酒は飲んでも
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祝いの席は少人数ながら賑やかだ。
唐揚げ、魚の包み焼き、ミートソースパスタ、箸休めの生野菜サラダ、シチュー、熊肉ステーキその他諸々、大皿に乗った料理をバイキング形式で食べながら、談笑を楽しむ四人。
騒ぎすぎて他の部屋から苦情がこなけりゃいいが。
「この一口サイズの骨なしフライドチキン美味いねー。どこの店で買ったの?」
琥珀色の酒を片手に唐揚げを頬張るロリマス。見た目完全に未成年なのに飲酒してる非行少女やん。
「恐縮ながら自前ですが」
「え? じ、じゃあその隣の妙にジューシーなトラウト(鮭もどき)のバター焼きみたいなのは?」
「それも私が作りました」
「……スキルなしで戦えるうえにギフトもないのに料理も作れるとか反則じゃね? 精霊たちが、『美味しそうなもの作ってる』って言ってた時はてっきり外で買ったスープでも温めなおしてるのかと思ったけど、まさか本当に料理してるとはねー」
「レシピを故郷から持ってきていたから作れるんですよ。さすがにレシピなしだと簡単な料理を10種類くらいしか作れそうにないですね」
「それでも10種類も作れるんじゃん、普通にすごいよそれ。優良物件だね君はー、ねぇアルマちゃん」
「…なんで私にふるの」
「なんでだろーねーハハハ」
もう大分できあがってるようで、顔を赤くしながら酒と料理を瞬く間に消費していくロリマス。もうちょっと遠慮とかないんかい。今日の主役レイナやぞ。
アルマも顔が赤くなってるけどお酒飲んだのかな? 程々にしときなさい。
「ちなみにレシピは何種類あるの? 30種類くらい?」
「その軽く10倍はありますね」
主にスマホのレシピ帳の中に。まだ3割も書き写せていません。
一見多いように見えて、毎日3食食べてるとすぐレパートリー不足になるからこれでも少ないくらいだ。
「ブフゥッ!? 滅茶苦茶多いじゃん! 普通に料理店の一つや二つ開けそうなんですけど!」
「まあ手に入らない材料なんかも多いので、実際に作れる料理は限られていますけど」
「どの料理もめっちゃ美味しいっすよ! 食べ過ぎてすぐお腹いっぱいになりそうっす!」
「あ、まだメインが残ってるから少し腹に余裕を残しておいたほうがいいぞ」
「ま、まだ隠し玉があるとは……このオトコやりおる……!」
なんか神妙な表情で格闘漫画のキャラみたいなセリフを吐くロリマス。この人のキャラがよく分からん。
「てかそろそろ出しとくか。せっかく作ったのに、みんな他の料理食べ過ぎて食えなくなったらなんかすごく悲しいし」
「メインを作ってるところはなるべく見ないでほしいって言ってたけど、なにを作ってたの?」
「そりゃ、誕生日と言えばアレでしょう。あ、レイナのテーブルの前空けて」
「へ? は、はいっす」
取り皿やらコップやらどかしてテーブルのスペースを空けて、準備完了。
…喜んでくれるといいが、俺の手作りだしなー。日本のケーキ屋で作られた物に比べるとどうしても粗が目立つんだよなー……。
まあいい、ガッカリさせてしまったならもうお菓子とか売ってる店にダッシュして代わりの物を買ってこようそうしよう。
アイテム画面から、着火済みの15本のキャンドルをさしてあるバースデーケーキをレイナの目の前に取り出した。
「!?」
「な、なぬぅ!?」
「な、な、なんすかこれはぁー!?」
三人とも驚いてるけど、つくりが雑すぎてドン引き……してるわけじゃなさそうだな。
もしかしてキャンドルをケーキにさす風習がこっちにはなかったりとか?
