別れ
ネクロマンス。死霊使いだったか……?
死んだ魔物や人を操る職業だったはずだが、その希少性と内容からほとんど存在が確認されていない幻の職種だったはずだ。
歴代の魔王にこの死霊使いがいたとも言われている。このあたりは後で調べればわかるかもしれないな……。
死霊操作や念話はわかる。だが能力吸収……?
おそらくその後の声の内容を考えるなら……。
「87体。うちにいた生き物たちの数と同じだ」
死んだものたちのステータスや能力を引き継ぐということだろうか。
確かに身体中にいままでにない力が漲っているのはわかるが……。
「ライル? まだボーッとしてる?」
「ああ……悪い……」
「起きたならもういいだろう。シール。これ以上そいつに構うならもう、その必要がなくなるように私が引導を渡す」
「そんなっ!?」
勇者が剣に手をかけていた。
一瞬、今ここで一戦交えることも頭をよぎった。あの声の通り、身体中、不思議な力で包まれている。
勝てるかも知れない。そう思ってしまうほどに……。
だが、ベクトの言葉が頭に響く。
『今は、まだ、だめ』
『もっと、強くなる』
そうだ。せっかく目覚めた力をこんなところで終わらせたくはない。
「シール。大丈夫」
「でも……!」
「夢でな、ベクトにあってきた」
「夢……?」
シールが泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「俺はもう、大丈夫だ」
「ライル……」
不安そうなシールの頭を撫でる。
「ベクトも言ってた。いつか会えるって」
「え?」
「また会いに行く」
目的は決まった。
俺は強くならないといけない。目の前にいる、いまはまだその強さそのものすらも認識できない相手に勝つために。
だからシールとはここでいったんお別れだ。
だがちょっと、ほんの少しくらいの悪戯くらいは許されるだろう。
「早く連れて行けよ。勇者様」
声をかけながら俺は一つだけ、今得た力を使ってみることにした。
「言われなくても……なっ!?」
突然だったからだろうな。
勇者は一瞬怯んだ顔をした後剣を抜いて構え始めていた。
だが勇者以外には何が起きたかわからない。
結果的に、よくわからないものに怯えて突然剣を抜いた間抜けな勇者がそこにいた。
「なんだよ。びびったのか?」
「貴様……」
俺が使ったのはベクトにもらったスキルだった。
──【竜の威光】
対象者に竜に対峙したプレッシャーを与える。
対象者の背後にはきっと、大きくなったベクトの姿が浮かび上がっていただろう。
殺したはずの竜がまさか、大きくなって出てくるとは思わない。
「剣をしまえよ。間抜けな勇者さん。確かにここは100近くの生き物が死んだ場所だ。びびるのもわかるけどな」
「ふん……」
不機嫌そうに下がってくれる。
やってから思ったけどこれで機嫌を損ねて殺されてたら……いやさすがに仮にも勇者と呼ばれているんだしそこまでのことはないか。まあとにかく、結果が良ければいい。
「シール。勇者ってのはさ、強いから勇者なんだよな?」
「え? うん。そう。天職もあるけど、【剣聖】が勇者になることもあるし……」
「よし。じゃあ俺が勇者になろう」
目指すべき場所はそこだ。
「勇者になる」
「勇者に……?」
「誰よりも強くなって、誰からも文句言われなくなって、そしたら改めて、迎えにいく」
シールの目に涙が浮かぶのが見えた。
あーきっと、シールはこれが最後の別れになると思ってたな。
そんなことはない。絶対にまた、会いに行く。
「約束」
「ああ……」
【剣聖】を超えて、勇者を超えて、俺が迎えに行く。
そうすればまた一緒に冒険できる日も来るかもしれない。
仮初の天職が本物へ変わった。
強くなるやり方も、ベクトたちが教えてくれている。
「殺した分だけ強くなる能力……」
わかりやすくていいと思う。
俺はこの力で、ベクトたちの力で、勇者から【剣聖】を奪い返す。
「だから、今はお別れだ」
【剣聖】にそれだけ告げて、俺は前に進むことにした。
回想編はここまでです
次話から本編スタート
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勇者はひどい目にあう点はご安心下さい
100日後にひどい目にあう勇者です(?)