隠すべきこと
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一通りの説明を終えて、あとは騒ぎの内容を住民たちにどう説明するかを煮詰めていくことに。
そういうのは偉い人たちだけでやってほしいけど、こちらにもいくつか要求事項があるからまだ帰れません。
さっさとこっちの要求を言って帰るのがベストかな。
「そういえば、捕らえた魔族って今どうしてるの?」
「…そこの仮面君になにをされたのか知らないけど、牢屋の中で意識が戻った直後に半狂乱になって暴れ狂ったかと思ったら、突然なにかに怯えるように何度も何度も謝り続けてたりしてたわ……」
…完全にトラウマになってるな。
やっぱちょっとやりすぎたかなー、情報を聞き出すどころじゃなさそうだな。
「…一応聞いておくが、なにをしたのかな?」
「まず魔族の指を2、3本へし折りまして」
「分かったもういい無理に聞いた私が悪かった勘弁してくれ」
ドン引きしながら説明を遮る領主様。そんな必死に止めなくても。
隣のギルマス二人も顔を見合わせ苦笑いしている。やっぱ仲いいのかな。
「聞いての通り、決して悪い人じゃないけど、怒らせたらヤバいから絶対に敵対するのはやめた方がいいよ」
「…肝に銘じておくわ」
「頼もしいが、その分恐ろしいな君は」
「いえ、普段からそんなことをしているわけでは」
「ちなみに、もう一人の魔族はなんか粉々になって地面のシミになってたらしいわね。普段どんな戦い方をしてるのかしら?」
余計な情報公開してんじゃねーよ! 領主様がドン引き通り越してなんか露骨に距離とってんじゃねーか!
アレか、そんなに目の前でグロ映像を通り越したナニカを見たいのか?
「粉々にした技をお見せしたいのは山々ですが、受けてくださるお相手はいらっしゃるのですか?」
「いや別に誰かに向かってやってみろとは言ってないんだけど」
「ジュリア、これ以上いたずらに犠牲者を増やそうとするのはさすがにどうかと思うの」
「だから! やれとは言ってないでしょうが!」
犠牲者て。あんな高火力の技、人間相手にそうポンポン使ったりしないって。
敵対しない限りは。
「そろそろ本題に話を戻していいですか」
「そうね、これ以上この話題を続けるのもどうかと思うし」
元々話を振ったのはあんたでしょうが暗殺ギルマス。
もう略して殺マスでいいかな。いや暗マス? なんかしっくりこないな。
「犠牲者がいなかったから、説明も比較的スムーズにできそうだけど、一応どこまで話すべきかは決めておかないとね」
「…正確には、怪物の封印を解く際にスラムの住民が一人魔族によって死に追いやられたようですが」
「スラムに住む者と言えども、街の住民に変わりはない。いたましいことだ……」
沈痛な面持ちで言葉を漏らす領主様。
スラム街の人たちのことも住民として、人間として認めてくれているのか。
ならスラムの住民たちにも働く場所や住む家を寄越せとか言う人もいるかもしれないが、大きな街になるとそういった貧民街みたいな場所ができるのは仕方がないことなんだよなぁ。
ほならね、文句を言う奴が解決策を言ってみろって話だし。…話が脱線したな。
「まず先に、公開するべきじゃない情報をまとめておきませんか?」
「そうねぇ、例えば今回、怪物の封印を解く合言葉を知っている神父様が、警備の目をかいくぐってあっさり合言葉を吐かされたのは教会の中に内通者が居たからって情報とか?」
!?