「え、えーと、不器用ながら精いっぱいに作ったつもりなんだが、……なんか変なところでもあったか? ところどころ粗があるのは分かってるつもりだが」
「今どっからだしたの!? てかこれどうやって作ったの!? もうほとんど貴族様の食べ物じゃないのさ!」
「これ、ケーキ? すごく大きい……」
「ふ、ふおぉぉぉっ……! もう言葉にならないっす……!」
あ、大丈夫だったわ。めっちゃ感動してくれてるし問題なさそうだ。よかったよかった。
つーか貴族様の食べ物って。これがそうなら職人が作った本格的なケーキなんか神の食い物じゃん、大袈裟な。
大きさも、大体5号サイズくらいを目指して作ったんだが、まあ四人いれば食いきれるだろ。
「なんか火のついたロウソクが刺さってるんすけど、これなんなんすか? 飾り?」
「ケーキを食べる前に、誕生日を迎えた人はその火を一息で吹き消すんだ。そうすると願い事が叶うっていう言い伝えがあるんだよ」
「いや、ていうかさっきも言ったけどこれどこからだしたの? 空間魔法? 手品?」
再封印用のメガホンを収納したところを見られてるし、もう隠す必要ないか。
魔力操作の危険性を理解できてるし、言いふらすような人じゃないだろう。……多分。
「勇者と同郷だからか、勇者と同じようにメニュー機能って呼ばれてるものを使うことができるんですよ。その機能のなかにアイテムバッグみたいな機能がありまして」
「うわぁ便利だねー、もうそれだけで運び屋として生きていけるじゃん。……もう君にスキルなんかいらないんじゃないかな?」
「同感」
「いらないっすね」
いるよ!いりまくるよ!欲しいに決まってるよ!
でも取得不可。現実は非情である。シット。
「…いいから吹き消しなさい。ロウソクが溶けてケーキに垂れたら食べづらいぞ」
「そうっすね。それじゃあ、すうぅ……ふうぅ~~~~っ……」
レイナの吹いた息がロウソクの火を一気に消していき、一本残らず消火された。
願い事、叶うといいね。
「それじゃあもう一度。……誕生日、おめでとうレイナ」
「おめでとう」
「おめでとー!」
「ありがとうっす…!」
満面の笑みで、言葉を返すレイナ。その目はうれし涙か少し潤んでいるように見える。
…うん、苦労して作った甲斐があった。
「よーし、そんじゃ早速食べようぜー!」
そして余韻をぶち壊すロリマス。空気読め。
「…少しは遠慮してくださいよ」
「こんな美味しそうなケーキ目の前にして我慢できるかー!」
「そこは同感っす」
「…うん」
「はいはい、ありがとう。それじゃあ切り分けますか」
俺の分は少し小さめに、レイナの分は少し大きめに。
アルマとロリマスには4分の1ずつ切り分け、いざ実食。
甘すぎず、薄味すぎず程よい甘み。しっとりとした食感で、イチゴの酸味と食感が絶妙なアクセントになっている。
…うむ、我ながら悪くない、いや会心の出来と言っていいかもしれない。
他の三人も食べた直後に破顔し、幸せそうな表情をしている。
「外側のクリームはフワフワで、中のクリームは冷たくてちょっとシャリシャリしてる。美味しい…」
「中のクリームはアルマと一緒に作ったアイスクリームだ。温度差のあるケーキも面白いかなって」
「パンケーキとは少し違ってスポンジみたいな食感っすねー、まるで羽毛布団みたいな柔らかさ、いや、なんすかねこれ、上手い例えがでてこないっす。不思議な食感でパクパクいけちゃって手が止まらないっす!」
「故郷じゃそのまんまスポンジケーキって呼ばれてたな。単体じゃ蒸しパンみたいなもんだが、クリームをつけるとそれだけで見た目豪華になるんだよなー」
「甘いばっかじゃなくて、ストロゥベリー(イチゴ)の酸味が爽やかでいいねぇ。ん、クリームのなかに含まれてる独特の風味も気になるけど、これなに? ミルクやクリムスライムだけじゃこんな風味にはならないよね?」
「炒ったバニソイ豆を砕いて、ミルクと一緒に煮て香りをつけています」
「バニソイって、香水なんかに使われてるアレ? よくあんなのを料理に使う気になったね。食べるとすごく辛苦くて食用向きじゃないらしいのに」
