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彼女曰く、これはデートらしいです

私の名前は小稲賀咲こいなかさき、どこにでもいるごく普通の女子高生☆


強いて変わったところを挙げるとしたら、今クラスメートのセキ君に絶賛恋愛中ってことかな?


今日はその憧れの彼、セキ君とデート☆


でも咲はちょっぴり引っ込み思案なので、前をリードしてくれる彼の背中を追いかけるのが咲ちゃん流なのら☆。


良妻は夫の三歩後ろを歩くものだって昔からよく言われているし、これは悪いことではないのだ☆


でも私はもっといい奥さんになりたいので、三歩と言わず、彼の30メートル後ろから背中を追いかけるの☆。


付かず離れずが恋の秘訣だっていうし、私にはこのくらいの距離感でちょうどいいって思うんだ☆。


それに咲はちょっぴり恥ずかしがり屋なので、顔を見られるのが恥ずかしいから、彼に後ろを振り向かれると思わず近くの物陰に身を隠しちゃうの☆。


だって、どんな顔して彼の顔を見ればいいか、わかんないんだもん☆。


セキ君も、きっと恥ずかしがり屋さんだから、私に声をかけたりしてくれないの。


でも、顔を見なくたって分かるの。話しかけてくれなくても分かるの。


30メートル先に見えるあなたの背中が『黙って俺について来い』って語っていることが…。


デートだから、彼が立ち止まれば私も立ち止まるし、彼が全力ダッシュすれば私も全く同じ速度で追いかけるの☆。


ふふふっ、駆けっこが好きだなんてセキ君ったらお茶目さんね。


そんなあなたも大好きです♡。


セキ君、私ね、今日のデートをずっと楽しみにしてたんだよ?。


だから今日はいっぱい楽しもうね。


私がずっと一緒だから安心して、セキ君。


なにがあっても必ず私があなたを守ってあげるから…。


さてさて…今日のデートは…一体どんなデートになるのかなぁ…。




凛「…いや、これ…ただのストーカーだろ?」


咲「アハ☆隣のモブがなにか戯言をほざいているわ☆」


凛「いやいやいや!30メートル後方から顔を見られないようにコソコソ物陰に隠れるデートがあるかぁ!!完全にただのストーカーじゃねえか!!。あと私はモブじゃねえ!結城凛ゆうきりん、お前の親友じゃ、ボケぇ!」


咲「えぇ…自分から親友を名乗るとか…なんか重いわぁ…」


凛「ストーカーするお前に言われたくねえよ」


咲「っていうか、さっきからストーカーストーカーって…心外なんですけどぉ。これのどこがデートじゃないのか教えてほしいんですけどぉ」


凛「少なくとも、双方合意の上で遊んでるんじゃないならデートではないだろ?。お前はあの男にこういうデートをする約束を取り付けてこの行動に至っているのか?」


咲「もちろんだとも、なんせ今日は三回もセキ君と目が合ったからな」


凛「それだけでアポ取ったつもりとか…クレイジーだね」


咲「まぁ、凛よ、お前の言う通り百歩…いや、千…2兆歩譲ってこれがストーカーだとしよう」


凛「解せない譲歩だな、おい」


咲「これがストーカーだとして、それがなんだと言うのだ?」


凛「…いや、普通に犯罪だし、迷惑だろ?。お前は自分が大好きなセキ君を困らせたいと言うのか?」


咲「もちろん、ストーカーは犯罪だとも。身の覚えもない相手から追いかけられる恐怖は溜まったもんじゃないと思うし、ストーカー行為は迷惑千万だと思う。…だが、ストーキングしていることがバレなければどうだろうか?相手は追われている自覚もないわけだから恐怖を感じることもないし、セキ君には迷惑はかからない。それに…バレなきゃ犯罪ではないのだ」


