魔法剣(?)習得修行②
今日は1、2話投稿すると言ったな。
あれは嘘だ。
3話目投稿します。
では、魔法剣講座、午後の部を開始したいと思います。
はいそこ! いつまで体内での魔力操作やってんだ! いやホントもう一旦休んで。お願い。
「体内の魔力操作はもう十分みたいだし、今度は体の外での制御に挑戦しようか」
「外?」
「ああ。まずはスキルに頼らず魔法を使ってみる練習をしよう」
スキルはほぼ自動的に魔力を制御してしまうから、自分の思った通りの形や威力にすることが上手くできないみたいだしな。
「料理する時なんかに使う生活魔法の【着火】だけど、あれはどういう原理で火が出てるか分かるか?」
「魔力を、火に変えてる?」
「大雑把に言うとそうだ。具体的に言うと魔力を燃えるガスみたいに変えて指先から放出して、それを魔力で作った火打石で着火しているらしい」
「えっと…燃えるガス? ヒウチイシ?」
俺の説明が下手なせいで分からないみたいだ。まあ、そのために色々準備してるわけだが。
「あー、口で言うより実際に見たほうがよさそうだな。ちょっと待ってくれ」
百聞は一見に如かず。魔法以外のもので例えて実践してみるか。
カバンから、油の入った小さなビンと調理用の薪を取り出す。
【火蝦蟇の油】
≪炎を吐き出す巨大なカエル型の魔獣が体内の油袋に蓄えている油。非常に燃えやすいので使用する時以外は火気厳禁≫
冒険者ギルドの近くの、魔物の素材屋で購入したものだ。100㎖で4000エンもした。だから高すぎだって。
ヒルカの草や毒消し草などを扱っている、薬師や錬金術師御用達の店らしい。
他にも針の先に塗って刺すだけで、10分くらい全身が麻痺する毒液とか物騒なものも売ってた。さすがにそれらは専門職以外には売ってくれないみたいだったが。
この油も冒険者ギルドのメンバーカードとか身分証明ができなければ売ってもらえない物だ。
話が逸れたな。で、この油を使って魔法の再現をするわけですよ。
えーと、その辺の手ごろな石を二つ持ってきまして、と。
油を薪に少し塗りたくり、準備完了。
「この油を燃えるガス状の空気、薪を剣、で、その辺で拾った石を点火用の火打石と思うんだ」
「??? え? え?」
「まぁ、実際見てみれば分かる。」
そう言って、左手で持った石に右手で叩きつけて火花を出そうとしてみる。
カチッ、カチッ
むぅ、火花はちょっとだけ出てるが上手く引火しない。
この、この!
カキッ! ガチィッ!
ボボゥッ!
油に引火した途端、薪が一気に炎上した。
「ぬぉう!? お、思ったより派手に燃えるんだなこれ…ビビった…」
「! あの、燃える剣みたいになってる…!」
「あ、ああ。その通り。今のは魔力じゃなくて、目に見えるように道具で再現したんだ。なんとなくイメージができたか?」
「うん…! ヒカルは、すごい。言っても分からないことを、実際にやって見せて分かりやすく説明してる」
「俺が説明下手じゃなかったら、こんなことしなくてもいいんだけどなー。って、も、もう薪が燃え尽きた。すごいなこれ…」
怖いなこの油! もっと厳重に取り扱ってもいいんじゃないのか!? あんなにあっさり売るなよこんなもん!
まあ、元の世界でもガソリンとか普通に売ってたし、ギリセーフか?
「今のを魔力で再現したのが生活魔法の【着火】で、昨日俺が振り回してた燃える剣ってわけだ。生活魔法に毛が生えたようなもんって言うのはそういうことだよ」
「まったく別物に見えても、原理は同じなんだ…」
「じゃあ、実際にやってみるか。最初は両手を使ってやった方が、イメージするのが楽だぞ。あ、念のため何もない方に向かってやるように」
片手で可燃性の魔力を放出して、もう片方の手で魔力を固めて擦り合わせて火花を起こし、点火させる。
最初っから片手は俺も無理だったなぁ。今じゃなんとかできるようになったが。
「片手で、燃える魔力を出し続けながら、もう片方の手で…」
「そう、さっきの火打石みたいに魔力を固めて火花を…ってアルマ、それ魔力放出しすぎじゃ」
ガチッ!
ズゴォォォオオオオオッッ!!!
点火した音が鳴った直後、アルマの前方20mくらいを炎が走った。
火炎放射器かな?
アカン!
ストップ! スタァァァップ!! 師匠の命令により止まれっ!!
「アルマッ!! 今すぐ止めろっ!!」
「ひっ! 火が! 炎が!」
パニックになって魔力放出の止め方が分からなくなってるのか!?
ええい! こうなったら!
水で相殺! いや駄目だ、この勢いじゃまさに焼け石に水! ていうか水蒸気爆発が起こるわこんなん!
なら窒素だ! 魔力を【燃えないガス】に変えてアルマの手の周りを包み込め!
プシュウウゥゥ……
プスプス……
辛うじて、鎮火。幸いにも地面が赤く焼ける程度で済んだ。
あ、あ、あ、危なぁー……!
俺の少ないMPでもそこそこ大きな炎が出たけど、アルマの三ケタ超えてるMPだとこんな威力になるのかよ…!
