(1) ハテナ、学校へ行く
……少女の名前は、「ハテナ」と言いました。彼女は、トアルという国が世界で初めて実用化に成功した、戦闘用ヒューマノイド(人造人間)でした。
軍内部で極秘に開発され、量産に向けた研究が進められていましたが、ある日、正体不明のテロリストによって研究施設が襲撃されたため、かろうじて難を逃れた彼女は、研究者のA・Iと共に研究所を出て、当面一般市民として街で身を隠すことになりました。
A・Iは、彼女の軍事利用には否定的だったので、彼女を本当の人間にしたいと考えて、軍と連絡を絶ち、戸籍を偽造し、親子として、普通の生活を送り始めました。
ハテナは、知識こそ豊富だったものの、人間としての情緒は、まだ未発達な部分が多かったので、A・Iは、大胆にも、彼女を高校に通わせて、実際の人間関係から、「人間らしさ」を獲得させようと考えました。
彼女は、入学したアケボノ高等学校で、初日から『変な子』というあだ名をつけられるくらい、破天荒な行動をとってしまいました。教室の入口の扉を取り外してしまったり(故障した自動ドアだと思ったのです)、教室で飼っている金魚を、素手で捕まえて観察したりしたのです。
クラスの中で、彼女の純粋さに気が付いて、色々と世話を焼いてくれたのは、生き物係の文でした。
文は、ハテナが身だしなみに構わないことを、そっと注意しました。
「あのね、制服の下には、タンクトップとか、下着を着た方がいいと思うよ。」
「だって僕、汗をかかないんだもの。」
「どうして僕って言うの?女の子らしくないよ。」
「だって僕は僕だもの。」
「髪をとかして、髪飾りを付けたら、ハテナ、すごく可愛くなると思うな。」
「そうしたら、人間らしく見えるの。じゃあ、今日からそうする。」
こんな風にして、文とハテナは親しくなりました。
楽しい学校生活の中で、ハテナは次第に、人間らしい心を、表現できるようになって行きました。ところが、学校行事のキャンプの夜、ある出来事から、文はハテナが人間ではない事を知ってしまいました。ハテナは、その事を誰にも気付かれてはいけなかったことを話して、「さようなら。文。」と言って立ち去ろうとしました。
文はハテナを引きとめて、「誰にも言わない。ハテナはここに居ていいんだよ。」と言いました。
「本当に?」
「本当よ。ハテナは、ここに居たいんでしょう?」
「……うん。でも、どうして文は、いつも僕を守ってくれるの?」
ハテナが尋ねました。すると文は、「だって、友達だもの。」と言いました。
その日から、ハテナの中で、『友達』は、『一番優先すべき味方』という位置付けになりました。