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主従(中)

 それから間もなくして再び姿を見せたカティアは、その雰囲気を一変させていた。ただ先程までが薄布一枚の格好であったのだから、それも当然なのかもしれない。今の彼女は隣に立つカーネリアとほぼ似通った服装に身を包んでいたが、それがブルメリアで城勤めをする侍女のものであることを奏が理解するのに、そう時間はかからなかった。

 なぜその服装なのかという疑問は置くとして、裕福な国であれば話は別かもしれないが侍女という立場の者が着る服の素材が上質であるはずがなく、色合いも地味なものだ。だが、カティアが身に着けるとそれすらも高級感が(ただよ)って見えるのだから不思議としか言いようがない。


「この格好は如何(いかが)でしょうか、奏様?」


 扉が開いた瞬間には沈痛な面持ちをしていたカティアだったが、部屋に戻って来て間違いなくそこに奏の姿があることを確認すると、ほっと安堵(あんど)の表情を浮かべる。そしてそのまま小走りに駆け寄ると、手を少し伸ばせば触れられるほどの距離でようやく立ち止まり、自らの装いへの感想を求めた。


 「既にあったものを仮で仕立てただけですから、あまり無理に動いてはいけませんよ」

 「・・・・・感謝します、ソフトクレス侍女長」


 その様子を苦笑交じりに見ていたカーネリアから注意が促されるが、先程の奏の一言が功を奏したようで、わざわざ振り返ったカティアは僅かだが頭を下げて短く謝辞を述べた。

 そもそも多少の行き違いがあったというだけであって、彼女たちが反目しなければならない理由など何一つ存在しないのだ。確かにカティアの奏至上主義が話をややこしくしてしまった感はあるが、ブルメリアの側に奏を害するつもりなど無かったのだから、いつまでも(いさか)いを続ける必要は無い。そう考えると最初に行き違いを生じさせた者に責任があるわけだが―――――それについて言及することで、また別の諍いが発生する可能性は十二分に考えられた。触らぬ神には祟り無し、とばかりに奏が口をつぐんだのは言うまでもない。


 「ほら・・・・・こういう時こそ、殿方は気の利いたことを何か言うべきですよ、八代様」


 奏の心情を知ってか知らずかカーネリアが声を掛けてくるが、それもまた彼にとっては触れたくない話題の一つだ。

 第一そんなにも気障(きざ)台詞(せりふ)が言えたり、女性の気持ちを汲み取って接することができていたなら、奏の交友リストにはもっと多くの女性の名前があるはずだ。三十歳の手前にもなって今だに結婚に絡んだ話など一度も出ず、そればかりかつい最近まで付き合っていた彼女にフラれるような甲斐性無しに、即興(そっきょう)で女性を褒めろというのはあまりにも無理難題が過ぎるというものだ。


 「え・・・・・あ、うん。似合ってる、とっても」


 所詮は、この程度である。更に言えばこの場合は誰が見ても上質とは思えない、地味な侍女の服をベースにして女性を褒めるのは下策(げさく)の極みでしかない。それよりもそんな服を着てもなお(かげ)ることのない彼女の美貌をストレートに称賛した方が、月並みだとしてもまだ好印象を持たれるだろう。

 だが、このカティアという女性に関してはその一般論が当てはまらなかった。主と定めた奏の口から出たつまらない褒め言葉一つであっても、『その他大勢』が万の言葉を尽くした美辞麗句(びじれいく)に勝るというのが彼女である。少し照れたような様子で『ありがとうございます』とだけ呟くと、花も恥じらうほどの満面の笑みを浮かべる。

