(5) ヒューマノイド研究所
テッペン大佐は、研究所の破壊された格納庫から、澄み渡った星空を見上げて、憤怒の表情で立ち尽くしていました。
ハテナが、遠隔操作によって、機械の翼(コードネーム『BIRD』)を奪い去ってから、一時間が経過していました。
マザーコンピューターが損傷を免れていたので、研究員たちはハテナの追跡と、彼女の身に何が起こったのかの分析を開始していました。
「UM-03(ハテナ)がBIRDに接触すると、予期していなかったのか?」
テッペン大佐は、研究所長のシレットに尋ねました。シレットは額に汗を浮かべながら、
「BIRDには外部からの接続を遮断する措置をしていました。しかし、UM-03は研究所を出る前に、特殊な信号で回線を開けるように、BIRDのシステムを改ざんしていた模様です。」
「UM-03が自分の意思でそれをしたというのか。」
「現在、UM-03の記憶情報を分析中です。どうやら、管理システムを潜り抜ける記憶領域があったもようで……。」
テッペンはシレットの胸倉をつかんで声を荒げました。
「このプロジェクトに、一体どれだけの資金をつぎ込んだと思っているんだ。貴様らの人形遊びのためではないのだぞ!」
シレットは一言もなくうなだれました。
テッペンは、このヒューマノイド計画の立案者であり、全権を委ねられた人物でした。巨額の軍事費を投じたこの計画が失敗に終われば、彼の軍内部での信用は失墜し、権力を失うどころか、上層部から粛清される恐れさえ生じる事になるのです。
ハテナの記憶情報を解析した結果、彼らは多くの新事実を知ることに成功しました。
飛行訓練の合間に、彼女がBIRDに時折語りかけていたということ。
それを、研究者のA・Iが容認していたということ。
研究所がテロリストに襲撃されてから後の、A・Iとハテナの逃避行のこと、そして、彼女がアケボノ高校に入学したことや、文という少女との交流のこと……。
しかし、何よりも重要な発見は、研究所が発した停止命令よりも先に、何者かが送信した指令が、ハテナの元に届いていたということです。
指令は主に二つで、内容は驚くべきものでした。
一つは、『トアル国民は全て敵である。』というもの、そしてもう一つは、『BASE-9を破壊せよ。』というものでした。
BASE-9というのは、トアルが管理、運営をしているスペースデブリ(宇宙ごみ)回収用の大型宇宙船の名前です。
トアルの宇宙ビジネスのモデルとして、五年前から地球の衛星軌道上で建設が進められ、二年前から本格的な運用が開始されていました。