これからの旅
村中の騒ぎとなっていたこともあり、すぐ俺達は村長の元へ呼ばれた。
「ありがとうございました……。本当に……ありがとうございました」
腰を低くして感謝を告げる村長と、複雑そうな顔をしたアヴェル。
オークキングの出現の報は瞬く間に村中に広がったらしい。
深夜だと言うのに村中の人間が村長の家の周りに集まっているほどだ。
「元はといえば私の身内が招いたものですから……」
「いやいや……オークキングなど、もしあのままであれば我らは誰も無事ではすみますまい……感謝こそすれ、そのことを恨むことはしませぬ」
ただのオーク退治とは違ったわけだからまぁ、反応はそうなるか。
だが一方、外を見ればアヴェルと同じく、複雑な表情を浮かべる者たちもいる。
ほとんどがメルトの【ヒール】では治せない欠損レベルの怪我をしている状態だ。中にはアヴェルと同じく家族を失ったものもいるかもしれない。
「ライルさん、いきましょう」
「ああ」
「待ってください。たしかにここは何もありませんが、せめて一晩くらいのお世話は……」
村長が引き留めようとするがとどまらないほうが良いだろうな。それに村長の目にもアヴェルたちの姿は入っている。
引き止めも一応のポーズだ。本心は別だということが窺える。
幸い【夜行行動】のおかげで夜動くことに抵抗もリスクもないし、このまま出よう。
「俺たちにも用があるから」
「そうでしたか……であれば仕方あるますまい……」
安心したように息を吐くと村長が立ち上がる。
これから先、メルトと一緒に活動するとこういうことが増えるんだろうな……。
立ち去ろうと動きだした瞬間、集まっていた村人たちの輪の方から声が上がった。
「あっ、こら! 待ちなさい」
声のした方へ意識を向けると小さな男の子が一人、飛び出してきたところだった。
「お姉さん! おっとうの怪我、治してくれてありがとう!」
「これは……?」
男の子はポケットに大事そうに仕舞い込まれた何かを差し出す。
「お守り! おっとうは治してもらったから、今度はお姉さんが!」
一見すればただの石だ。
だが形の綺麗な、ずっと男の子が大切にしていたことが窺える石だった。
メルトが膝をついて少年の頭に手を乗せた。
「ありがとう」
「うんっ!」
お守りを受け取ると、胸の前に持ってきて大切に両手で胸に抱える。
「ありがとね」
「お姉さん?」
うつむいたまま動けなくなったメルトを心配そうに少年が覗き込む。
「ごめんね、大丈夫」
涙を堪えてメルトが立ち上がる。
「うんっ! ありがとね!」
元気よく少年が手を振ってくれた。
周りの大人たち、特にアヴェルたちがその様子を複雑な表情で眺める。
少年の親は可愛そうなほどおろおろしていた。
アヴェルが俺たちの方に歩み出てきた。
「……」
俺たちの前で立ち止まりそのまま黙ったまま動かなくなる。
「どうした?」
「ありがとう……」
絞り出すように、アヴェルがそう言って頭を下げた。
「あの冒険者たちと、お前たちは違った。俺たちがあんな態度を取ったのに、お前たちは村を守るために戦ってくれた……」
「兄のしたことですから……」
「いや、兄妹だろうと関係ない。お前らがいなければ、いやお前らを俺があのまま追い返していたら……」
そこまでいって、アヴェルは顔を上げた。
「悪かった。ありがとう」
真っ直ぐ、俺たちの目を見てそう告げた。
「……はい」
メルトは下を向いたままそれだけ答えていた。
◇
「ねえ、ライルさん」
「ん?」
村を離れてしばらくしてからメルトが声をかけてきた。
「私との旅は、苦しくなりませんか?」
「何言ってんだ今更……」
「今更というほどの付き合いではないじゃないですか」
それはそうだが……。
今はそうじゃないだろう。
「元々俺の目的へ向かうことが苦しくない道だなんて思ってない」
「あ……」
何を当たり前のことをという話だ。
俺は人から称賛されるために冒険者をやっているんじゃない。むしろ褒められたもんじゃない目的のためにやってるんだ。
「ふふ。そうでしたね……」
メルトの笑顔を久しぶりに見た気がする。
「でも……」
笑いながらメルトが俺の額を指で突いてきた。
「勇者も目指してるんですから、あまり褒められないばかりじゃダメですよ」
なんとなく、メルトは笑っていた方がいいなと思った。
「シールに誇れなくなることはするつもりはないさ」
「ならよかったです。次はライルさんの得意な場所ですからね」
「得意な場所?」
「はい。勇者に滅ぼされた廃村。そこに残った村人たちのアンデッドを浄化しますよ」
「おいおいどこまでやってんだあの勇者は……」
「疫病が流行ってた村を被害拡大を防ぐために焼き払ったとか……」
「めちゃくちゃだな……」
まあもう、めちゃくちゃなおかげでこちらも遠慮せずにいけるならいいと前向きにとらえるしかないだろう。
「どこに行っても今日みたいな反応だろうことを考えると、死んでてくれるくらいがいいのかもしれないけどな……」
「いえ、生きてくれていた方がいいですよ」
メルトの胸元にはあのお守りが握られていた。
「そうだな……」
あの子のおかげで救われた。
そう考えれば、救いのない死の村なんかより、断然よかっただろう。
「はい!」
その証拠にほら、メルトがこんなにも笑っているのだから。
一区切りということで一旦
書けそうなら再開しますが少なくともしばらくは設定がごちゃついたりを防ぐためにも封印します
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