模擬戦
怒り狂ったダッドは俺の胸ぐらを掴んでこう言う。
「いい度胸だ。よし、表に出やがれ」
「いやいや、俺が喧嘩売ったみたいになってるけど?」
「大丈夫ですよ? ライルさんなら」
がんばれっ! みたいにぐっと手を前にして応援しているが全部あんたのせいだからな?!
とりあえずダッドの手を振りほどく。俺に反撃されると思っていなかったダッドが驚いた顔をして固まっていた。
その隙にメルトが俺の方へやってきて耳元で俺にだけ聞こえるようにこう告げる。
「悪い話ばかりじゃないですよ?」
「どういうことだ?」
「私は一応Bランクですから、これからこういうのは増えてくると思います」
なるほど……。
ちょっと想像したがたしかに想像のつく話ではあった。Bランクの超一流冒険者がEランクのテイマーと組む。ダッドのように俺の方が! となる冒険者は少なくないだろう。
そうでなくともやっかみで攻撃をする人間などが出てくることは容易に想像できた。
「なので、ここで一度、今のライルさんの実力を見せつけておこうかと」
「いや……実力も何も……」
「大丈夫です。私が保証します」
一応ネクロマンサーとしてあまり騒ぎにならないようにしてきたんだが……まあいいか。
それにBランクとパーティーを組めばすぐにランクも上がるだろう。なんせこれで俺はCランク相当まで依頼を受けられるようになる。そうすると当然、ランクアップ基準を満たすのも早くなるし、俺が強くなるのも早くなる。
飛び級みたいなものだ。
「わかった」
そう考えればまあ、メリットとデメリットを天秤にかけて、悪い話ではないかも知れない。
◇
「それではこれより、Cランク冒険者ダッド対Eランク冒険者ライルの模擬戦を開始する!」
なんでこうなったんだろうなという思いも頭をよぎったがもう言っても仕方ないだろう……。
周囲の評価はもはや同情的ですらあった。
「おいおい……Eランクって……」
「でもこれ、上位ランクからは挑めねえ仕組みだったよな?」
「相当命知らずか、なんかあったか……」
そんな中、元凶だけがニコニコ笑ってのんきに「ふぁいと!」と声を上げていた。
メルトである。
「大丈夫ですよ!」
「まあ大丈夫だけど……」
ダッドの身のこなしを見てその点は確信していた。
Cランク冒険者の基準は単体で十人分の強さ。ダッドは確かにそれだけの力はあるだろう。
横にでかい体型ではあるが、その見た目通りにパワーはある。
仮に一般男性が三人で力比べをしても負けないだけのステータスだと思う。
だが、それでも負ける気がしない。
「おいおい、いいのかぁ? 今なら謝れば許してやってもいいぞ?」
むしろ今の実力を測るにはちょうどいいかもしれない。
返事代わりに訓練用の刃を潰した剣を構える。
「舐めやがって!」
ダッドも剣を構えた。
審判のビヨンドの合図で、模擬戦が始まった。
「はじめ!」
「死に晒せ! どらぁあああああ」
ダッドが巨体を揺らし、剣を上段に振り上げながら走り込んできていた。
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