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容赦?ない。慈悲?ない。

新規の評価、ブックマークありがとうございます。

お読み下さっている方々に感謝。


今回はアルマ視点です。

「どこに行こうというのかな、お姉さん」



ギルマスが足早に路地裏を駆けている、フードを目深に被った女性に声をかける。

その表情は、飄々とした声とは裏腹に厳しく鋭い目つきで女性を睨んでいる。

…多分、今の私も似たような顔をしていると思う。



「な、なんですかあなた方は。あのバケモノから早く逃げないと食べられてしまいます、早く逃げないと」


「そうだよね、早く逃げないといけないのに、なんでさっき彼に向かって魔法を撃ったのかな?」



半目で睨みながら攻め立てるように言葉を発するギルマス。

それに対し、女性は一瞬目を見開きかけたが、すぐに元の表情に戻った。



「…なんのことですか? 見間違いでしょう、失礼な。それより早く」


「しらばっくれるなら、殺すよ?」



背筋が凍るような、冷たい声で女性に杖を向けた。

その様子から、ハッタリではなく本気だということが分かる。



「や、やめてください! いったい私が何をしたというのですか! お願い、やめて!」



泣きそうな顔をしながら女性が叫ぶ。

はたから見てると、ギルマスが女性に難癖付けて襲い掛かっているように見えるかもしれない…。



「遺言はそれでいいのかな? ねぇ、()()()()()()()()()さん」



そう言い放つと、女性は泣きそうな表情から一変、邪悪な笑みを浮かべた。



「…あら、どこで私の正体と名前を聞いたのかしら?」


「精霊魔法って知ってる? 精霊たちの情報ネットワークを舐めない方がいいよ、お前がラナウグルっていう男の魔族と一緒に再封印を妨害する手筈になっていたのを精霊たちはしっかり聞いていたんだからね」


「精霊魔法、ね。一部のレアな魔獣か、エルフの魔法使い以外には滅多に使い手のいない魔法らしいけど、エルフのあなたなら使えるってわけね」



…ダンジョンでヒカルに精霊魔法を使う魔獣から精霊を取り上げて契約してもらったけど、あの魔獣レア個体だったんだ。

お母さんも一応使えたと思うけど、あんまり得意そうじゃなかったっけ。



「本当なら、魔族相手に会話なんかせずにさっさと始末するべきなんだろうけど、貴重なサンプルだし? せっかくだから一体くらいできれば生け捕りにするのも悪くなさそうだなーって思ってるところなんだけど、大人しく捕まるって言うなら命まではとらないであげるよ?」


「あらあら、どこもかしこも小さいと思ったけれど、頭の中は小さいどころか空っぽみたいね?」


「んー? どういう意味かな?」


「あんた如きに大人しく捕まってやる理由が無いって言ってんのよ、クソガキが。…いえ、あなたエルフだからむしろババアだったわね、失礼、おばあさん」


「そうそう、こう見えても結構歳食ってるんだよねー。こんなに肌ピチピチなのにねー。ところで私より何十歳も年下なのに、目元に小じわがあるね。老け顔ってよく言われない?」



