英雄の時代
とても短いお話です。ある程度の物語の拡張性を持たせましたが、続編を作るかどうかは分かりません。
シェーンは久しぶりに余裕をもって家を出た。その朝はひどく静かであり、しかし人々はいつも通り歩いていた。雨に濡れた歩道は靴と接するときにピチャピチャと音を立てる。近くのサンドイッチショップを覗いた。珍しく店内に客はおらず店長のマイケルはせっせとサンドイッチを陳列している。シェーンは重いドアを開けた。
「いらっしゃい。おや、シェーンじゃないか。ギリギリ教室に滑り込むのは飽きたか?」
「まあね。ピーナッツバターのを二つ」
店長はそれらをケースから取り出し、レジの横に置いた。
「4ドル」
シェーンは代金を財布から取り出し、店長に渡した。
「今日はここで食うか?」
「ああ、そうするよ」
サンドイッチを持って近くのテーブル席に座った。バックパックを反対側の椅子の上に置き耳の部分を少しかじった。
「今日の新聞見たか?衝撃的だぞ」
店長は奥に行きその新聞を持ってきた。見出しにはこう書かれている——スーパーヒーローの死。英雄の時代の幕開けを担った者はスターヴィン通りの路地裏で無残な死を遂げた。
6年前、市警内の集団汚職の発覚により始まった暗黒時代。犯罪多発都市と化したニューアドモントに突如現れたのが彼だった。ダークボーイと名乗る男は黒いコンバットスーツ、カウルに身を包み自警活動を始めたのだ。それから続々と彼の真似をするものが現れ犯罪率は少しずつではあったが確実に低下したのである。
「彼の正体を報道しないのは新聞社が敬意を示したってことかもな」
「ひどい話だけど…この町にはまだ沢山ヒーローがいるよね。彼らが敵を討ってくれるよ」
「まぁ最後まで読め」
新聞を手に取り最後まで目を通した。遺体の頭部には殺害に使われたであろう刀が突き刺さっていた、と締められている。
「痕跡をわざわざ残すなんて、ヒーロー狩りの合図ってのは考えすぎかな」
「まぁ、少なくとも他の連中は震え上がるだろうな。同胞が死んだんだ」
シェーンは一つ目を食べ終え二つ目を食べ始めた。不味く感じるなんてことはなかった。いつもの変わらない、シンプルなピーナッツバターとパンの味。
「お前は彼らに憧れたりしないのか?」
店長は他のサンドイッチを陳列しながら訪ねた。
「ないね」
食べながら言葉を返した。覆面を被り犯罪者を倒す——それだけでは本当のヒーローにはなれない、というのがシェーンの考えであった。
「でも、臆病者が口を出すべきじゃないってことくらい分かってるよ」
シェーンはサンドイッチの最後のひとかけらを口に放り込んだ。
「じゃあもう行くよ。自販機でコーヒーを買わなくちゃ」
「良い一日を」