 しかし、その直後に何事かに気付いたような様子を見せたカティアは、ゆっくりと後ろを振り返ってカーネリアに声を掛けた。


 「侍女長、やはりこの服は胸の辺りが少しきつくて苦しいのですが」

 「それでも今現在城にいる侍女の中で、一番胸の大きな娘の服のスペアを借りてきたのですよ?・・・・・それが苦しいと言うなら、貴女の胸が大き過ぎるんです」


 意識的に視界の中央に入らないようにしていたが、それは奏も気付いていた。目測(もくそく)で胸のサイズを計るような、場合によっては変質者と呼ばれても反論できないような特技は持ち合わせていなかったが、特定の一部分だけが張り詰めてボタンが弾け飛びそうになっているのだから分からないはずがない。


 「私の胸、そんなに大きいでしょうか・・・・・ついでに言わせていただくと、逆に腰回りがずいぶんゆったりしているのが気になります」

 「貴女のウエストが細過ぎるんです。脚も長過ぎです。後できちんと採寸(さいすん)して新しい服を仕立ててあげますから、それ以上は言わないように。うちの侍女たちが可哀相です」


 当然ながらあまりにも急だったために誰かの服を借りてきてカティアに着せたのだろうが、そもそも彼女のために(あつらえ)えた服でなければサイズが合わないことは明白だった。

 まず、カティアは女性としては背が高い部類に入る。奏自身は170センチを少し下回るくらいの身長しかないので男性としてはやや背の低い部類に入るが、並んで立った感じではその奏よりも僅かにカティアの方が高いことから、おそらく170センチは超えているだろう。彼女自身は触れなかったが本来ロングタイプであるはずのスカートの丈が足りていないのは、カーネリアが胸のサイズを重視して服を調達してきたことが理由だと思われた。さらには胸の大きさは言わずもがなだが、位置が高いだけでなく細くくびれた腰など男性誌を彩るグラビアアイドルたちが見劣りするほどの抜群のプロポーションである。


 「分かりました。宜しくお願い致します」


 言葉だけで捉えれば、先程までのカティアの発言には敵意があるのかとさえ感じられるものだったが、今ではそれが一変し、ごくごく普通に会話が成立しているように見える。しかしそういった言葉を発しつつも、すすす、と奏に当たり前のように近付き、その隣まで行ったところで躊躇(ためら)いなく手を繋ぐのだから言葉に重みが無いと言われても仕方がない。

 だがもうじき夜が明ける頃合であったのと、徐々に面々がそういったカティアの行動に慣れや諦めが生じてきたこともあってそれをとがめる者は誰一人としていなかった。その時点で今後に関する話の詳細はまた後ほど、という流れになり、カティア以外の者はそれぞれの自室へ、彼女もまた偶然にも使われていなかった奏の隣室をあてがわれることになってこの日は解散となったのだ。

 実際の所、この後部屋に戻った奏の身にカティアが絡んだちょっとした事件が発生していたのだが―――――それはまた、別の機会に語られる話である。



 少しだけ湿り気を含んだ風が頬を撫でていく感覚と優しく体を揺さぶられる感触に、浅いまどろみの中にあった奏の意識が覚醒する。


 「・・・・・様、奏様」


 それと共に遠くから聞こえてくるカティアの声。以前に何度も体感したこの状態を『ああ、またか』とつい流してしまいそうになり、しかし先程までその彼女の膝枕でうとうとしていたことを思い出した奏は閉じていた(まぶた)をゆっくり開く。


 「ん・・・・・いけね、寝ちゃってたか」

 「はい、よくお休みでした。私としては奏様の寝顔を存分に堪能(たんのう)できますので、もうしばらくこのままでもよかったのですが・・・・・」


 その視線の先にあったのは、変わらず穏やかな微笑みを湛えたカティアの姿だった。奏からすれば自分の寝顔などを見ていても何も楽しいことはないだろうと思うのだが、そこに触れたところで彼女から返ってくる言葉は大方の予想がついていた。容姿の整い方と反比例するようなカティアの整然としない理論を展開されても、奏には到底理解が出来ない。だとすれば、何も言わないという選択が最も賢明であるように思えた。


