(12) 新天地
「ほら、白い船が来た。運搬船だよ。」
「きれいだねぇ。」
「うん、とってもきれい。」
「鳥がいるね。」
「渡り鳥だよ。ハナジロドリっていうんだ。怒ったみたいに、ゲーッ、ゲーッて鳴くよ。でも、怒ってるんじゃないんだって。」
「『ここにパン屑があるぞ。』って言ってるのかな。」
「うん。」
ハテナは、川辺の土手に座って、柔らかな日差しを浴びながら、文とおしゃべりをしていました。
でも、文が、隣にいるわけではありません。
ハテナの頭の中で、メールのやり取りをしているのです。
ハテナは、今、文から遠く離れた場所にいました。ここは、フランネの首都、カノチという町です。
半年前、ハテナがトアルの核ミサイル計画の映像を公開した時、主要国は協議を重ねた結果、その映像が真実であるとの結論に達しました。
間もなく、BASE-9の周辺軌道を周回していた国際宇宙ステーションから、三隻の作業艇が派遣され、BASE-9の乗員と、宇宙空間を漂っていたハテナの救助活動が行われました。
トアル政府は、各国の非難を受けて、この計画が、一部の将校の独断によって進められたものであると発表しました。
囚われていた文は無事に解放され、首謀者とされたテッペン大佐は捕縛を免れるため、国外に逃亡したと報道されました。
回収されたハテナは、フランネの国立科学技術研究所に運び込まれ、そこで目を覚ますことになりました。
フランネ政府は、ハテナの英雄的な行為を讃え、正式な市民権をハテナに与え、一般人として、この国で暮らす権利を保障すると約束しました。
……というわけで、ハテナは今、フランネで暮らしているのです。
ハテナの気がかりは、文と共にトアル軍に捕まった、父親代わりのA・Iの行方が分からないということでした。
報道では、今も軍に囚われたまま、ひそかにヒューマノイドの研究を続けさせられているのではないか、という事でしたが、真偽のほどは分かりませんでした。