騒ぎの収束
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…いやー、一通り報復を終えるとちょっとやり過ぎたかな、という感情が湧いてこないこともない。
報復の間は、人を一人殺して街を壊滅寸前まで追い込んだうえに俺を殺しかけたこの魔族をどう苦しめてやろうかとかしか考えてなかったけど、それにしたって我ながら酷い。
さっきの様子をアルマやレイナが見てたらどう思うだろうか。…ドン引きされて、嫌われそうだなー……。
で、体中ズタボロになって気絶したままの魔族を掴んで、アルマやレイナのいるところまで飛んで合流。
空から降りると、真っ先にアルマが駆け寄ってきた。
「ただいま。……先に謝らせてほしい、一人で焦って突っ走って、危険なことして済まなかった」
「それは、さっきの怪物を封印する前の話? それとも後の話?」
あ、コレめっちゃ怒ってるわ。
表情は無表情だけど、背後になんか阿修羅みたいなのが見えるんですけど。コワイ。
「………………両方だ」
「前に、一人で無茶するのはやめてって言ったのに、また危険なこと一人で抱え込んで、すぐに飛んでいって、どれだけ心配したと、おもって……っ」
話している途中から、目に涙を浮かべて、俯いてしまった。
また、この子を泣かせてしまった。なんで、俺は何度もこの子を悲しませてるんだろう。
「アルマ…」
「ヒカルが、怪物に撃ち落とされた時に、頭が真っ白になった。もしもレイナがヒカルを助けてくれなかったら、きっと死んじゃってた」
「…」
「もしも、私やレイナが同じような目に遭ったら、ヒカルは平気なの? 悲しくならないの? 泣きたくならないの?」
「…そんなわけないだろ。もしもアルマやレイナが怪我したり、命の危機に晒されたりしたらって思っただけで、嫌な汗が止まらないよ」
「なら、危険なことをしなきゃならない時はもっとよく考えてから行動してほしい。どうすれば危険が減らせるのか、色んなことに目を向けてからにして。今回だってレイナのスキルを最初から使っていたらもっと安全に封印できたと思う」
「…だな。ごめん、今回は本当に危なかった。何度謝っても許してもらえるとは思ってない。口約束してもこの有様だし、これからの俺を見て間違ってると思ったら止めてくれ。馬鹿なことばっかりやろうとするなら俺を殴ってでも窘めてほしい」
「…分かった。最悪急所を蹴ってでも止める」
「いやそれはちょっと勘弁してくださ――」
「何か文句でも?」
「…これからは自重します」
今後、一人で突っ走ろうとすると不能になるリスクがついてくることに。どうしてこうなった。
「あー、えーと、痴話げんゲホッ、…話は済んだかい?」
いつの間にか近くにいたロリマスが気まずそうに声をかけてきた。なにが痴話喧嘩だ、一方的に叱られただけだ。
「済んだなら、色々聞きたいことがあるんだけど、…………まず、君が手に持ってるその人、誰?」
あ、そういえば魔族手にぶら下げたまんまだったわ。すっかり忘れてた。
「こいつが今回の騒ぎの首謀者だ。街を覆う結界を命がけで張った魔族と、他二人を従えてこの街を壊滅させようとしたらしい」
「ってことはそのオッサンも魔族? ………てか今気付いたんだけど、手足が怪しい方向に曲がってるうえに顔面がえらいことになってるんですけど…」
「こいつのせいで死にかけたし、ちょっときつめに仕返ししてやっただけだ。命に別状はないから目が覚めたら尋問でも拷問でも処刑でも好きにしろ」
「うわー怖いわー。言葉だけ聞いてるとどっちが魔族か分からないよ…」
…うん、改めて魔族の状態を見てみると直視するのがキツいレベルでズタボロだわ。我ながらやることエグ過ぎやろ。
「今は気絶してるが、テイムスキルの相手を意のままに操る技能と、催眠スキルを持っているから扱いには気を付けろ」
「テイム…傀儡乃糸かな? アレにハマるともうどうにもできないからねー。スキル封じの拘束具でも着けておこうか。…アレ? もしかしてそれで操られたりした?」
「ああ、急に体の自由が利かなくなって焦ったな」
「ええ? それでどうやって勝ったのさ?」
「魔力を遠隔操作して、俺を操ってる指をへし折ったりしてスキルを解除させた」
「こっわ!? アルマちゃんとレイナちゃんも相当常識外れだけど、君はとび抜けてヤバいね!?」
「ヒカルだから」
「カジカワさんっすから」
…なにそのもう理解するのを諦めたようなリアクションは。
ロリマスが魔族の首に首輪を着けると、魔族のスキル欄に『使用不可』の項目が追加された。
あれがスキル封じの拘束具ってやつか。なんて恐ろしいアイテムなんだ!(棒)
「さーて、こいつを牢屋にぶち込んだらあとは事後処理の時間だねぇ。面倒だけど街が滅ぶより遥かにマシだと思っておこうか…」
「お疲れ。じゃあ俺たちは宿に戻って休みます」
「あ、ちょっと待って、事後報告とかの説明のために飛行士君だけでもできれば同行してほしいんだけどなー」
「断る。もう正直フラフラで今にも倒れそうなんだ。報告は明日にさせてくれ」
「えー……はぁ、分かったよ。ただし、明日にはギルドに顔出してよね。私だけじゃ街の人たちに状況を説明しようにも限界あるから」
今にも倒れそうってのはちょっと大袈裟だが、ものすごく疲れたのは本当だ。
こんなに疲れたのはスタンピード以来かな。危険度はあの時の比じゃないが。
宿に帰って一休みしたら、やらないといけないことがあるし、さっさと帰るか。
「アルマ、帰って一休みしたらアレ作るから手伝ってくれ」
「…アレ?」
「そう、アレだ」
「……! 分かった」
「アレってなんすか?」
「今夜のお楽しみだ」
シャカシャカと何かを振るようなジェスチャーをすると、それがなんなのかを察したアルマのテンションが上がったようにみえた。基本、無表情だから分かり辛いが。
レイナはそんな様子を見て不思議そうにしてる。
「……あれ? コイツ私一人で牢屋まで運ぶの?」
取り残されたロリマスがなんか途方に暮れてたが無視。
精霊魔法かギルドの職員に助けを求めりゃすぐ来るだろうし大丈夫だろ。はい撤収ー。
「いやそこは手伝ってよ! 見捨てて帰ろうとするかフツー!?」
うるせえ! こちとら大事なイベントのための準備で忙しいんじゃー!
「ヒカル、手伝ってあげたら?」
「うーん、ギルドの職員が近付いてきてるみたいだし別にいいだろ。それに帰ってからアレ以外にも色々作らないといけないし」
「晩御飯の準備?」
「ああ、レイナの誕生日祝いのためにとびきり豪華にしてやらないとな」
「え、じ、自分のっすか…?」
「なら仕方ないね。ギルマス、頑張って」
「NOOOーーーーーー!!」
なんかギルマスが悲鳴上げてるけどあと5分もすれば職員が来るから大丈夫だってば。
さーて、料理の何割分かは既に作ってアイテム画面に入ってるが、メインとあと何品かはこれからだ。一休みしたらちゃっちゃと作りますか。
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