 「少々、雲行きが怪しくなって参りました。雨に降られて風邪をお召しになっては大変ですので、工房にお戻りになられたほうが宜しいかと」


 それを聞いて空を見上げると、確かに先程までと違って薄暗い雲が広がり始めていた。雨季が終わったとは言っても、まったく雨が降らなくなるわけではない。日の光が(さえぎ)られているせいか少し肌寒さを感じる今の状態で雨に濡れることになれば、彼女の言うように風邪をひいてしまうことはじゅうぶんに考えられる。

 先程まで眠っていたからなのか少し重く感じる体を無理やり起こし、服に付いていた草を軽く払うと、奏は同じように立ち上がっていたカティアへと声を掛ける。


 「そうだな、急いで戻ろうか」


 ロングタイプのスカートでは走りにくいだろう、と気を遣って多少の加減をしつつ走り出したものの、普段からの運動不足が(たた)ってか奏はすぐに息を荒くする。しかしその後ろをぴったりと付いて走っているカティアはまったく息を乱さず、それどころか涼しい顔をしているのだから、これではどちらが気を遣うべきなのか分かったものではない。

 ようやく城の外周部に辿り着き、いつ降り出しても差し当たって濡れることはないという場所まで二人が移動したところで、元からの最大値が低い奏の体力は底を尽いてしまった。さすがにその場に座り込んでしまうような無様な姿を(さら)すまいと何とか(こら)えたものの、そのすぐ隣には平然とした様子で(たたず)むカティアの姿があるのだから、やはりどうにも情けなく映ってしまう。

 日々の作業の合間にランニングでもして、少しずつでも体力をつけた方がいいだろうか―――――などと奏が自らの体の衰え具合を本格的に悩み始めた、その瞬間。

 ぽつり、と一粒の雨が落ちてきたのを契機として、そこから断続的に雨粒が空から降り始めた。まるで二人が濡れることのないように、今の今まで待っていてくれたようなタイミングであったが、徐々に強まっていく雨足は容赦なく激しさを増し、地面へと跳ね返って飛沫(しぶき)を上げるほどのものになっていった。


 「ふぅ、間一髪だったな」

 「はい。間に合って宜しゅうございましたね」


 城の外周部は屋内であるものの一部は吹き抜けのようになっており、外部に対しては強固な壁に覆われていたが、内部は柱が建っているだけの回廊のような構造になっている個所(かしょ)がある。そのために弱い雨であれば問題なくとも、こうも強い雨では飛沫が吹き込んできて濡れてしまうような場所もあった。

 一番の壁際を歩いていてもその状態である。こういった場合、これまでの言動から考えて外側を歩いているのはカティアだと誰もが容易に想像できる所だが―――――実際は、奏の方が

そちら側を歩いていた。

 もちろん、降り始めた段階で彼女は何気ない動作で壁のない側へとその位置を移そうとしていた。だがそれよりも早く、奏はカティアの腰に手を回してその体を壁側へ、濡れずに済む側へと移動させていたのだった。普段であれば事情がどうあれ女性の体に自分から触れに行くような積極的な行為とは無縁の奏だったが、彼女の行動原理が分かり易いからこそ、さすがに甲斐性無しの彼でもこういう時にカティアがどういう行動に出るかということを瞬時に察知できた。

 しかし同時に、単に言葉で言ったところでそう簡単に聞き入れないことも分かり切った話である。だからこそ自分らしからぬ、少々大胆な行動だと分かっていても、強引にそういった体勢へと持っていったのだ。案の定、その腕を振りほどいてまでカティアが位置を移すことはなく、奏が機工士としての作業を行うためにあてがわれている場所、工房に着くまで彼女は大人しく、されるがままの状態だった。

 工房に入ったところで、いよいよ恥ずかしさの限界に達した奏はわざとらしく大きな伸びをしながらカティアから離れ、先程まで手掛けていた機工の修理作業へと戻る。

 彼らの部屋に併設されたその空間は、個人の居室とするには不必要に広いものだ。それはまるでこういった作業をするために作られたかのようで、もしかするとこうして奏が現れる以前に機工士がいたのではないか、とさえ思える。しかし聞く限りでは建国以来ブルメリアに機工士の存在があった記述は無いというのだから、何とも不思議な話である。