もしも誤って人や物に向かって放っていたら…多分消し炭だろうなこりゃ。
「アルマ、いきなり一気に放出しすぎだ……っておい!」
「ぷしゅ~……」
空気が抜けたような息を吐き、倒れこんでしまった。
地面に着く前に体を支える。…あれ、これ気絶してない?
あ、もしかして。ステータス確認。
アルマティナ
状態:魔力枯渇+気絶
MP(魔力) :0/113
あー、やっぱり。MP使い切ってる。
どうすんのこの子。確か魔力枯渇すると最低24時間目を覚まさないんだろ?
宿で休ませようにも、また変な目で見られそうだな~…。まぁ、仕方ないか。
待てよ? そういえば魔力供給すれば意識が回復するって話だったな。
ちょっと試してみるか?
安全性とか大丈夫かな。
≪魔力操作の修業の際に、梶川光流よりアルマティナへの魔力供給の実績あり。安全に供給可能と推測≫
あー、あれか。そういえば手に魔力通すのやってたな。てかそんなことまで教えてくれるなんてメニューさんすごすぎない? 鑑定どころじゃない便利さやん。
安全性は確認できた。では実行。
魔力を、俺の掌から、アルマの掌の中へ送り、その魔力を全身の隅々まで少しずつ行き渡らせるイメージで、供給。
…
…
…
あ、魔力切れた。全部使っちまった。
さっき鎮火するのに結構使ったからなぁ。
で、アルマのステを確認。
アルマティナ
状態:魔力不足(大)+気絶
MP(魔力) :5/114
おお、ちゃんとMP回復してる。
しかも枯渇から回復したから最大値が増えてるし。怪我の功名だな。
「アルマ、起きなさい。アルマ!」
「う、うぅん……?」
ちゃんと起きたな、良かった。
「あれ、私、寝てた? 何やってたんだっけ…あ、ひ、火が、火が!」
「落ち着け。火はとっくに消えてる。特に被害もないから安心しろ」
(焼け焦げた地面から目を逸らしつつ)
「あ、あぅ……。ごめんなさい、私…」
「最初は出力を抑えるように言っておくべきだったな。すまない。今後は気を付けような?」
「うん…。私、やっと魔法剣が使えるって思って、舞い上がっちゃったみたいで、調子に乗って、強めに魔力を出してたみたい…」
「ああ、うん。俺も初めはなかなか点火できなくて強めに放出したら、危うく火事になるところだったよ。最初から上手くいくなんて思ってないから落ち込むな。…まぁ、正直アルマの魔力がここまですごいとは思わなかったけどな、ほら」
20mくらいの距離が真っ黒に焼け焦げて、未だに煙を出している地面を指さしながら言う。
「じ、地面が…これ、私が、やったの?」
「うん。すごいなこれ。スキルでこれを再現しようとしたら、レベルをいくつくらい上げればいいのやら。ホント半端じゃない威力だなぁ…」
「半端じゃない……」
アルマさん? なんでちょっと嬉しそうな顔してんの? 俺ちょっとドン引き気味に言ったつもりなんだけど。
「魔力も枯渇して、供給はしたけどたったの5しかないから、今日はもう帰ろうか」
「枯渇…。供給って、ヒカルが?」
「ああ。安心しろ、その時に手を握っただけで変なことはしてないから」
「人から人への魔力の供給って、僧侶とか神官みたいな神聖職にしかできないはずなのに。すごい」
神聖職ってあれか。某国民的RPGの「白魔導士」とか「そうりょ」的な職業かな。
≪神聖職は回復、補助、天啓、聖属性の魔法等のスキルを所有する職業。半戦闘職でLvも存在する≫
大体イメージ通りだな。天啓ってのがちょっと気になるが。
「いや、すごくないよ? 今のアルマでも多分やろうと思えばできるはずだ。あ、でも今は魔力が少ないからやるなよ?」
「私でも…? ヒカルの指導のお陰で……? うん、やっぱりヒカルはすごい」
「だから、違うって…って、ふらついてるじゃないか。やっぱり重めの魔力不足はきついよな」
「うん…。森林の時と同じくらいだるくてクラクラする」
「…仕方ない。乗りなさい」
屈みつつ、背中を向けて言った。
「え?」
「背中を貸すから乗りなさい。恥ずかしいかもしれないけど、その状態で宿まで歩くのは無理だろ?」
「う、うん。分かった」
ちょっと躊躇いながらも背中に体重を預けてきた。
軽いなぁ。やっぱこの子華奢だわー。
っていうか手とか背中とかになにやら触り慣れない感触がががが……!
だから落ち着け俺! これは仕方なくやってることなの! 役得とか考えちゃダメだ!
脳内のゴースト「通報しました」じゃねぇよ!
「あ、アルマ。あんまり体を預けると背中に当たるんだが…」
「…すぅ…すぅ…」
寝てるし。この子無防備すぎへん?
その後、街の中ですれ違う人に微笑ましい目で見られたり、怪訝そうな表情されたり、宿のおばちゃんに「よし、二人一部屋だね」とか言われたりした。ヤメロ。
明日もこの修業するの? せめて魔力切れにならないように注意しないと…。
お読み頂きありがとうございます。