凛「いや、その理論はおかしい」


咲「何が悪いと言うのかね?私はセキ君とデートができて楽しいし、セキ君は別に迷惑がってもいないし…これでみんなハッピーだよ?」


凛「いや、お前が諦めれば済む話だろ?」


咲「そんな…私は…ただ…皆が幸せになれる道を選びたいだけなのに…」


凛「いや、その道は誰も幸せになれないからな?。なんでお前のために他の奴らがまきこまれなきゃいけないんだよ?」


咲「ねぇ、凛、こんな言葉知ってる?。…『ONE FOR ALL, ALL FOR ONE』」


凛「…とりあえずその言葉がお前の行動を正当化させるためのものではないことは知ってる」


咲「一人はみんなのために…みんなは一人のために…良い言葉だよね」


凛「そうだな。ONEがALLのために動いてくれたら良い言葉だよな」


咲「とにかく、バレなきゃ誰にも迷惑かけないから問題ないよ」


凛「それはストーキングがバレなきゃの話だろ?。ストーカーしてるのがバレたらどうするのさ?愛しの人に迷惑をかけることになるぞ?」


咲「セキ君の迷惑になることだけは避けたいから…ストーカーがバレたら、その時はセキ君に迷惑になる前に…潔く生を諦める」


凛「いや!重い重い重い重い!!もうその発想がすでに迷惑!!」


咲「安心しろ、私のストーキングは絶対にバレない。すでに予行演習は終えてある」


凛「予行演習?」


咲「ふっふっふ、まだ気がつかないのか?凛よ。私はこの3年間、セキ君のストーキングの予行演習としてお前のことをストーキングしていたのだぞ?」


凛「…そんなバカなことが…」


咲「ふっふっふ、残念ながら本当のことだ。試しにお前が隠し持っていた自作ポエム集を音読してやろうか?」


凛「な!ななななななななんで咲がそ、そそそそそそれうぉ!?!?!?」


咲「お前をストーキングした際に拝借しておいたのさ」


凛「無くなったと思ってたらお前が持ってたのかあああああああ!!!!!返せ!!お願いだから返して!!なんでもしますから!!」


咲「ふっ、自作ポエム集を見られたくらいで顔を赤くしやがって。愛い奴め。他にもお前の家の金庫の開け方とか、銀行口座と暗証番号とか、お前の父親の汚職とかマイナンバーとかいろいろ掌握済みだぞ?」


凛「…あれ?私もうこいつに逆らえなくね?」


咲「そう言うわけだ。別になんの興味も面白みもないやつのストーキングを3年間も成し遂げた私に敵などいない」


凛「…こいつ、人のプライベートをなんだと思っているのか…。咲のストーキングがすごいのは分かったけど、結局ストーキングなんてして何になるのさ?弱みを握って付け入るの?」