 「何か軽食をご用意しますので、少しだけお待ち下さいませ」

 「ああ・・・・・そういえば朝食の後から何も食べてないんだったっけ」


 さっきまでの自身の行為を思い返すと、顔から火が出そうになる。鏡に映せばそれと分かるほどに赤面しているであろうことを隠すために、奏はカティアの方を向かずに言葉を返す。そのために彼女がどんな表情をしているかも分からなかったのだが、実際のところはカティアもまた頬を朱に染めていた。

 しかしそれは、奏とは理由が異なるものだ。その中に羞恥(しゅうち)のようなものはなく、むしろ嬉しさの感情があったが、同時に彼女の自身に対する怒りのようなものが込められていた。

 奏と出会ってからというもの、直接的なスキンシップは常にカティアの側からであった。もちろん拒絶されるような素振りがあればそれを自粛(じしゅく)するくらいの分別(ふんべつ)は持ち合わせていたが、彼女の主観において奏は、ようやく巡り逢えた主は心根が優しく、従者である自分のそういった()(まま)を快く受け入れてくれている。だからこそ彼女はほとんど遠慮することなく、自らの気持ちが(おもむ)くままに彼に触れることをしているのだった。ましてや如何(いか)なる理由があるにせよ、彼の側からカティアに触れてくれたという事実は、彼女の方から奏に触れることで感じる安心感や幸福感とは比較にもならないほどのものだ。これを喜ばずして他に何を喜べというのか。

 だがそれと同時に従者である自分が、主である奏に気を遣わせて雨に濡らしてしまったことに自らへの(いきどお)りを禁じ得ない。それは口に出したところで誰が聞いても『大袈裟(おおげさ)だ』という反応を返すところだが、『誓約』を交わしたカティアの思考は他人には理解されないものであることは分かっている。いや、そもそも理解を求めようとも思っていなかった。おそらく、それを共感できるのは彼女と立場を同じくする者だけだからだ。

 しかし喜びと怒りという相反(あいはん)する感情をせめぎ合わせながらも、作業に没頭し始める奏の背中を見つめていると、それすらもどうでもいいことだと彼女の中では処理をされてしまう。自分の感情云々(うんぬん)よりも、目の前にいる主への奉仕を優先しなければ、と。


 「はい。しかし夕食も近いので、つまむ程度のものを準備致します」

 「うん、ありがとう」


 数日前に部屋を用意されてから彼女の中では多少の、一般的には相当な無茶を聞き入れてもらい、その構造を大きく作り変えてもらっていた。

 この建物の立地として、この工房は城から離れた場所に建てられている。ブルメリアの歴史の中で、ある時期においては離宮(りきゅう)として使われていたこともあったほどに城の全体からしても大きな部類に入る建造物である。ただ近年しばらくの間は使用されておらず、それこそ先代国王の蒐集物(しゅうしゅうぶつ)倉庫のように扱われていた経緯もあって内部は乱雑な状態で放置されていた。以前に奏一人の生活空間を確保するためだけでも城の侍女が総出で数日かかったというのだから、その荒れ方は推して量れる。

 現在二人がいる工房の隣という配置だったこともあり、離宮時代に王族が使用していた部屋が奏のものとされており、カティアの部屋はその時に王族の世話役だった侍女のものがそのまま転用されていた。

 しかしそこで彼女の琴線(きんせん)に触れたのは、奏の部屋と工房の間には扉があって行き来が容易であるというのに、カティアの部屋とは厚い壁で遮られ、一旦廊下を経由しなければお互いの部屋に入ることが出来ないという構造そのものだった。