敵同士だから仲が悪いのは当たり前なんだろうけど、なんだかそれとは別の理由で二人の間に物凄く険悪な空気が流れているように感じる。

なんか、あまりこの場に長く居たくない…。



「……死になさい、クソババア」


「そりゃお前だよ、オバハン」



互いに罵り言葉を吐き捨てた直後、魔法が放たれた。

魔族は氷柱の弾を、ギルマスは炎の槍を放ち、相殺。

水蒸気に紛れて魔族がギルマスに歩を進めて距離を詰めようとしている。

その手には、短剣。真っ直ぐギルマスの胸を狙って突き出している。



「っ! 『シルフィ』!」



ギルマスが叫ぶと、急に強風が魔族に向かって吹いて前に進むのを妨害した。

あれも精霊魔法なのかな。



「…魔法が使えるのに短剣術とはね。スキル付与の装備品でも着けているのかな?」


「はぁ? そんなもの必要ないわよ。魔法も、武器も、使えて当たり前なのよ。どちらか片方しかまともに使えない無能なお前たちと違ってね!」



そう言いながら短剣を右手でギルマスに向かって投擲、さらに氷の槍を左手で前方三方向に放ち、回避を困難にしている。



「『ノーム』!」



ギルマスが地面に魔法を放つと、ギルマスの目の前に分厚い岩の壁が地面から隆起した。

短剣と魔法を防ぐために発動したみたいだけど、視界が塞がれるような防御法は危険なのに。

側面から、また短剣を構えた魔族がギルマスに接近しようとしている。



「またそれかい? 芸が無い」


「…頭上注意よ、おばあさん」


「っ!?」



精霊魔法で作った壁を越えて、大きな氷柱が上空からギルマスに襲い掛かってくる。

視界が塞がれた直後に魔法を空に向かって放っていたみたいだ。



「くっ!?………あれ?」


「!?」


「…間一髪」



氷柱に潰されるか短剣に刺されるかする前に、気力操作で速度と移動距離を強化したクイックステップでギルマスを抱えて救出。…この人軽い。

ギルマスも魔族も、何が起こったのか分からない、といった顔をしている。



「…そう言えばもう一人居たんだったわね。影が薄いから忘れていたわお嬢ちゃん。『縮地』を使えるとは、中々やるようね」


「ごめん、助かったよアルマちゃん」


「…もしかして、あんまり実戦慣れしてない?」


「うん、普段は精霊たちを使った情報収集とかが主な業務だからねー、戦う能力は無くはないけど機会が無いんだよ」


「なら何であんな煽るようなこと言ってそのまま戦おうとしたの…?」


「いや、ついノリで。あのオバハンの言葉についイラっとして」



…ノリで命を危険に晒すようなことはやめてほしい。

内心呆れていると、女魔族が禍々しい笑みを浮かべながら口を開いた。



「縮地が使えるっていうことは、そっちのババアと違って見た目によらず実力者みたいね。だから、本当の姿で戦ってあげるわ」



そう言うと、肌がみるみる青色に変わっていき、白目が黒目に変わり、魔族としての本性を露わにした。

多分、能力値も大幅に上がってるように見える。



「さぁて、来なさいお嬢ちゃん。もっともその勇気があればだけどねぇ」


「…アルマちゃん、あれ、さっきまでと同じ奴と思わない方がいいかも。明らかに見た目からして強そうだし」


「見れば分かる。…でも、関係ない」



そう、関係ない。



「ヒカルに怪我させる原因を作った、アイツを許すつもりなんかない」


「!? え、は、速」



強化した暴風剣を発動し、さらにクイックステップを使って一気に距離を詰めて魔族に斬りかかる。

ザクッ と肉を思いきり斬り付けた感触が剣を通して伝わってくる。



「あぐっっいあああああ!!?」



斬られた魔族は苦痛に顔を歪めて叫んでいる。



「こ、の、ガキがっ……!?」



間髪入れずに、斬る。

ヒカルのお陰で手にすることができた、魔法剣で、ヒカルを傷つけたコイツを斬る、斬る、斬る!



ザクッ ドシュッ ザシュッ



「うあああああっっ!!」


「!」



何度も斬り付けられて、たまらず絶叫しながらも氷魔法を発動させ、冷気の爆発ともいえる現象を自分を中心に炸裂させる魔族。

だけどクイックステップで回避したから問題なし。



「ふ、フフフ、なるほど、強いわ、ね」



全身から血を流しながらも笑みを浮かべる魔族。

まだ余裕がありそうかな?



