(9) 文の声
ハテナの通信機に、BASE-9から、コンタクトを求めるシグナルが届いたのは、その時でした。
ハテナはビーム砲の出力をいったん落として、回線を開きました。
すぐに、聞きなれたテッペン大佐の声が、耳に届きました。
〝UM-03、直ちに攻撃を中止して、BASE-9に帰投せよ。繰り返す、直ちにBASE-9に帰投せよ。〟
ハテナのモニターに、テッペン大佐の姿が映りました。地球から、BASE-9を通じて送信された映像でした。
「お前は僕の最高司令官ではない。それに、お前は僕の味方でもない。」
ハテナは、通信機を通じて、自分の音声をBASE-9に送りました。
すると、テッペン大佐の横から、研究所長のシレットが顔を出して言いました。
〝お前にインプットされた指令は敵が送りつけたものだ。トアル軍からのものではない。送信元を調べれば、それが分かるはずだ。〟
「どこから送られようと、認証を通過した正式な命令だ。僕はそれを実行する。」
ハテナは再び、ビーム砲の照準をBASE-9に合わせました。
すると、テッペン大佐が、
〝最高司令官ならここにいるぞ。任務は直ちに撤回される。〟
と言って、画面を退きました。そこには、椅子に腰かけて、じっとこちらを見つめる、悲しそうな文の姿がありました。文は両手をきつく握りしめて、何か言いたそうにしていましたが、言葉にならない様子でした。
ハテナは、文の映像に、釘づけになりました。文の胸には、敵を意味するレッドフラグが灯っていました。
テッペン大佐が、文の肩を小突いて、小声でこう言いました。
「さあ、UM-03に攻撃を止めるよう命じるんだ。そして、BASE-9に帰投するように言え!」
文は、モニターに映し出された、宇宙空間に浮かぶハテナを、震えながら、一心に見つめました。ハテナは、ビーム砲を、こちらに構えて、身動き一つしませんでした。
その時、かすかに、ハテナのつぶやく声が聞こえました。それは、
「ふみ……ふみ……ふみ……ふみ……ふみ……。」
と、自分の名前を、機械的に呼び続けているのだと分かりました。
文は、ハテナがあまりに可哀想で、声を絞り出すように、
「ハテナ。」と声をかけました。
文の声が、ハテナの耳に届いた瞬間、ハテナの身体を、激しい稲妻のような衝撃が走りました。