咲「わ、私みたいなうら若き乙女がセキ君にそんなはしたないことするわけないじゃない//」


凛「あ?」


咲「ただ…もしかしたら今日ストーキングしていれば、セキ君が定期券とか落として、私がそれを拾えば、明日学校で話すきっかけくらいにはなるかもしれないじゃん」


凛「んー…まぁ、そのくらいなら…」


咲「明日は印鑑落とすかもしれないし…明後日は記入済みの婚約届けを落とすかもしれないんだよ!?」


凛「oh、そいつはいささかクレイジーじゃないかい?」


咲「印鑑と婚約届けがあれば、あとは役所に届けるだけだよ!?そしたらアレだよ!?もうゴールインなんだよ!?」


凛「おめでとう、お前の頭。…っていうか、婚約届けを常備してるやつなんているわけないだろ?」


咲「ん?ここにいるが?なにか?」


咲は自分の名前とセキ君の名前が記入された婚約届けを広げて見せた。


凛「うん、そうだね、クレイジーだね」


咲「それにさ、こうやって私が見張って入れば、セキ君につきまとう不審者をやっつけられるじゃん」


凛「え?つきまとう不審者って今目の前に…あ、やべぇ、私今日に限って鏡忘れて来ちまったわぁ〜しまったわぁ〜」


咲「…あっ!見て!セキ君が何か話している!!」


咲の言う通り、セキは歩きながら電話で誰かと話しているのだが…距離が30メートルも離れているせいか、凛にはその様子がよく分からなかった。


凛「え?ほんと?全然見えないんだけど…」


咲「うん、電話で何か話してるよ。いま読唇術で何言ってるか読み取るね。えっと…『ア、イ、シ、テ、ル、ヨ、サ、キ』…セキ君!私もだよ!!」


凛「待て、エキサイト翻訳するな」


咲「ううん、私にはセキ君のアイシテルが分かるんだよ。だって…ブレーキランプ五回点滅がアイシテルのサインなら、瞬き五回もアイシテルのサインだもんね」


凛「…何言ってるか分かんないけど、とりあえずクレイジーだね」


咲「でもどんな風に私への愛を語ってくれてるんだろう…気になるなぁ…」


凛「そうだね、お前の腐り果てた耳にはそう聞こえるんだろうね」


咲「もうちょっと近くで聴きたいなぁ…」


咲はそう言って歩くスピードを少し上げてセキとの距離を詰めた。


凛「お、おい、咲…これ以上近づいたら…」


咲「でもセキ君にスッピン姿を見られるのは恥ずかしいから、おめかししなきゃね」


そう言って咲は一瞬だけ物陰に隠れて凛の視界から姿を消したと思ったら、次の瞬間には先ほどまで来ていた制服とは違った服装で現れた。


凛「!?!?」


これには凛も目を見開いて驚いた。


しかし、咲のおめかしはこの程度では終わらなかった。


また物陰に隠れたと思ったら、次の瞬間には化粧で顔にほうれい線を作って現れ、また物陰に隠れたと思ったら次の瞬間には顔のシワを増やして現れた。


そうやって咲はセキとの距離を詰める度に歳をとっていって、セキの隣に立った時には腰の曲がったおばあちゃんになっていた。


だが、それと同時にセキは通話を切り、会話を終えてしまった。


大した戦果も得られることなくおばあちゃんが凛の元に戻ってくると一言だけ呟いた。


咲「電話の相手…女の人じゃった」


話し方も声も完全におばあちゃんになっている咲を見て、凛は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。


凛「ふえぇ…っていうか…え?マジで?なにこれ?ドッキリ!?ドッキリなの!?」


咲「こ、これ、あまり騒ぐでない…」


驚きのあまり尾行中だということも忘れて叫ぶ凛に対して、それを静止させようとした咲だが、なにかの気配を感じ、一瞬でその場から姿を消した。


凛「…あれ?咲?」


セキ「もしかして…結城さん」


代わりに凛の元にやって来たのは咲のストーキング相手のセキであった。


セキ「やっぱり結城さんだ。声聞こえたからもしかして…と思ったんだ」


凛「あ、聞こえてたのね」


凛はとりあえず適当に話を合わせながら辺りを見渡していなくなった咲を探した。


すると15メートルの高さはあろう電柱の上に立って様子を眺めている咲の姿を発見した。


…え?あの一瞬であそこまで移動したの?…え?私の親友、いつの間にか人間やめてない?


いろんな意味で親友の存在を遠くに感じてしまった凛がそんなことを考えていると、セキが再び口を開いた。


セキ「結城さん、家こっちじゃないよね?。どうしてここに?」


凛「ちょっと咲と一緒にストーキングを…」


凛が咲の犯罪を密告しようとしたその時だった。


突然、上空から身が凍りつくほどの殺気が凛を襲って来たのだ。


思わずバッと空を見上げると、そこには般若といえばいいのか…鬼と言えばいいのか、それとも悪魔と言うべきか…とにかくそれらを掛け合わせておまけに邪神を加えたようなおぞましい存在がこちらに瞳を向けていたのであった。



