「良かったら遊園地に行かない?。実はさ…」


『セキも来るよ』


凛がそう口にしようとした時、ある疑問が脳裏をよぎった。


『果たしてセキが来ると知って咲は来るのだろうか?』


咲はセキが大好きだ。


いや、もはやその気持ちは『好き』などという言葉では推し量れないレベルのものだ。


だから当然ながらセキが来るなら咲も食らいつく…と、凛は考えていたのだが、凛はこれまでの咲とセキのやり取りを思い出していた。


考えてみれば、咲とセキが直接会話しているのを見たことがない。


大半はセキが近づいてくれば咲は音もなく目の前から姿を消すし、たまにセキに話しかけられても返事も出来ないほど顔を真っ赤にしてしまうほどの照れ屋だ。


そんな咲が、セキも来ると知ったならどうなるか?。


『セキ君も来るの!?。じゃあ30メートルは距離離さないとね!!』


咲なら嬉々としてそう言いそうだと凛は予感した。


それどころか最悪一切姿を見せずに来ない可能性も…。


そんなことを考えた凛はセキのことは黙っておくことにした。


凛「どうかな?。最近なんかゴタゴタしてたし、たまには遊園地で息抜きでも…」


そんなことを口にする凛を、咲は少しぽかんとした顔で見つめていた。


凛「えっと…遊園地は嫌か?」


よくわからない表情を浮かべている咲に凛は少し困惑しながらそう尋ねた。


咲「あ、いや、別に嫌ってわけじゃないよ。凛から遊園地に誘われるなんて初めてだからさ、ちょっと驚いちゃっただけ」


凛「え?そうだっけ?。…別に遊園地くらい何度も…」


咲に言われて思い出してみたが、たしかに言われてみれば咲と遊園地に行った記憶が凛にもなかった。


凛「…たしかに、言われてみれば咲と遊園地に行った記憶無いわ。まぁ、これを機会にどうよ?」


咲「いいよ、行こ行こ、遊園地。凛と遊園地だなんて、楽しみだなぁ」


そう言う咲は心底嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


『ふっふっふっ、果たしてその笑顔が当日も持つかな?』


普段咲に振り回されている腹いせなのか、凛は咲がセキと出会った時にどんな顔をするのが楽しみで仕方がなかった。









一方その頃…


水橋「遊園地、結城も来るってよ」


放課後、凛から遊園地に行くことを聞いた水橋は早速セキにその旨を伝えた。


セキ「…マジで?」


意中の凛との遊園地デート…しかし、その響きとは裏腹にセキは嬉しいような困ってるような複雑そうな顔を浮かべていた。


水橋「なんだよ、せっかく俺が頑張って誘ってやったのに、そんな顔すんなよ」


セキ「だって…だってさぁ…結城さん、俺が好きなの知ってんでしょ?」


先日、水橋が凛にセキの好意を伝えたことをセキはまだ気にしていた。


セキ「結城さん、俺のことよく知らないだろうし、そんな奴から好きだと言われてもさ…困らせるだけで…俺、どんな顔して結城さんに会えばいいんだよぉ」


そう言ってセキは教室の目の前の机に顔を埋めながら愚痴り始めた。


セキ「あぁぁ…気まずい。絶対気まずいって。あぁ…なんか考えただけで吐きそうになってくる」


そして机に向かってしばらくぐちぐちと弱音をこぼした後、そのまま机に顔をひれ伏したまま、腕を目の前にいる水橋へと伸ばし、その腕を強く掴んで涙が混じったような声でこう言った。


セキ「でも…ありがとな、結城さん誘ってくれて」


そんなセキの姿を見て、水橋はフッと笑ってみせた。


その後、セキはなにかを決意したかのように机からガバッと起き上がると、水橋にこんなことを話し始めた。


セキ「水橋、お前を男と見込んでもう一つ頼みがある」


水橋「ん?なんだ?」


セキ「たぶん僕はこれから遊園地の日が近づけば近づくほど愚痴と弱音が増える。そして当日は気分が優れないだろうし、下手すりゃ布団から出てこなし、最悪床にかじりついてでもバックレようとするかもしれない」


水橋「どんだけ行くの嫌なんだよ?」


セキ「めっちゃ愚痴を言うし、めっちゃ弱音を吐くし、めっちゃ文句がうるさいと思う。だけど、それでも僕を遊園地まで連れて行ってくれ!!。布団に籠る僕のケツを蹴り上げてでも!柱にしがみつく僕を引きずってでも遊園地まで連れて行ってくれ!」


水橋「ふふっ、なんだよ?そのお願い」


セキ「頼む!水橋!。未来の僕を連れて行ってくれぇ!」


水橋「わかったわかった、任せとけよ、セキ」


馬鹿らしいとも思いつつも真剣なセキのお願いを水橋は聞き届けた。


セキ「ありがとう。…悪いね、こんなこと頼んで」


水橋「いや、いいって。普段無口でなんにも興味がなさそうなセキの慌てふためく顔を見れるだけで儲けもんだからな」


セキ「…それはそうと、水橋はいいのか?」


水橋「何がだ?」


セキ「いや、なんか人の恋路に首を突っ込んでばかりで自分のことはいいのかなと思ってさ。水橋は顔も女子ウケもいいだろうし、結構モテるだろ?。実際告られてるのを何度も見てきたし…。でも今は特定の相手とかいなさそうだし…」


水橋「あー、大丈夫大丈夫。俺のことは気にすんな。今は自分よりも他人の恋愛を見てる方が楽しいし…それに…」


セキ「それに?」


水橋「…セキや今田とかと違って、俺は才能ないからさ」


セキ「…才能?」


水橋「まぁ、あれだ…人を好きになる才能…的な?」


セキ「…なんだよ、それ」


水橋「まぁ、そういうわけで、セキがとっとと結城と付き合って、その伝手でいい女紹介してくれよ!」


水橋は笑いながらそう言って話を打ち切ってしまった。


こうして、各々思いや策略を秘めた中…Xデーとなる遊園地デートが幕を開けようとしていたとさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