ベクト
「ベクト! ベクトいるんだろ! お前は自由に動けたはずだろ!?」
まだ火の手が上がっていない周囲だけでも必死に探し回った。
ベクトには首輪もしていないし、ケージも必要なかった。
もし扉が開かなくなっていたとしても十分出てこられるパワーがあったはずだ。
「ベクト……」
だというのに、一向に見つからなかった。
いや、もうわかっていた。
テイマーというのは多少なりとも、魔物を従えるためのスキルを身に着けている。薄っすらと繋がりを感じられるのだ。普段なら。
「どこに……いっちゃったんだよ……」
どこにもベクトの気配を感じ取ることはできなくなっていた。
「ライル……おい大丈夫かライル!」
「ああ……」
「今日は休め。うちの宿を使っていいから!」
なにか声をかけてもらっているが頭に入ってこなかった。
なあ、今日はたくさんお土産があったんだぞ?
お前らが飛びついて喜ぶようなうまいもんもたくさん……あったのに……。
「どうすりゃいいんだよ……これ……」
背負っていた今日の収穫は、何の意味もないものになってしまった。
「ライル! 大丈……え……」
「シール……」
シールがやってきてくれた。
後ろに一目見ただけで物が違うとわかる鎧に身を包んだ男と、やたら露出は多いがその反面隙を全く感じさせない魔道士の女がいた。
あー多分これが、勇者パーティーなんだろうな。
「ライル! ねえ何があったの!? ベクトは!? 他の子達は!?」
シールが叫ぶ。
そんなの、俺が聞きたいくらいだった。
「まずは消火しましょうか」
後ろにいた魔道士の女の人がそう言うと、突如店の上に水の塊が現れる。
「奇跡だ……」
つぶやいたのが誰だったかわからないが、たしかに言葉通り、人智を超えた力を感じた。
そのまま水の塊が店全体を多い潰すように落ちてきた。事実一部の屋根とかが崩れ落ちたが、それでも一瞬であれだけの火を消し止めていた。
「ベクト!」
消火された建物にすぐ駆け寄る。
「ライル! 危ないよ!」
シールが追いかけてくれる。
中はひどい有様になっていた。ケージに閉じ込められた生き物たちは当然ながら、逃げ場もなくその身を焼かれたんだろう。残っていたのはもう、見るに堪えない姿の生き物たちだけだった。
だがケージに入っていなかったはずのベクトはどこかにいると思っていた。
「ベクト……!」
「もう! ウインドガード!」
今にも崩れ落ちそうな建物に入った俺をシールが守ってくれたようだ。
「ありがとう」
「んーん……ごめんなさい……私が誘わなかったら……」
そうか。そういえばシールに誘われて外に出たんだったな……。
「ライル……ごめん……」
「シールのせいじゃない」
それだけなんとか絞り出した。
どうして今日だったんだと思う気持ちもある。俺がいればこいつらは生きていられたんじゃないかとか、いろんなタラレバが頭をよぎる。それでも絶対、シールのせいではないことは間違いなかった。
「あっ! あそこ!」
「ベクト!」
もう焼けて何だったかわからないものたちに押しつぶされるように、いつも見てきた黒いしっぽが見えていた。
10話から現在に戻り本番です