押し潰されるほどの無言の圧力が凛にそう話しかけていた。


殺られる…。


咲のことを話せば殺られる…。


しかもアレは嬲り殺しなどでは済まないレベルだ。


私以外の他のすべての一族を抹殺した後、恐怖に震えた私をゆっくりと拷問してから生き地獄を味あわせて殺すレベルの殺気だ。


そのおぞましいものに目をつけられた凛は蛇に睨まれたカエルなんていうものではなかった。


もはやこれは龍に睨まれるアメンボくらいの絶望感だ。


死の淵に追いやられた凛は仕方なく、こんな風に弁論した。


凛「い!いや!ちょっと運動がてら遠回りしようと思ってさ!」


セキ「そっか。…でも嬉しいな、こんなところで結城さんと会えるなんて…」


夕日で照らされたせいなのか、はたまた別の理由があるのかは定かではないが、心なしか凛を見つめるセキの顔が照れ臭そうに赤く染まっていたことが凛にも見て取れた。


凛「…ん?」


あれ?これ…あかんパターンのやつじゃね?。


凛「じゃ、じゃあ私は用事があるからお先に失礼するわ」


嫌な予感が拭えない凛は足早にその場を去ろうとした。


セキ「あっ、結城さん…」


立ち去ろうとする凛にも少し残念そうな声で話しかけるセキ。


凛「い!いや!ごめん!大事な用事があるんだ!割と命に関わる案件だからすぐに行かなきゃいけないんだ!!」


セキ「えっ…そっか…残念だなぁ…。じゃあ、また明日学校で会おうね」


凛「お!おう!また明日な!」


それだけ言うと命の危機を感じた凛は猛ダッシュでセキと距離を取った。


咲「セキ君となにを話してたの?凛」


全力で逃げたはずなのにいつの間にか先回りしていた咲が凛に話しかけて来た。


凛「い!いや!な!なんでもない!ほんとたわいのない話だよ!!」


咲「はっ?セキ君との会話がたわいのない話だと?貴様正気か?。セキ君の話すすべての言葉は神の啓示だぞ?おい」


凛「そ!そうですね!たわいの無い話なわけないですよね!」


咲「で、なにを話してたの?」


凛「い!いや!ほんとに大した事ないよ!たわいの無い神の啓示だったよ!」


咲「ふーん…まぁ、いいや。それよりデートの続きをしなきゃね」


凛「…まだこれをデートと言い張るのか」


とりあえず危機を回避した凛はそう言いながらも安堵の息を吐いた。


咲「…ん?アレは…」


30メートル先のセキを凝視していた咲はセキのポケットから一枚の紙切れが落ちるのを目撃した。


凛「何か落としたな」


咲「アレはもしかして…婚約届け!?」


凛「いや、お前じゃないんだから婚約届けなんて常備してねえよ」


咲「もしかしたらセキ君はわざと私に見えるように婚約届けを落として…はっ!もしやこれはセキ君流のプロポーズ!?」


凛「はぇ〜、すげえ斬新なプロポーズですなぁ」


咲「これは真っ先に拾って即刻役所に届けて籍を入れねば!!」


そういうと同時に物陰から飛び出した咲は光の速さで落し物を回収して戻って来た。


その間、わずか2.3秒。


凛「…忍者の末裔かなにかかな?」


咲「セキ君、不束者の私ですが、末長くよろしくお願いします」


凛「時期早々」


期待に胸を膨らませて咲は紙を確認したが、当然のことながらそれは婚約届けなどではなく、『日没 木霊池 社の裏』と書かれたただのメモであった。


凛「ただのメモだな。…木霊池って言ったらこの近くの大きな池のことだが…これなんのメモなんだろ?」


咲「…さっきさ、セキ君電話してたじゃん?」


凛「してたな。それがなにか?」


咲「相手の人、女の人だったんだよ。もしかしたらこのメモ、その人との待ち合わせのメモなのかもしれない…」


凛「まぁ、そうかもな」


咲「私に隠れてこっそり女の人と会いに行くだなんて…もしかしてセキ君、浮気してる?」


凛「…しててもお前には関係無い話だがな」


咲「これは真実を確認する必要があるよ!今から木霊池に行こう!」


凛「えぇ…私はもう疲れたから帰るよ…」


咲「そんなぁ、一緒に来てよ!凛」


凛「え?やだよ。そもそも今日はお前の奇行を止めるためについて来てただけだし…」


咲「一人じゃ心細いの…お願い、凛も一緒について来て、友達でしょ?」


凛「やだよ、めんどくさい…」


