666通目のメール
どうも。初めて短編というものを書いてみました。ためしに、という感じですので、感想・評価などをよろしくお願いします。
「666番目のメール」
666。
確か、ヨハネの黙示録がなんとかで、そんな数字があったように思う。オレの乏しい知識を頼りにすれば、幸運のしるしではないはずだ。だが、そんな事、オレにはどうでもよかった。──はずだったのだが。
一昨日、オレはこう質問された。
「この前のテスト、合計点何点だった?」
クラスメイトからの質問に、オレは何の気なしに答える。
「ええとだな……ちょっと待てよ。……666点」
その時点では何も考えていなかった。質問してきた奴も、別になんとも思わず、自分の点数と出来を話し始めた。
その翌日も、666に関係することがあった。
「あれ、今日何日だっけ?」
部活が終わり、家へ向かって友達と肩を並べて歩いていると、ふとあるテレビ番組の事を思い出し、そいつに日付を聞いた。
「今日? 6月6日でしょ?」
「あっ。じゃ今日じゃねえか、JBSの特番」
「6時からの? 僕も見ようと思ってたんだ、それ」
6月6日6時から。その時も、何も考えずにただ過ごしていた。
だが、さすがに今日もその数字を目にすると不思議に思った。
最近出たゲーム、「燃やせ狩魂!! the 3rd」のプレイ時間が66時間6分だったんだ。オレはどこかで聞いたような数だなと思い、辺りを見回すと、壁にかけてあったカレンダーに目が行った。昨日は6月6日だ。その時、昨日の会話が脳裏に煌めいた。それと同時に、一昨日の会話も蘇る。テストの合計点、666点。昨日は、6月6日6時……。そして今日は66時間6分のプレイ時間……。全て、「666」だ。
オレは首をひねった。これは単なる偶然なのか? 偶然にしては出来すぎじゃないか。何かに取り付かれているのか? 少し心配になったオレは百科事典を取り出し、「ヨハネの黙示録」について調べ始めた。
……あった。ふむ、ふむふむ。なるほど。「666」ってのは獣の数なのか。不吉……らしいなどうも。何だコレは? オレの運が尽きたって証明かい? しかも皮肉なことに、それが載っているページ、666ページだ。コレは本当にヤバイかもしれない。何か恐くなってきたぞ。
その時、何かが小刻みに震える音が耳に入ってきた。オレは驚いて音のした方を見た。正体は分かっていたが、今みたいな時にこんな音がすると、驚くぜ?
オレはおもむろに携帯を開いた。一通のメールが受信されていた。その内容はこうだ。
『悪ぃ、英語の宿題何ページだっけ?』
ふうむ、どこだったかな。オレは宿題のページを確かめ、携帯に打ち込む。そして、送信。即効で返信が来る。
『サンキュー♪ ちなみに受信メール1000通目!』
おっ、ちょっと嬉しいじゃないか。さて、オレは今どれくらいなんだろうか。
……663通、だと? 後三通で666通じゃないか! コレはやばいぞ。いつもだったら何も気にしないが、今となっては大騒ぎだ。後三通で何が来る? 何が起こる? 待て、誰だ? 三通目は誰だ? そいつはもしかしたらオレにとって不吉を呼ぶ者なんじゃないか?
言いようのない不安に襲われた。オレは恐くなって携帯をベッドに放り投げた。
くそっ、とにかく、今日は寝よう。
次の日。オレは学校の机でうなだれていた。
「何でそうなるんだよ……」
唐突だが、オレには好きな女子がいる。時々メールするが、それほど親しくもない。まあ、同じクラスなわけだが……。で、どういう風の吹き回しか知らないが──もしかしたら「666」の連発で不吉になってたからか──、オレはそいつに告白する事になった。全く、罰ゲームだぜ? 断ることは出来ない。事もあろうか、オレが提案したんだからな。ちくしょう。純粋無垢な高校生が、何を中学生みたいなことやってんだか。しかも、今のオレの運気は全くの0と言っていい。余計な運を「666」に使ってしまった。どうすんのよ、オレ!
そして遂に運命の時がやってきた……。放課後の校舎、教室の前。人影は少ない。
目の前に、アイツがいる。うう……無理だ。絶対無理だよ! 心拍数が異常なほどまでに上がる。だが、ここで変な姿を見せれば、振られる確率が増加するに決まってる!
「えと……何?」
口を開きやがった! こう聞かれたら黙ってるわけには行かない! もはや後戻りは出来ないんだ……とほほ。
「あのさ……前から思ってたんだけど」
そろそろ察したようで、彼女は緊張した表情だ。オレはゆっくりと、次に続く言葉を口から発した。
「お前と、付き合いたい……」
うわあああっ! オレの口からまさかこんな言葉が出ようとはっ。穴があったら入りたい。いや、穴じゃなくても、なんでもいい。この場から離れたい!
「ゴメン、ちょっと考えさせて……」
そう言って向こうの方から走り去っていった。彼女が見えなくなると、オレはその場に力尽きたように倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
今日返事が来るにしても、明日から会いづらいじゃないか。うう……。まだ振られたわけじゃないのに、何だこの悲しさは。こんな事なら罰ゲームなんて言うんじゃなかった……。
それからオレはずっと落ち着かず、ご飯のときも食欲がなく、母さんに心配された。ご飯から部屋に戻ると、一通のメールが着ている。664通目のメールだ。666通まで、後二通。送信主は、今日オレと一緒に遊んでいた(例の罰ゲーム付きの)奴だ。
『どうよ? 返事は?』
今返信を送れば、必ず数通は続くはずだ。つまり、666番目のメールはコイツという事になる。大丈夫だよな? さすがにアイツからの返事が666番目にはなってほしくない。
『まだ。来る気がしない。ってか明日からどうすんのよ、オレ(泣)』
送信ボタンをプッシュ。オレははぁーっと長い息を吐き出した。さっきから緊張しっぱなしだな。すぐ返事が返ってきた。コレは665通目だよな……。
『どんまい(笑) さすがに今日中には来るだろ』
今日中? オレは時計を見た。今は夜の十時を過ぎた頃だ。アイツ……大体、いつも十一時くらいに寝るっつってたような……。
嫌な予感がした。まさか──。
携帯が鳴った。666通目のメールだ。唾を飲み込む。そっと、携帯を開く。深呼吸。……誰だ!?
息が出来ない。声が出ない。心臓が信じられないくらい早い。
「じょう……だん、だろ?」
小さく声が漏れた。思考が停止している。オレは微動だにせず携帯の画面を見つめた。666通目のメール。送信主はアイツだった。嫌な予感が的中した。それを見た瞬間涙が出そうになったが、その文面を見た瞬間、時間が止まった。
『あたしも付き合いたい。ずっと考えてたケド、やっぱりあんたが好き』
ゆっくりと時が動き出す。笑いがこぼれる。
何が666だ? 何が不吉だって? 何が獣だ? ふざけんな神様! 単なる偶然だったんじゃないか!
「ハハハハハッ」
オレは狂ったように笑い出した。馬鹿みたいだ。666なだけであんなに不安になって。みんな、666は不吉な数字なんかじゃないぜ。幸運の印だ! あははははっ。
それから、オレは彼女と付き合い始めた。二人が暇な休日にはゲーセンとか行ったし、この前は映画も見に行って、傍から見れば上手く言っているように見えると思うが、実は付き合い始めて確信した事がある。
アイツのわがままさは尋常じゃなかった。オレは大抵、彼女に振り回されているんだ。
そう、まさに彼女は獣のようだった。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。




