あれから
結局あの後俺はふてくされてしばらく何も手がつかなかった。
「きゅー!」
「今でこそ可愛い相棒だけどなぁ……」
当時は街を代表する天才神童だったと自分でも思う。
それだというのに、期待されて望んだ適職判定の儀式で俺は、拍子抜けするほどのハズレを引いてしまった。
いやハズレですらないな。何もなかったんだから。
そんな考えにふけりながらペットたちと戯れているとショップの扉が開かれた。
「いらっしゃい」
「ライル!」
「シールか。ってなんだその荷物」
「えへへ。たくさん採れたからお裾分けー」
【剣聖】シールはまだ俺たちの街を拠点に冒険者活動をしていた。
「いつも悪いな」
「いいってことよー! やっほーベクト! 今日も可愛いね!」
「きゅー!」
こうしてちょこちょこ俺の、正確にはここの動物たちのための食料を持ってきてくれていた。
実際こんな道楽みたいな店ができるのはほとんどシールのおかげだ。
「ねえねえ! そんなに危なくないルートでこの子たちの好物になる木の実、見つけたの! 一緒に行かない?」
「あー……」
そしてこうして情報までくれる。
本来【剣聖】がもたらす情報なんてものはこんなに簡単に手にはいるものじゃない。
本当に世話になりっぱなしだった。シールには頭が上がらない。
俺がこうして楽しく人と話せるようになったのも全部、シールのおかげだったと思う。
「どうかなっ!?」
「店番が……まあベクトに任せればいいか」
「どうせ誰も来ないって!」
「ひどいこと言うな!」
「あはは! じゃ、行こー!」
「待て待て。あー……ベクト、頼んだぞ」
「きゅー!」
俺たちは森へ出た。
このときはまだ、これが最後の会話になるなんて夢にも思わずに。
◇
「あのね、ライル」
森に入ってしばらくすると何か言い出しにくそうにシールが立ち止まった。
「どうした?」
「うん……あのね。私……」
言いづらそうに目を彷徨わせてこう言った。
「王都に誘われてるの」
シールが目も合わせずにそう告げる。
「知ってるよ」
「あはは……ライルには隠し事できないなぁ」
むしろ【剣聖】がいつまでもこんなところにいること自体、おかしな話だった。
最上位職と呼ばれる天職を授かっていながら国に貢献しないことなど許されない。
そういった人材を無駄にしないために、ああやって10歳のときに適職診断を無料で行うことにしているのだから。
「いついくんだ?」
「うん……ほんとはね、ずっと前から呼ばれてたの」
「だろうな」
「だからね。今日、もう街を離れる」
「そうか……」
それがシールのためになるならそれが良いと思った。
シールは【剣聖】、俺は天職なし。いつまでも一緒にいられないことなど、とうの昔にわかっていた。
それがちょっと、シールに甘えて長くなっていただけだから。
「よーし! だからね。私しか知らない道も含めて、今日はぜーんぶライルに伝えてから行くから!」
「それは結構大変だな……」
「えへへ! じゃ、いくよ!」
「待て待て。剣聖のスピードについていけるわけねえだろ!」
「あはは!」
楽しそうに走り出したシールを追いかける。
俺がシールの手を引いて走るあの日とは逆の光景だったが、これはこれで楽しいかもしれないと思いながら、森中を二人で駆け回った。
二人の最後の時間を噛みしめるように。
一日2回更新で回想シーンおわりまでは進行させます