(8) 五分間の戦闘
〈ハテナ、ほら、花が咲いたよ。日々草の花。〉
〈ハテナは、何の花が好き?〉
〈きれいでしょう、ハテナ。〉
〈日々草の、花言葉はね、ハテナ……〉
〈ハテナ、ハテナ、ハテナ……〉
暗黒の宇宙空間に、ハテナは一人、浮かんでいました。
周囲に散りばめられた無数の星は、凍ったように、またたき一つしません。そして、音も、一切ありません。ですから、ハテナが動かなければ、あたりは、時間が止まったように見えます。
ハテナのモニターに、さっきから、警告のメッセージが表示されていました。何かが、こちらに近付いて来ていました。
ハテナは、じっとして、軌道に身を任せていました。そして、いつでも点火できるように、BIRDのエンジンに指令を送りました。
やがて、行く手に、いくつかの機影が映りました。それは、望遠機能で見た映像でしたが、十一機の、小型戦闘機だと判りました。丸い胴体に、十字に翼が付いた、コンピューター制御で動く、自立型の無人戦闘機です。
それらが、均等に並んだ星のように、行く手に散らばって、ハテナを待ち構えていました。
ハテナの目は、その先に浮かぶ、大型宇宙船BASE-9の機体も捉えていました。BASE-9は、普段、外装に灯している灯火を全て消して、紫色の扁平な姿を、地球からの反射光にぼんやりと浮かび上がらせていました。
ハテナは、BIRDの出力を全開にして、まっすぐに無人戦闘機の防衛網の中に飛び込んで行きました。
戦闘機の放つ、ビーム砲の熱線が、音もなく幾筋も、ハテナのすぐ脇をかすめて過ぎました。ハテナは鋭く旋回しながら、手近な一機に狙いを定めると、BIRDの二門のビーム砲を、角度とタイミングを変えて発射しました。
無人戦闘機は、初弾を回避したところへ、二射目が到達したために、機体の上部を撃ち抜かれて、爆発しながら散り散りに弾け飛びました。
「何にも分からないんだ。」
無人戦闘機のコンピューターには、ハテナの人工知能の技術が、応用されていました。ですから、ハテナには、それらの行動パターンが、手に取るように分かりました。一方の無人戦闘機は、研究所にいたころのハテナのデータしかインプットされていないので、ハテナの動きを、ハテナほど正確には予想する事ができませんでした。
ハテナは、激しい砲火の中をさらに直進して、一機の戦闘機を撃破すると、防衛網を突破して、彼方に浮かぶBASE-9のおぼろな機影に近付いて行きました。
BASE-9は、船体の両舷から十二の砲台をせり出すと、ハテナに向けていっせいにビーム砲の熱線を放射し始めました。
ハテナは後方から追って来る戦闘機の一機を、振り向きもぜずに撃墜すると、入り乱れる熱線の嵐の中で、砲台の一つを、出力を落とした熱線で焼き切るように破壊しました。
無人戦闘機は、ハテナがBASE-9を回り込むように移動するので、BASE-9への誤射を防ぐために、攻撃の手を緩めざるを得ませんでした。
ハテナはそこで、動きの鈍った戦闘機を、片っ端から撃ち抜いて行きました。ハテナの手にかかれば、逃げ回るだけの戦闘機など、静止した標的と、さして変わりありませんでした。
―――五分の後、無人戦闘機は、全て破壊されました。BASE-9の十二の砲台も、熱線に熔解されて、無残な姿をさらしていました。
それらは、全て、音のない中で行われました。
ハテナはBASE-9の船尾に、ビーム砲の照準を合わせました。そこを撃ち抜けば、燃料タンクが爆発して、BASE-9は、乗員もろとも粉々に吹き飛んでしまうでしょう。
BIRDの砲門が、エネルギーを充てんして、淡紅色の光を放ちました……。




