断罪の天使が嗤った
――――わたしは《葬祭のマリア》。
この世の遍く総てを殺すために、不変を生きる者。生者には死への賛美歌を、死者には福音のラッパを。
灰色の空をあおげば血の雨が降りそそぎ、風は凍えるほどに冷たい。
朽木の森で彷徨うわたしは罪に怯えて息を潜め、この魂を傷つけてくれる【誰か】を待っているの。
冴え冴えと輝く、満ちた銀月。
その神々しい月を隠す雲は風に流れ、その存在を霧散させる。
しかしこんなに晴れ晴れとしているというのに、どうしてか雨が降っていた。
クラシックのようにしっとりと、しかし時にオペラのように激情を込めて。
真空を形にした静かな森のなかにひっそりとある、凍りついたように冷たい湖。降り注ぐ雨粒をも跳ね返し、しかし確実に熱は奪われていく。
雨は恵みをもたらしているようでその実、つるりとしている鏡のような湖面を穢していた。
止むことのない雨を追いかけて、やがて目線はその先へ。
雨音もしない静かな湖の真ん中には、一輪の花が咲いている。睡蓮の花だ。
淡い桃色の睡蓮は、湖の水を吸って色を青やら緑やらに変化させている。ようやっと落ち着いたその色は、まるで血のような紅色だった。
邪魔されることなく美しく咲く、その睡蓮を踏みつけるのは――――誰?
泡沫の花にも似て儚い【断罪の天使】が、此方を見て嗤っている気がした。
明日も待てないわたしを、嘲笑っているのだろう。