一夜明けて
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おはようございます。今日もいい天気ですね。
昨日は酔っ払い幼女二人のせいで他の部屋から苦情が来たりして、やはりお酒は控えめにするべきだと再認識しているところです。
クレームを言ってきた男性に、お詫びに余った料理をおすそ分けしたら上機嫌で部屋に戻っていってくれたので、幸い大きなトラブルにはならなかったけど。
え? お詫びに余りもの渡すのはどうよって? 俺もそう思ったけどカオスな部屋の光景を見た後はずっと料理の方に釘付けだったから、良かったらどうですかって言ったらそれで勘弁してやるって了承してくれた。なんて安いお詫びだ…。
とりあえず、朝ごはん作りにキッチンに向かいますか。
朝食定番メニューの味噌汁、焼き魚、野菜のおひたし、銀シャリの準備ができたけど、テーブルにはアルマしか座っていない。…ほかの二人はまだ寝てるのか。
「おはよう、アルマ」
「おはよう。昨日はお疲れ様」
「そっちもな。……レイナとギルマスは?」
「ギルマスはさっきギルドの方へ大急ぎで帰っていった。レイナは二日酔いでまだ寝てる」
ギルマス、もしかしてホントは昨日のうちに帰るつもりが深酒しすぎて朝までぐっすり寝てしまったのかな? 今ごろギルドの職員から白い目で見られてそうだな。合掌。
レイナはそのギルマスが調子に乗って何杯もカパカパ飲ませていたから二日酔いになるのも無理はない。いい教訓になっただろう。酒は飲んでもなんとやら。
先に朝食を済ませた後に、レイナの部屋に行ってみると中から苦しそうな唸り声が聞こえてきた。
「うううぅぅぅ………あだまいだいっず~………」
完全にグロッキーの様子。
こりゃ無理に朝食食べさせても吐くだけかもな。
「おはようレイナ。朝食は食べられそうか?」
「お、おはようっす……うっぷ……! ………ちょっと無理っぽいっす……」
「今後は飲み過ぎは控えなさい。次の日地獄を見るのが分かったろ?」
「は、はい…っす…」
「気分が悪くて何も受け付けないかもしれないが、味噌汁だけでも飲んでおくといい。二日酔いは水分不足でおこるものだから、まずは水分を補給するのが大事だからな」
「の、飲んでもすぐに吐いちゃいそうなんすけど……」
「一気に全部飲めとは言わん。少しずつ時間をかけてでも飲んでおきなさい」
そう言って、部屋に味噌汁だけ置いて今日はしばらく寝させておくことに。無理に外出させてもよくないし。
「二日酔いの対応、慣れてるね」
「いや、単に本とかの知識で『二日酔いになった時は水分補給が大事』ってことを知ってるだけだよ」
アルマが感心したようになんか言ってるけど、二日酔いの人を介抱したことなんか一切ない。
実際は肝臓がアセトアルデヒドを分解しきれないからとかなんとかちらっと聞いたことがあるけど、詳しいことはぶっちゃけあんま分かっていません。
ただ、とりあえず水分を補給するのが大事ってことだけ覚えてるから、水分と塩分を程よく補給できる味噌汁を飲ませとけばいいんじゃないかなーと。
…我ながら対応が適当すぎる気がする。メニューさん曰くほっといても明日には治ってるだろうから問題ないらしいが。
レイナは宿で休ませておいて、とりあえずロリマスの所へ行くことに。
今回の騒ぎの事後処理というか、解決した当事者による当時の状況の説明が必要だからだとか。
誰に説明するの? 住民の皆様の前で『私が解決しました』とか自慢すればいいの? 目立つのやなんですけど。仮面被ってても嫌だ。
大勢の人の前に立つのはもう前回のスタンピードの前だけでお腹いっぱいなんですが。
内心憂鬱な気分でギルドのドアを鳴らし、職員に案内してもらってギルマスルームへ。
…ダイジェルのギルマスルームの扉と違って、ピンク色の花模様でファンシーなドアだこと。ロリマスの趣味か? 中身BBAにしちゃ少女趣味だなオイ。
ファンシーなドアをノックすると「どうぞ」とロリマスから許可がおりたので入室。
…部屋の中もぬいぐるみやらレースのついたカーテンやら随分ファンシーですね。もう帰っていい?