咲「私…一人で浮気現場を目撃しちゃったら…ショックで凛の自作ポエム集を遺書代わりに自殺しちゃうかもしれないんだよ!?」


凛「はっはっは、安心しろよ、一緒に行ってやるよ。私達、友達だろ?」


自作ポエム集を人質に取られたことですぐさま掌を返す凛。


こうして、二人はメモの真実を知るためにデートを中断して木霊池へと向かうことにした。


凛「ところで…ちょっと聞きたいんだけどさぁ…私の書いたポエム、読んでみてどう思った?」


見られて恥ずかしいが、どうしても感想が気になった凛はしおらしく、モジモジしながら咲に尋ねた。


咲「あー、感想ね…そうだね…うん…」


咲はそれ以外、何を話すでもなく、ただ慰めるかのように凛の肩に手を置いて黙っていた。


凛「いや!せめてなんか言ってよ!!」








二人が木霊池についた頃、あたりも薄暗くなり、池には西日が差していた。


咲「メモによると…ここら辺のはずなんだけどなぁ…」


メモの通りに木霊池の近くに建つ社の裏手に回り込んだ咲達だったが、特にそこで誰かが待っているでもなく、そこには誰もいなかった。


凛「そもそもあのメモが今日の予定とも限らないしな」


咲「うーん…特にこれといった収穫は無しかなぁ…」


凛「そうだね、諦めて帰ろう。…ってか、そろそろ私のポエム集返して」


咲「でもよかったよ、セキ君の浮気現場とか見たくなかったし…」


二人がそんな会話をしていると、突然どこからか声が聞こえて来た。


「あなた方…もしやセキ様のご学友ですか?」


二人が声の方を振り返るが、そこには誰もいなかった。


凛「…いま、なんか言った?」


咲「いや、なにも」


「ここです、私はあなた方の下におります」


声に従って二人が地面を見ると、そこには着物を着た3寸ほどの小さな女性がちょこんと立っていた。


「あぁ、ようやく私の声が聞こえる人に出会えましたわ。先ほどのお二人の会話、聞かせてもらいましたが、あなた方はセキ様のご学友なのですね?」


おとぎ話でしか登場しないような小さな小人を目の当たりにした凛が驚きのあまり目を丸くしているのを尻目に、咲は間髪入れずに小人の質問に答えた。


咲「いいえ、私はセキ君の妻です」


凛「初めて出会った魑魅魍魎にノータイムでデタラメをふっかけるとか、あなたクレイジーですわ」


咲「いや、私わりとこういうの家でよく見るからさ」


凛「え?マジで?」


咲「ほら、家によくいるじゃん、小さくてカサカサ動き回るやつ」


凛「…それ、ゴキブリか何かじゃね?」


「私が見える人に出会えて良かったですわ。私の名前は小雪です」


咲「で、あなた…私のセキ君とどういう関係なの?」


凛「いつお前のものになったんだよ?」


咲「あぁ、それもそうだね。セキ君が私のものなんじゃなくて、私がセキ君のものなだけだからね」


凛「あぁ、うん、どうでもいいね」


小雪「実は私は、この池に住む妖精なのですが…」


凛「へぇ…写メ撮っていい?」


小雪「構いませんが、私は写真には写りませんよ?」


凛「残念…金になると思ったのに…」


咲「それで、あなたとセキ君にどんな関係があるの?」


小雪「実は私、訳あってセキ様を呪いからお助けしたいのですが…」


凛「…ん?呪い?」


小雪「はい、実は最近、セキ様は嫉妬の神、ヘラによる死神の呪いにかかってしまったのです」


凛「なにそれ?」


小雪「その呪いは呪いにかかった者が妬みを感じた時に発動する呪いなのです。感じた妬みの強さに比例した痛みに襲われる呪いなのです」


凛「…なんであいつがそんなめんどくさい呪いにかかってるの?」


小雪「残念ながら、今はその理由をお話ししている時間はございません。…どうかセキ様をお助けください。私にはもう時間が残されていないのです」


どうやら本当に時間が残っていないようで、小雪の声には焦りが見えた。


凛「そう言われてもなぁ…私もまだ半信半疑だし…。っていうか、それってそんなに危険な呪いなの?」


小雪「危険です!。もしセキ様が強い嫉妬心を抱いてしまったら…その時は…セキ様は最悪死んでしまいます」


凛「…そんなこと私に言われてもなぁ。本人に言ったらどうなの?」