「でもね、勝つのは私よ」



そう言うと、魔族の周囲に何十、否、何百もの氷の槍が生成された。

かなりの広範囲を標的に出来る魔法のようで、回避は難しそうだ。

ハイジャンプで上空に、いや、魔法の良い的にされる。

ギルマスの精霊魔法で防ぐ?…多分無理、さっきまでの魔法とは威力が段違いに高そう。

ん、精霊魔法?



「グチャグチャのミンチになって死ねぇっ! 小娘ぇっ!!」



氷の弾幕が私とギルマスに襲い掛かってくる。

上にも横にも逃げられない、なら。



ズガガガガガッ!!



着弾した建物の壁がまるでビスケットのように容易く砕かれていった。

あれをまともに喰らったら、魔族が言うように挽き肉になっていたと思う。


もっとも、私とギルマスが居た場所には、挽き肉などなく何も残っていない。



「……は? いったい、どこにっ!?…………きゃあああああっ!!?」



突如、魔族の踏みしめていた地面が消えた。

精霊魔法で作ったいつもの落とし穴だ。ワンパターンだけど、効果は絶大。

この落とし穴、敵に使えば身動き取れない状態にできるけど自分や味方に使えば本来あり得ない下方向への回避が可能になる便利な技だ。



「…あれ? 精霊魔法の使い方、私より上手くね? てかリトルノームにこんなことできるの?」


〈まりょくをおおめにもらえばできるぞー。すきるにたよるだけじゃむりだろうけど〉


〈ちょうしんどいからできればやめろ!〉


〈ろうどうきじゅんほういはんだー!〉


「…何か文句ある?」


〈〈〈ありません、マム!〉〉〉


「…軍隊かなんかかな? 調教されすぎでしょ」



苦笑いを浮かべながらギルマスが呟いている。ヒカルの非常識な行動を見ている時の自分もこんな顔をしているんだろうか。

もう自分も常識の範疇を逸脱しつつあるのに何とも言えない気分になる。…ヒカルに比べたらマシだろうけど。多分。



「この! 出しなさいよ!」


「……さようなら」


「え、ちょ、何言って、い、いやああああああっ!!?」



穴の中に、魔力を圧縮して高密度にするイメージで作ったファイアーボールを放つ。

火球の大きさは通常のものと大差ないけど、威力は別物。

なにせ魔力の3割近くをこの一発に込めているから、その破壊力は絶大。



ドゴォォォンッ!!



穴の中から、空に向かって火柱が上がった。どう見てもファイアーボールの威力じゃない。

少し魔力を籠め過ぎたかな。これなら半分くらいでも倒せたと思う。



「う、うわああ………やり過ぎじゃない…?」


「確実に仕留めたかったから、つい」


「これ、もう骨も残ってないんじゃないかな……。もしかして、アルマちゃんすごく怒ってた?」


「うん。ヒカルに危害を加えた奴に、容赦はしない」


「………怖いなー。こりゃ彼も尻に敷かれそうだねー………」



思ったよりもあっさりカタがついた。

…もしかしたら、これはただの下っ端でコイツ以外にも魔族が居るのかもしれない。

ギルマスに頼んで、精霊魔法で他にも怪しい人が居ないか探してもらおう。


ヒカルと、レイナは大丈夫だろうか。

どうか、無理せず無事でいてほしい。


お読み頂きありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
質問丁寧に答えてくださり本当にありがとうございます! おかげさまで推しへの理解が深まりました……。 そして何度も質問重なってしまって申し訳ないのですが、魔族は子供作れないけどそういう機能はついている…
感想返しありがとうございます。フルバータムさんが書籍の方にも登場するということを遠回しに教えていただき、書籍版を購入し、ウェブ版と内容にも違いがあるということを初めて知りました。にわかで申し訳ありませ…
漫画版のフルバータムさんが想像以上に可愛すぎて、「共存してぇ……」と切実に思わされました 魔族なのに女性らしい気品のある喋り方と、痴女ルックの組み合わせがドツボでした 設定的にどうあってもヒロインには…
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