月と緋色の空
大きな赤い月が白いまな板の上で横たわる。僕の目の前でバラバラに解体されていくそれは、最後の力を振り絞ってピチピチ跳ねている。すると小さなカケラが一つ、転がるように逃げ出し元いた空へ必死に帰ろうとした。
抵抗虚しく、カケラは料理人の手であっけなく捕まった。「食べてみるかい?」思わず首を横に振る。「そうか。」言うが早いかカケラは彼に咀嚼され、あっという間に目の前から消え去った。アレは僕だ、直感が告げた。
それから黄色い月が町を照らした。僕はなんだか生きてる心地がしなかった。どこかが壊れてしまったような感覚。ある日、僕は空にお願いした。「あの赤い月は戻らないか。あの赤い月の元に連れていってくれないか。」
白く眩しい空へ願うように手をかざした。僕の壊れてしまった体にはまだ美しく真赤な血が流れている。モノクロな世界では赤い月も僕も珍しかったのかもしれない。瞬間…体は銃声と共に崩れ落ち、視界が緋色に霞んだ。