小雪「それはいけません!。この呪いはかかった本人が認識してしまうと力が強くなってしまう呪いなんです!」


凛「それはまた厄介な…」


小雪「今までは私が呪いの力を弱体化させていたのですが…もうそれも叶わぬようで…。ですから、私に代わって…どうかセキ様をお救いください」


小雪はそれだけを言い残すと、日が沈むと同時にそこからすうっと姿を消してしまった。


凛「…消えちゃったよ。どうする?咲」


咲「どうするって…決まってるでしょ?。セキ君は私が守る、それだけの話よ」


凛「…咲?」


どこか遠くを見つめるようにそう呟く咲を、凛はただただ黙って見ているだけだった。


結局その日はそこで解散することになり、そのまま夜は更け、朝になった。


いつものように学校に登校した凛だったが、妖精という特別な存在に出会った印象は強く、またそれと同じくらい妖精の話していた呪いの話が頭の中に根強く残っていた。


新手のドッキリにしてはよく出来た妖精だったし、妖精が話すからには呪いの話にも説得力はあった。


だけど嫉妬の神だかなんだか知らないが、呪いの話には証拠がなく信憑性に欠けていたためか、凛は未だに半信半疑であった。


果たしてあの話は本当なのか…それとも嘘なのか…。


凛が朝からそんな考え事をしていると、クラスメートの男子の水橋が凛に話しかけて来た。


水橋「珍しい…今日は早いじゃん、結城」


小中と同じ学校だったため、男子の中では比較的仲がいい方なので、そこそこフレンドリーに絡んで来た水橋。


凛「ん、まぁ…ちょっと考え事をしててさ」


水橋「へぇ…考え事って?」


凛「えっと…いや、水橋に話しても仕方ないし、いいや」


水橋「なんだよ?それ」


いきなり呪いとかなんとか言っても信じないと思った凛は口に出すのをやめた。


やっぱり呪いなんて馬鹿らしい。そんなのあるわけが…。


そんな二人の元に渦中のセキが話しかけて来た。


セキ「おはよう、水橋…結城さん」


水橋「おう、おはよう」


凛「おは…よ…う…」


セキの声に反応して振り返ってセキの姿を見た凛は驚愕した。


まず目に入ったのは赤黒く輝く鋭い瞳に悍ましい顔だった。


そして面妖な黒い霧のようなものに包まれた人の形をしたそれはセキの両肩にあぐらをかいて座り、巨大な鎌をセキの首に突き立てていた。


凛「………」


理解の範疇を超えたそれに思わず言葉をなくしてただただ黙って見つめる凛。


セキ「えっと…僕になにか付いてるのかな?」


凛にじっと見つめられたせいか、心なしか照れ臭そうにそう聞いてくるセキ。


凛「え、いや、そのぉ…頭にオッさんが付いてますよぉ?」


セキ「え?オッさん?」


あまりにも堂々とセキに乗っかるそれに思わず遠慮がちに指摘する凛であったが、他の奴らにはそれが見えてないようで、頭の上のオッさんを探して右往左往していた。


結局、凛の言う『頭の上のオッさん』を見つけられなかったセキはとりあえず自分の席に帰って行った。


凛「…水橋、お前セキと仲良かったよな?」


水橋「え?まぁ、二人でよく遊ぶくらいには仲いいけど?」


凛「じゃあお前さ、セキってなにによく妬むか知ってるか?」


水橋「妬む?。ん〜…別にあいつってそんな何かに妬んだりするようなやつじゃないけどなぁ。…あ、でもアレだな、あいつも一男子高生だからな、彼女欲しいってよく嘆いてるし、リア充は妬ましいらしいぞ。なんでもリア充は見ただけで気分が悪くなるとか言ってたし。友人とかクラスメートとか、ある程度仲のいい人が…特に結城がリア充になったら、あいつもかなり妬ましいと思うだろうな」


凛「リア充、か…」


咲「なるほど、セキ君の脅威になるのはリア充共なのね」


凛「え?咲?」


いつの間にか音もなく凛の背後を取っていた咲が納得したかのようにそう呟いた。


咲「その様子だと、どうやら凛にも見えるようになったようね、セキ君に取り付くあの忌々しい死神が」


咲はセキの頭の上のオッさんを見つめながらそんなことを言った。


凛「…え?死神?…咲はあのおっさんのこと以前から見えてたのか?」


咲「まぁ、見えるようになったのは最近だけどね。…セキ君の呪いを解くため、あの死神とは何度も拳を交えたことはあるんだけど…どうしてもあと一歩私の実力が足りて無いのよ」


