(3) 変調
翌日、文が学校を休んだので、ハテナは一人で下校する事になりました。いつもの坂道を下ろうとすると、同級生の女生徒四人が声をかけてきました。一人は、ビデオカメラを持っていました。
「昨日、公園で、文に立体映像見せてただろ。お前、人間じゃないんだろ。」
ヒロという名前の背の高い生徒が、威圧するようにハテナを見下ろしました。
ハテナが黙っていると、ヒロは態度を和らげて、
「俺達も、ああいうのが見たいんだよ。見せてくれたら、誰にもお前のことは言わないよ。」
と言いました。
ハテナは、「文は友達だから見せたんだ。」と答えました。
するとヒロは笑って、「俺達だってダチだろ。クラスメイトじゃんか。」と言いました。
それで、彼女達も、ハテナのメモリの中の、『友達』という優先事項に書き込まれました。「何が見たいの?」
ハテナが聞きました。
「お前、ネットとかできんの?」生徒の一人が聞いたので、他の生徒はげらげら笑いました。
「できるよ。でも、どんなネットワークにもつなげてはいけないって、お父さんに言われたんだ。」
「ダチが頼んでんだから、『親父』だって良いって言うさ。今、ネットで、Claysのライブ中継やってんだ。それ見せてよ。」
ハテナは言われるままに、目を閉じて、インターネットの回線を開きました。すると、間もなく、遠くから、探してもいないデータが、たくさん押し寄せて来て、ハテナの中に流れ込み始めました。
目を開けたとき、ハテナの視界には赤い四つの点が見えました。それは、『敵』を意味するレッドフラグでした。ハテナは手の平に仕込まれたナイフをせり出して、そのフラグの一つに飛びかかりました。
ヒロは、ハテナが目を赤く光らせながら、いきなりナイフを握って斬りかかってきたので、悲鳴をあげて倒れ込みました。ハテナは馬乗りになってヒロにナイフを突き立てようとしましたが、すんでの所で動きを止めると、立ち上がって、すでに逃げ出した他の生徒たちを目で追いました。
「整合性のないデータだ。」
ヒロも逃げ去って、ハテナは残されたビデオカメラを踏みつぶすと、そうつぶやきました。