領主面談
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ロリマスの案内で、領主様の館に到着。この人いっつも案内してんな。
…でかいな。館というよりちょっとしたお城みたいに見える。
「ここが領主様の館だよー。広いからはぐれないように気を付けてね」
「そうですね、迷子にならないように気を付けます(ロリマスが)」
「うん、迷子になったら大変だね(ギルマスが)」
「……なーんか釈然としない回答なんだけど」
…ぶっちゃけこのメンツではぐれた時に迷子扱いされるの、今日初めて来た俺やアルマじゃなくてロリマスの方じゃね?
ジト目でこちらを見ながらなんか言ってるけどスルー。
館の中をロリマスに追従して歩いていて、時々すれ違う使用人さん方にロリマスが挨拶して、にこやかに挨拶を返した後、仮面を被っている俺の姿を見てフリーズするといった流れが何回かあった。
はたから見てると、見た目幼女を追い回してる不審者に見えなくもない。どうしてこうなった。
カジカワじゃなくて、あくまで飛行士として説明しなきゃならんから仕方ないんだけど…。
で、領主ルーム前まで到着。玄関から入って軽く数分くらい歩いてようやく着いた。家が広すぎるとかえって不便じゃない?トイレとか。
門番ならぬ部屋のドア番の警備員らしき人にロリマスが来たことを告げて、部屋の中の領主に入室許可の確認をしてもらってから、十数秒経つと許可がおりた。
「君たちなら大丈夫だろうけど、失礼のないように注意してね。基本的に質問に答えればいいだけだから。答えたらまずい質問に関しては私がフォロー入れるから大丈夫」
「…分かりました」
答えたらまずい質問、というと俺の正体、魔力と気力と無いとは思うけど生命力の直接操作とかについてかな。
というか領主様がどんな人物かにもよるな。あのデブ貴族みたいなクズだった場合は何も答えないようにしてもいいくらいだ。
警備員さんに招かれて入室。偉い人の部屋に入る時は妙な緊張感があって苦手だなぁ。
ただしロリマスの部屋は除く。ファンシーすぎて緊張感失せるわあんなん。
部屋の中に入ると、領主様と思しき茶髪で30代後半くらいの男性が応接用のテーブルの席に腰掛けていて、対面には二十歳過ぎくらいの紺色髪の女性がお茶を飲みながらこちらを見ているのが分かった。
……領主様はともかく、この女性は?
「お待たせしました、領主様」
「ご苦労、イヴラン。昨日は大変だったようだな」
お辞儀をするロリマスに、穏やかな声で労いの言葉をかける領主様。
第一印象は悪くないな。むしろ気遣いができるいい人に見える。
こっちの第一印象は見た目どう見ても仮面着けてる不審者だけどな。
「いえ、犠牲者が出る前に彼が怪物を再封印してくれたので、それほど大事でもありませんでした」
「……彼が、件の『飛行士』か?」
「ええ、そうです。……色々と複雑な事情がありまして、怪しげな仮面を被って正体を隠していますが、彼は悪人ではないということは私が保証します」
仮面は、俺の、趣味じゃないと、何度言えば(ry
「…まあ、君がそう言うのならそうなんだろうな。分かった、なにかしらのトラブルでもない限りは彼について深く追及するのはやめておこう」
「ご理解頂き、感謝します」
「自己紹介がまだだったな。私がこの街とその周辺を治めている領主、ムルガイニ・ハイヤルローン伯爵だ。今回、この街の人々を救ってくれて、本当にありがとう。君たちが居なければ、私を含めて街の住民は今頃どうなっていたか」
伯爵! あの男爵とはなんかもう色々レベルが違うな。こちらの方が若く見えるのにあのクソと違って貫禄がある。
これこそが、貴族のあるべき姿なんだろうなー。カッコいいわー。
「いえ、自分にできることをしたまでです」
「ははは、そのできることが、途方もなく大きかったじゃないか。では、早速だが当時の状況を話せる範囲で詳しく教えてもらえるかな?」
「かしこまりました」
今回の騒動の流れを、多少フェイクを交えながら説明するロリマス。
フェイクの部分は神父様から合言葉を聞き出す際に、極一部しか聞き出せなかったのを全部聞き出せたように言ったことくらいだけど。
「そして、怪物を封印した後に街に潜伏していた黒幕の魔族たちを、こちらのDランクのアルマティナと協力し各個撃破し、そのうち一名を捕獲した次第です」
「Dランク? ということは魔族たち自体の戦闘力はそこまででもなかったということか?」
「………捕らえた魔族の基礎レベルは35もあったうえに、高レベルのテイムスキルと催眠スキルを所有していたそうだけど、他の魔族も似たようなレベルだったらDランクには荷が重い仕事だったんじゃないの?」
説明が終わると、領主様とその対面に座っている女性が疑問を口にした。
てかこの女性誰? 当たり前のようにこの場に居るけど奥さんか何か?