凛「お、お前…私の知らないところでそんなことしてたのか…」


…っていうか、神様と互角に渡り合うって凄くね?。やっぱり私の親友、人間やめてない?。


咲「残念ながら、今の私にはあの死神は倒せないから、セキ君を呪いから守るためには周りの脅威を排除しなきゃいけない…」


凛「周りの脅威っていうと…」


咲「セキ君が嫉妬してしまうような存在…すなわち、リア充よ」


凛「えっと…それは…」


咲「大丈夫、凛は心配しなくてもいいよ。セキ君は私が守るからさ」


それだけ言い残して咲は凛の元を離れて行った。


あまりの展開で話が付いていけない凛だったが、とりあえずセキの周りにリア充がいるとセキの命が危ないのは理解ができた。


凛とセキは別に仲がいいわけではないが、クラスメートの命の危機を知って、さすがにそれを知らんぷりすることは凛には出来なかった。


凛「水橋、このクラスにリア充がいるかどうかわかる?。あんたそういうの詳しかったよね?」


水橋「ん?まぁな。このクラスにリア充な…それが奇跡的にこのクラスには俺が知る限りではまだリア充が出来てないんだよな」


凛「そう、それは良かった…」


水橋「でも、リア充になりそうな奴ならちらほらいるぜ?。例えば…このクラスの長内仲おさないなか音鳴住おとなりすむは家が隣同士の幼馴染らしいぜ」


凛「へぇ、家が隣同士の幼馴染とか、漫画みたいだな」


水橋「他にも怪しい奴らは結構いるぜ」


凛「うーむ…どれどれ…」


凛が意識してクラスメートを観察していると、クラスメートの何組かの会話が聞こえてきた。


女子1「いい?いくら事情があるとは言えど、私達がおんなじ部屋で暮らしているのは秘密なんだからね?」


男子1「分かってるよ。これ以上住むところを失いたくないし…」


女子2「そんな…男性恐怖症の私がこの人になら平気だなんて…」


男子2「女性恐怖症の僕が、なんでこの女の子には平気なんだろう…」


男子3「あぁ、最悪だ。新学期早々、こんなさえない男と身体が入れ替わっちゃうなんて…ほんと最悪」


女子3「俺だって!こんな身体でこれからどうやって高校生活を送ればいいんだよぉ〜」


女子4「ふっふっふ、何を隠そう、実は私はあなたを暗殺するために裏の組織から送られてきたヒットマンだったのよ」


男子4「そんな…君が殺し屋だったなんて…」


…なんだ?このクラス…。


女子5「何を隠そう、私はあの時助けていただいた猫が人間の姿になった者なのです」


男子5「え?君が?あの時の猫?」


女子6「勝負よ!!今日こそあなたを超えて、私が北斗爆裂流の看板をいただくわ!!」


男子6「やれやれ…高校生にもなってまだ諦めてないのか…」


このクラス…フラグがめちゃくちゃ乱立してる!?。


凛「…ねぇ、このクラスってこんなにフラグが乱立してたっけ?」


水橋「なんだ?羨ましいのか?。なんだったらいい男紹介してやるぜ?」


凛「いや、私はそういうのじゃないんだけどさ…」


漫画みたいな展開がクラス中のあちこちで展開されていることに凛は愕然としていた。


そして、散らばった情報を整理するために凛は改めて状況を確認することにした。


まず、嫉妬の神のなんとかによって、セキには嫉妬心に反応する呪いがかかっていて、セキが強い嫉妬心を抱くと最悪の場合、命に関わる。だが、セキはそんなに何かに嫉妬するような性格ではないが、リア充には嫉妬するらしく、セキにとってリア充は害となり、特にクラスメートとかにリア充ができると困ることになる。しかしながら、このクラスは漫画みたいな恋愛フラグがあちこちに乱立している。


つまり、セキを守るためにはこいつらのフラグを全てへし折る必要がある。


…私は別にセキとそこまで仲がいいわけではないが…セキがいなくなったせいで咲が泣くところは見たくはない。…っていうか、知らんぷりもできんしな。


私にどこまでできるかは分からないが…やれることはやってやろう。


こうして、凛と咲のリア充を殲滅する戦いが幕を開けることになった。


果たして、彼女らはこの散りばめられた数々のフラグをへし折り、このクラスからリア充を殲滅することができるのか?。


頑張れ、二人とも、リア充共に目にもの見せてやれ!!完膚なきまで粉砕せよ!!。


リア充を駆逐する旅路が、いま幕を開ける!!。

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