「故郷では香水より、乳製品を使ったお菓子などによく使われていました。そのまま食べるのではなく、香りをお菓子につけるといった具合に」
「超美味いんだけど。特許出してみたら? 多分まだ誰もこんな使い方してないと思うから儲かるよー」
「特許うんぬんはめんどくさそうだし興味無いですけど、バニソイ豆の風味を活かしたお菓子を職人の人が作ったら美味しそうですね」
過去の勇者がバニラ味のお菓子を広めていないのが謎だ。
カレーの配合を伝承してるぐらいだし、バニラの有用性も広めておいてほしかった。
「おおっ!? ちょっとお酒を飲んだ後に食べると独特の風味が生まれてさらに美味い!」
そしてこの飲んだくれは変なマリアージュを生み出してるし。
その様子を見てアルマとレイナがお酒を物欲しそうに見ている。
「ち、ちょっと自分も試していいっすか…?」
「…私も」
「いいよー、けっこう強いお酒だから飲み過ぎないようにねー」
そう言いながらなんでグラス一杯に注いでんだこの人は。
「飛行士君は飲まないの?」
「お酒は苦手なもので」
「ん? 下戸なの?」
「極端に弱いわけではないのですが、飲むと気分が良くなる前に気持ち悪くなってきます。というかそれ以前にアルコールの味がちょっと…」
「ほほう」
会社や地元の飲み会は地獄だった。年上の人ばっかで酒がまともに回らないですぐ悪酔いするし。
美味しそうな料理も酒の苦みに塗り潰されてまともに楽しめないし。
お酒の味や酔いを楽しめる人が羨ましい。
……ロリマスどうした、目がすわってるぞ。
「とりゃー!」
ロリマスがこちらに向けて急に何か投げてきた。
蛇? いや、縄か?
!?
「う、うおわぁっ!?」
な、なんだこの縄!? まるで生きてるかのように動いてあっというまに縛り上げられたんだが!
つーかなにやってんだこの酔っ払いは!
「い、いきなりなにを…!?」
「ふふーふー、下戸でもないのにこんなめでたい席で飲まない奴には流し込んでくれるー」
「ちょ、アルハラはやめてくださいよ!」
「いいからのーめ! のーめ!」
「口元に酒瓶押し付けんな! ちょ、二人ともこの酔っ払いを止め…」
アルマとレイナに助けを求めたが
「ぎるますさ~んだめっすよ~ぅーひひーひ。じぶんがのむぶんもとっておかなきゃ~えへーへへへ」
「……すぅ…」
レイナ、泥酔。顔を赤くして体を揺らしながら変な笑いを浮かべてロリマスに絡もうとしている。
アルマ、就寝。お酒を飲んだあと、酔ってそのまま寝てしまったようだ。そこ俺のベッドなんだが。
まともな助けは期待できそうにない。どうしてこうなった。
「というわけで諦めるがいいー!」
「嫌ですってば!」
「じゃあ口移しで無理やり飲ませてやろうかー!」
「それはマジでやめろ!」
「うへへへ~じぶんがのむほうがさきっすよ~」
「レイナもこれ以上飲むのやめとけ!」
「あ、ちょちょちょ、レイナちゃん足元おぼつかないのに絡むと危険だってー、う、うわわっ!?」
レイナがロリマスにもたれかかった挙句、あらぬ方向に二人でフラフラ歩いている。
バランスを崩して、倒れそうになった先はアルマが寝ているベッドが。
ドシーンッ!
「のわぁー!?」
派手な音を立てて、アルマを下敷きにして酔っ払い幼女二人が倒れた。なにやってんだ。
その直後
ドンドンドン! バタンッ! と部屋の扉が乱暴に叩かれたあとにドアが開き、宿泊客と思しき冒険者風の男性が不機嫌そうな顔で部屋に入ってきた。
「おい! さっきからうるせぇぞ! お前らいったいなにやっ……」
男性が怒鳴りながら部屋を見渡しているが、怒鳴っている途中でフリーズ。
その目には、縛り上げられている俺と、顔を赤くした幼女二人がアルマを下敷きにしているカオスな光景が見えているだろう。そりゃ硬直するわな。
「……幼女二人に身動き取れない状態にされた挙句、彼女寝とられてる最中とかさすがに引くわ……」
硬直が解けたあと、怒り顔から物凄く困惑した表情に変わり呟く男性。いやお前のその発想に引くわ。
さすがに騒ぎ過ぎたので、これ以上は他のお客の迷惑になりかねないので今日は一旦お開きにすることに。
酒は飲んでも飲まれるな。
特にロリマス。主にテメーのせいだぞ!
お読み頂きありがとうございます。