「…それマジ?」
「マジ。半狂乱から小康状態まで立ち直った魔族を催眠スキルで尋問したから間違いないわ。しかもよりによって神父様お付きの神官がよ?」
「ええ? なんか神父様に恨みでもあったの?」
「単なるお金目当てだったらしいわ。元々信仰心が薄くて素行の悪い奴だったらしいし、神父様が近くに置いていたのはトラブルを起こさないように見張るためでもあったらしいの。魔族に大金をもらうかわりに警備の巡回ルートとか教会の見取り図とか渡していたらしいわ」
「それで街ごと自分も死ぬような事態になったら元も子もないでしょうに…」
「そうなる前に、他の街に自分だけ避難していたみたいね。神官が聞いて呆れるわねぇ」
「…許しがたいな。人々の心を救済する立場の者がそのようなことをするとは、あってはならないことだ」
……つまり、その神官が金目当てに街一つを犠牲にして自分だけスタコラと逃げようとしたと。
頭が無くなるまでもみじおろししてやろうかそいつ。
「といっても? もう誰がやったかは割れたわけだし? そうなるとこっちのギルドのメンバーに追跡させることも容易なのよねー」
「捕捉したらどうするの? とっ捕まえて住民の前で土下座でもさせる?」
「…今回の件は、神父様お付きの神官の裏切りという、この街におけるゴッデスタ教の信仰を揺るがしかねない事件であり、もしもそのことが住民に知れたら教会に対して暴動でも起きかねない。なにせ街一つ壊滅するところだったのだから、もはや償いきれる罪ではない。その神官が裏切ったことそのものを無かったことにして、情報が漏れないように処理しなければならない」
「というわけで、見つけ次第、コレよ」
サムズアップしたかと思ったら、首の前で一文字を切る暗殺ギルマス。
…なるほど、そのために暗殺ギルドのマスターが居るわけね。
「他にはなんかある?」
「……私が、魔族を倒したということは内密にしておいてほしい」
確認をするロリマスに、アルマが口を開いた。
「へ? そりゃなんで? 魔族をほとんど単騎で倒したってだけでもすごい功績として認められるのに。ランクの昇格も間違いないよ?」
「私は、まだ未熟。今回は上手くいったけど、一歩間違えば最後に放ってきた魔法に当たって死んでてもおかしくなかった。危なげなく魔族を倒せるくらいまで実力がつくまでは、無理にランクを上げたりしたくない」
「……十二分に昇格するだけの実力はあると思うんだけど、アルマちゃん的にはまだ足りないの?」
「全然。レベルはまだ24、スキルも手持ちのものすらまだまだ使いこなせてないものが多い。ランクが上がって肩書きだけ立派で中身が薄っぺらい冒険者にはなりたくない」
事前に相談していた時も同じようなことを言っていた。
まあ確かにまだまだ修業の余地はあるし、ただでさえランクアップのペースが早いのに、ここでさらにランクが上がると余計な注目を浴びて悪目立ちしてしまう恐れがある。
それが原因で余計なトラブルを引き起こしたりでもしたら面倒だ。別に早くランクアップしたいわけじゃないし。
というわけでちょっともったいない気もするけど今回のアルマの功績は一部の人間を除いて非公開という形にしてもらうことに。
「若いのに、随分と謙虚で立派な志をもっているようだな」
「この子真面目ねぇ、ウチにもこんな子が欲しいわー」
「ふふん、うらやましかろー」
感心した様子でアルマを眺める領主様と暗殺ギルマス。そしてなぜかドヤ顔のロリマス。なんでアンタが得意げな顔してんだ。
「じゃあ、魔族を倒した功績はもう全部飛行士君に被ってもらおうか?」
「それでいい。実際、ほとんど解決したのはヒ、…飛行士のお陰だし」
今ヒカルって言いかけたな、危ない危ない。
「…他人の功績を被る、というのは思った以上に気が引けるものだな」
「元々の功績がデカいし、一つや二つおまけと思ってとっときなよ」
功績を全部飛行士に押し付けてしまえば、アルマも俺も余計な名誉を受けずに報酬だけもらうことができるからいいけどさ。それでもなんかモヤモヤする。
どれもこれも全部飛行士ってやつのせいなんだ。
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