「自白したことが本当ならの話になりますが、リーダー格は捕らえた魔族で、他の者はそいつの指示で行動していたようです。実際、他の魔族はそいつに比べて数段弱く感じました」
下手にアルマの実力を高く見られると、そこからまた変に深い所まで質問攻めにあう可能性があったので、魔族が雑魚だったからDランクでもなんとか倒せたということにしておこう。
「……ふぅん」
「なーに意味深にとりあえず納得したふりしてますよーみたいな声出してんのさ、ジュリア」
「だってさぁ、そこの仮面被ったやつどう見ても怪しいけど、そっちのお嬢さんもDランクにしちゃ相当な実力者らしいじゃない。魔族との戦いの際にも一方的に攻撃を当ててたって話よ?」
「…まーた部下に覗き見させてたの? んなことしてる暇があるなら魔族の動向を探る方に力を向けなよ、暗殺者ギルドマスター」
!?
え、このジュリアって人暗殺者ギルドのギルマスなのかよ!
裏の組織っぽい響きなのにまた随分とオープンな場にいるなオイ。
「しょうがないでしょ、魔族の居場所を特定する前にアンタとそっちの二人が速攻で魔族を見つけて倒すもんだから、こっちの出番がなかったのよ」
「そりゃそっちが勝手に出遅れただけじゃん。いやまあ精霊たちの情報ネットワークと飛行士君の機動力に勝てって方が無茶だけどさ」
「まあそのお陰で助かったことには感謝してるけどね」
…なんか仲良さげに見えるな。てか友達なのか?
暗殺者ギルドって、名前は物騒なイメージがあるけど意外とそうでもないのかな?
「よかったら、あなたたち暗殺者ギルドに入らない? 話を聞く限りじゃ二人とも喉から手が出るほど欲しい人材なんだけど」
「お断りします」
「右に同じ」
「残念だわー。それじゃああの金髪の子はどうかしら? 影の中を潜行して移動するなんて、もうこれは暗殺者になるためのスキルと才能と言ってもいいでしょう?」
…!!
レイナのことまでバレてやがる! いやホントにそんだけの情報網があるなら魔族の計画くらい未然に防いでくれよ!
この分だと、多分俺の正体もバレてそうだな。…まさか魔力操作とかのことまで知られてないだろうな。
「……レイナは、私のパーティに加入する予定になってる。そっちのギルドに入れる気はない」
「えー」
「えー、じゃないよ。街を救った相手にあんまり変な要求するなっての」
「影の中に、潜行? なんの話だ?」
「ああ、今回の騒ぎの際にもう一人レイナミウレという協力者が居まして、【忍術】という珍しいスキルを使えるんですよ。その子のお陰で飛行士がピンチに陥った時に危機を乗り切ることができたんです」
…忍術スキルのこともできれば隠しておきたかったんだけどなー。
珍しいスキルを使えるってだけで、この目の前の暗殺ギルマスみたいなのに目を付けられる可能性があるし。
魔法剣を使えるアルマを狙ってやってきたデブ貴族みたいに。
…もしもレイナになんかちょっかい出してきたら、それ相応の対応をさせてもらおう。
「おお怖っ。そっちの仮面の彼を怒らせると面倒そうだし、深追いはやめておくわ。【忍術】ってスキルの名前だけでも分かれば、スキルの習得方法を調べられるしね」
…ちょっと敵意と言うか、殺気みたいなものが漏れてたのかな。こちらを警戒した様子で暗殺ギルマスが口を開いた。
そして残念。忍術は忍者専用スキルなので成人前からスキル習得のための訓練が必要です。成人した後じゃ獲得は無理。
まあ暗殺者候補の子供とかに今後訓練させれば、何年後かには忍者の職業をもった暗殺者に活動させることもできそうだけど。
「ちなみにそのレイナという者は、今どこに?」
「……昨日、飲み過ぎたらしく、今二日酔いで寝込んでいるそうです」
「お酒を用意して飲ませたのはギルマスだけど」
「ちょ、アルマちゃん、しー、しー!」
「……体調が回復したら、また改めて礼を言わせてもらうとするよ」
苦笑いを浮かべながらも、穏やかな口調の領主様。器のデカさがにじみ出てるわこの人。
この人が最初に会った貴族だったら、貴族に対してここまで不信感なんか持たなかっただろうになぁ。
まああのデブ貴族も悪い見本として参考になるけど。
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