武器
「はぁ……はぁ……」
流石に疲れても来る。
もっていたポーションを浴びるように飲みながら動いてきたが、腕が重くなってきたのを感じていた。
「まずいな……本番前にこの調子じゃ……」
すでに50は倒してきたと思うが、森の奥から感じ取れるオークキングのプレッシャーには、力が及んでいないことがわかっていた。
「なにか……現状を打開できるものを……」
メルトから伝えられたスキルツリーを頭に思い浮かべる。
パッと思いつくのは【使役】だ。
あの姿のベクトを召喚できるなら、オークキングくらい全く相手として問題はない。
だがその【使役】でベクトを出すのに必要な手順が、まるで頭に浮かんでこなかった。
「次は……【即死】か……?」
もしここで【即死】攻撃を身に着けたとすれば、このオークの群れを素早く片付けてオークキング戦に望めるだろう。そうなれば十分、勝機は見いだせる。
「いや……出来るかどうかわからないスキルに身をあずけるより、可能性が高いのがあったな」
【棒術】だ。
これは剣術よりレベルが高い。
そして棒術、ゴブリンを倒していたのでわかる。これは棍棒でも適用されるはずだ。
「丁度いい武器をぶら下げてくれてるからな!」
倒したオークがもっていた棍棒を奪い取ると、すんなり腕に馴染んだ。
オークを倒す中で取得した【怪力】スキルも俺を助ける。
俺の身長ほどもある特大の棍棒をオークの群れめがけて振り回した。
──オークのネクロマンスに成功しました
──オークのネクロマンスに成功しました
──オークのネクロマンスに成功しました
「よし!」
そして振り回しながら気がつく。
俺は【棒術】以上に……。
「うぉおおおおおおおりゃ!!!!」
──オークのネクロマンスに成功しました
──オークのネクロマンスに成功しました
──オークのネクロマンスに成功しました
【投擲】が圧倒的にレベルが高いのだ。
武器はオークが使っていたものがいくらでも転がっている。
剣で倒すより遥かに効率よく、オークの群れを粉砕していった。
◇
「おいおい……銀級ってのはみんな……あんな化けもんじみてんのかよ」
「まさか……もうあれは十分、金級の実力ですよ」
「なっ!? おいおいまさか……じゃああの【剣聖】と……いや確かにもうあの勢いじゃ【剣聖】並って言われても十分信じるけどよ」
もはや村の方に向かってくるオークはいなかった。
一度ライルに背を向ければ、その瞬間仲間が使っていた特大の棍棒を投げつけられ、命を落とすことになるから。
遠距離攻撃の相手には近接攻撃。この定石はオークたちの中にもあるようで、暴れまわるライルの元へ皆駆け出していく。
だが──
「凄まじいですね……」
スキルの特性を生かした立ち回りに思わずメルトも舌を巻いた。
【鑑定】冥利に尽きると言えばそうだが、こういう事例があるから【鑑定】は重宝されるし、またときに危険視すらされるのだ。
本人の持つ才能など、普通に生きていれば気づくことなく過ごして死んでいくことのほうが多いのだ。
パン屋の娘が騎士の才能を開花させることはない。仮に生まれ持って才能を有していたとしても、適職診断までに可視化されるほどまで強化されていることがまれなのだ。
だからこそ、この国のように10歳で適職診断を行うような場合であっても、ライルのようなパターンが生まれる。
ライルの才能が開花される条件は、信頼できるパートナーの死だったわけだ。
「これなら兄を……いえ、もしかすると勇者に先んじて、魔王ですらも……」
いまや魔王の危険はないとされていたが、それは国民を安心させるため伏せられているだけ。魔王軍は存在するし、一歩間違えればいつでも戦争は起こる。
Bランクを超える冒険者たちには、もしものときに魔王軍と全面抗争へ発展した場合の対応を求めるためにある程度情報を与えられていた。
「兄より先に魔王を倒せたなら、それはもうライルさんを勇者とすることに異論などでないでしょうね……」
静かにそうつぶやきながら、ライルが次々にオークたちを倒し、スキルを獲得していく姿を眺めていた。
百を超えたオークたちも数えるほどに減った。
いよいよ、オークキングとライルが相まみえようとしていた。