 普通に考えれば、ごく当然のことである。仮に世話役の侍女が王族のお手付きだったとしても、立場的に好き勝手に行き来出来るような造りにするはずがない。廊下から奏の部屋に入るための扉には鍵が掛かるようになっているのに対してカティアの部屋には鍵が無いことから、その事情も(うかが)い知れるというものだ。


 「それで、その・・・・・食事がお済みになりましたら」

 「どうしたんだい?」

 「また、カティアに御情けを頂戴しても宜しいでしょうか?」


 だが『構造を大きく作り変え』たのは、カティアの部屋に鍵を付けたなどというレベルでは無かった。それくらいであれば簡単な作業程度のものであるし、構造まで話が持っていかれることではない。


 「え、えぇと・・・・・」

 「・・・・・駄目、でしょうか」


 あくまでも先程までの配置は数日前のものであり、現在のものとは異なる個所が多い。

 まず廊下にあった奏とカティアの部屋に入るための扉のうちの一つは完全になくなっており、壁で塗り固められていた。もちろん、扉が外されているのはカティアの部屋の方である。

 それでは彼女の部屋が入ることのできない密室になってしまったかというと―――――当然そうではなく、今も自由に入ることが出来る。

 ではどこから、というのは完全な愚問でしかない。奏の部屋とカティアの部屋を隔てていた壁のうち、半分近くが綺麗に取り払われているからだ。つまり若干の区切り自体は残っているものの、奏とカティアの部屋が一つになってしまい、同じ空間で寝食を共にするようになっていた。

 さすがにこの改築にあたってはエメラルダが難色を示したが、『あること』から止むを得ないと判断され、現在に至っているというわけだ。


 「いや、別に駄目ってことは・・・・・ないけど」


 あの夜の話し合いの後に各自が部屋に戻って遅すぎる床に()き、迎えた翌日のことである。さすがに奏が目を覚ましたのは、昼を過ぎた頃だった。少し前は仕事で日付が変わってから帰宅するのも珍しくなかったが、この世界に来てからは比較的規則正しい生活を送っていたのだから無理もない話だ。ましてや目覚ましのようなものも無かったので、ついつい寝過ごしてしまっていた。

 はじめに半分くらい覚醒してうっすらと目を開けた時、(かぐわ)しいとしか形容できない香りを鼻先に感じていた。それが昨晩ずっと彼の(そば)にあった女性のものであることに気付いた時点で自分の状態を理解するべきだったのだが、その時は眠気に負けてもう一度目を閉じてしまったのだった。だが、寝返りを打とうと体を動かそうとしたところ、何かで拘束されているかのようにまったくそれができなかった。

 今まで経験したことが無かったが、これが『金縛り』というものか、と動かすことが出来た瞼をこじ開けたところで―――――衝撃の光景を視界に捉えたのだ。


 「か・・・・・カティア!?」


 昨晩、部屋の前で別れたはずのカティアの姿がそこにあった。

慌ててお互いの姿を確認すると服を着たままであったことからほっと安堵したのだが、同時にどこか残念なような気がして複雑な思いのまま現状を把握できずに混乱するばかりの奏の胸の中で、その原因である彼女がすっと顔を上げる。


 「おはようございます、奏様。どうされましたか?」

 「どうもこうも・・・・・何で俺の部屋に!?」


 目が覚めて一番にカティアの美貌を見るのは悪い話ではないが、状況が飲み込めなかった。確かに眠る前に扉の鍵は閉めたのだから、彼女が部屋に入って来られるはずがないのだ。鍵をこじ開けた可能性も考えられなかったわけではないが、さすがにそこまでする必要性があるとは思えない。

 それにしても、無意識のうちに彼女が部屋に入ってくればベッドに潜り込んでくるのは当然の帰結と言っているようなものだが、言い回しに気を遣えるほど奏の思考は平静を保っていられなかったのだ。

 泡を食ったような、という表現がまさに当てはまるような狼狽(ろうばい)ぶりをよそに、当のカティアが返した言葉はあまりにも耳を疑うようなものだった。


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