一合
「っ!?」
迫りくるオークたちを【棒術】と【投擲】の変速スタイルでなぎ倒し続けていると、背筋に嫌な汗が流れた。
直感を信じて後ろを飛ぶと、俺のいたはずの地面に大きな穴が開いている。
まるで俺がやった動きを真似するように、仲間のオークがもっていた棍棒が投げ込まれ、地面に突き刺さっていた。
「これがオークキングの力か……」
ゆっくりと、通常のオークの三倍はあろうかという巨体を揺らしながら、オークキングが姿を現した。
「今の俺なら……いけるか?」
倒したオークの数は157体。
その全てから【スキル】とステータスを奪い取っている。
十分戦えるはずだと思うが、いざ目の前にこれほどの存在がそびえ立つと少し身体が震え、足がすくんだ。
『大丈夫……』
「ベクト……?!」
一瞬だけベクトの声がした気がした。
そのおかげで身体が動くようになる。
もう大丈夫だ。
「さて……にしてもどうやって倒したものか……」
対面して改めて感じるオークキングの隙のなさに思案する。
正面から打ち合って勝てるとは思えない。
剣なんて使おうにも刃のほうが皮膚に負けそうなほどだ。
「そういえば……」
ベクトの存在でようやく思い出せたスキルがあった。
──【神獣の息吹】
開放された魔法属性の力を武器に込められるはずだ。
【魔法剣】等の上位スキルと言えるが、性能はそれだけにとどまらない。
「棍棒を借りるとして、全属性、乗せさせてもらおうか」
魔法はろくに使えない俺だが、幸い属性だけはあいつらが全て開放してくれている。
狙い通り、棍棒がまるで【伝説級】の武器のように光り輝いた。
「行くぞ」
「がぁあああああああああああああああああああああああ!」
たった一合。
それだけで勝負は決した。
「くっ……」
もっていた棍棒が握れなくなり地面に落ちていった。
虹色に輝いていた棍棒が、ただの木の塊に戻っていく。
だが……。
「がっ……ぐっ……」
「勝った」
ドシンと、こちらまで揺れるほどの大きな音を立て、オークキングの巨体が地面に倒れ伏していた。
──オークキングのネクロマンスに成功しました
──魂吸収によりオークキングのステータスを反映しました
──スキル【超怪力】を獲得しました
──スキル【種族進化】を獲得しました
「おっ……おおっ! うおおおおおおおおお!」
「やった! 倒したぞ!?」
「オークキングをだぞ!? 信じらんねえ! なあおい!?」
村の男達が大いに盛り上がってくれている。
「あ、ああ……」
アヴェルだけは、複雑そうな、唖然とした表情でこちらを眺め、力なくそうつぶやいていた。
次話で一旦完結つけます