これまたファンシーな置物やら飴玉みたいなものが入った瓶やらの乗ったデスクを前に、ロリマスが座って書類仕事をしているのが見えた。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
朝から疲れたような顔で挨拶をするロリマス。お仕事忙しそうですね。いや単なる二日酔いかな?
「さて、話すことはいくつもあるけど、その前に」
デスクから立ったかと思うと、いきなりこちらに向かって頭を下げてきた。
首だけの軽い会釈ではなく、腰から深々と綺麗な姿勢でゆっくりと礼をしている。
「…今回の一件、あなたがいなければこの街の人々は皆あのバケモノに食い殺されていたでしょう。まことに感謝に堪えません。…ありがとうございました」
「いえ、こちらもただで受けたわけではありませんから」
急に丁寧な対応されると反応に困ると言ってるのに。いや口には出してないけどさ。
てか昨日の誕生日会の時とキャラ違い過ぎやろ。
「もちろん、報酬は支払うよ。可能な限り、言い値に沿った報酬を用意するつもりだけど、どうする?」
どうしよう、ガッポリ報酬もらうとか言ったけど具体的な金額とか決めてなかった。
あんま高い値段を言っても怒られそうで面倒だし、どーすっかなー。
……あ、そうだ。
「では、現金ではなく現物支給でお願いできませんか?」
「現物支給? ものによるけど、何が欲しいの?」
「アルマに見合った『剣』をお願いします。今使っている剣も悪くはないのですが、そろそろアルマ自身の力についていけなくなってきているのか、ところどころ破損しかかっているんですよ」
「……気付いてたんだ」
アルマが少し驚いたような、気まずいような顔で呟いた。
メニューさんの目は誤魔化せません。よく見ると微細なヒビが入ってるのが分かるし、多分そろそろ寿命じゃないかと。まだひと月ちょっとしか使ってないのに…。
「装備品の類は高いからすぐに新調するのは気が引けるかもしれないけど、命を預ける商売道具には妥協しちゃだめだ。いざという時に折れたりしたら最悪そこで死ぬかもしれないんだぞ?」
「…うん、ごめん。もっと早く伝えておくべきだった」
「あー、まああんな激しい勢いで剣を振ってたら並みの剣じゃ長くもたないか。アルマちゃん、魔族を物凄い速さで斬りまくってたし」
【暴風剣】のことかな? 魔法剣は強力だけど剣にかかる負担が並みのスキルより大きいからなぁ。
…あと、修業の際に新技で剣を弾いてしまったのも地味に響いてるかも。すまぬ。
「そういうことなら、近日中にとびっきり頑丈な剣を用意しとくよ。いやー、正直現物支給で助かった。何千万エン寄越せとか言われたらどうしようかと思ってたよ」
「いや、さすがにそれは…」
「払えるの?」
「……正直、勘弁してほしいけど、街一つ救った功績を考えると払わざるをえないと思ってた」
マジすか!?
…うーむ、それなら何千万とは言わんから、せめて何十万くらいの現金を要求しておいてもよかったかなー。
カレー粉とか買うお金の余裕もできただろうに。もったいないことしちまったかな。
「ああでも、現物支給だからといって用意する剣を安物で済ませる気はないよ。きっと納得してもらえるような剣を渡すつもりだから安心してね」
そうですか。まあ期待しておこう。
「ところで、私たちは今回の事件について誰に説明すればよろしいのでしょうか?」
「ん? ああ、この街の領主様だよ。準備ができたら領主様のところへ一緒に行こうか」
領主様、ねぇ。
ダイジェルでぶん殴ったデブ貴族みたいなやつじゃなきゃいいけど、どうなることやら。
また逃避行ならぬ逃飛行する羽目にならなきゃいいが。
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