回想編 天職
10歳。
神殿で天職とスキルを授かる日がやってきた。いや正確には授かるのではなく、判明するだけだが。
とにかく今日は街中の子どもがあつまり、一斉に神の祝福を受ける日。そういうお祭りだった。
「ライルはどんな天職がうれしい?」
隣で声をかけてくるのはシール。幼馴染の女の子だった。
「それはもちろん。こいつと一緒に冒険者になって活躍できるやつだな!」
「きゅー!」
ベクトを持ち上げながら答える。
俺の目標はずっと変わらない。冒険者になって、名を上げて、大陸に十人もいないと言われる幻の存在、Sランク冒険者になることだ。
「ふふ。ライルはずっとそうだもんね! なれるといいね!」
「ああ! 剣士でも魔道士でもいい!」
「でも、竜騎士が一番だよね?」
「でもなぁ、ベクトはちょっと小さいからな」
「きゅー!」
抗議するように鳴くベクトだったが、身体が小さいのは事実だし仕方ない。
ドラゴン種の竜の成長は遅い。俺が生きているうちに人を乗せられるようになるのかは全くの未知数だった。
「シールは何になりたいんだ?」
「私は回復系がいいかな。ライルになにかあったら私が治してあげる!」
「じゃあこれが終わったらすぐに冒険者になって、パーティーを組まないとな!」
「ライルはともかく私はなれるかなぁ……」
「なれるさ! シールも一緒に頑張ってきたんだから!」
「そうよね……うん! 頑張る!」
ベクトとは偶然発見した卵からの付き合いだった。
竜種と心を通わせ、幼い頃から共に過ごし、剣もしっかり鍛錬し続けてきた。
そこについてきたシールも、冒険者としての適性は高くなっているのではないだろうか。
「ライルが何を授かるかを見にきたようなもんだな」
「がはは! 自分の息子より街の英雄を見たいか!」
「お前さんもそうだろう?」
「うちの娘に戦闘系の加護はいらんからな。しっかり店を継いでくれればそれでいい」
「ちげえねぇ!」
街の期待を一身に背負っての儀式だった。
先に呼ばれたのはシールだ。
天職は生まれ持った素質と、10歳までの経験により神から与えられる最も自分に適した職業。
一生に一度、このタイミングだけは無料で鑑定してくれるのだ。
街にいた同世代の子どもは十数人だ。
みんながそれぞれ、自分がこれまで培ってきた経験に基づく天職を授かっていた。
「良かったぁ……これでパン屋が継げる!」
「俺は親父よりいい剣を打つからな!」
そしてシールの番。
街の期待を背負ったのは俺ではあったが、俺にずっとついてきたシールも実は、大人顔負けの戦闘技術を身に着けていたりする。
注目度の高さで言えば他の子どもよりも高いことは間違いなかった。
「これは……!」
「あれ? 私何か問題が!?」
神官の反応に慌てるシール。
ここまで何人も儀式を滞りなく済ませてきたというのに、突然のトラブルに周囲がざわめきだったところだった。
「貴方に与えられた天職は、【剣聖】です」
「けん……せい?」
「はい! 【剣聖】です! 最後にこの国に現れたのはもう150年も前! その当時の剣聖はSランク冒険者になった後、国の騎士団の基礎を築かれた大英雄です!」
「え、えっと……すごすぎてよくわかんない」
シールが困った顔で俺を振り返っていた。
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