ぽんぽこぴー
新規の評価、ブックマークありがとうございます。
お読み下さっている方々に感謝。
「カジカワさん、大丈夫っすか!? 火の玉がモロに当たってたっすけど!」
建物の影の中で、レイナが心配そうに声を上げている。
いや、影と同化している? レイナも、俺も。これ、もしかして。
≪忍術スキルLv1【影潜り】実体を影に移し気配を消し、あらゆるダメージを無効化する技能。スキル使用者の任意で自分以外の対象も影に移すことが可能。但し、影が光で照らされると強制的に実体化してしまう≫
やっぱり忍術スキルか。って発動中ほとんど無敵じゃんコレ! こんなんチートや! チーターや!
Lv1の時点で既にチート級の技能を使えるとは。レイナ…恐ろしい子!
「…危ないから隠れてろって言っただろうに」
「あんなの相手じゃどこに隠れても無駄っすよ! カジカワさんが封印失敗した時点で詰みっす!」
ですよねー。
バリケード張って籠城しようにも、不定形だからどんな狭い隙間にも入り込んでくるし、その前に普通に力ずくで破壊されるだろうしな。
感知能力も恐ろしく高い。アルマの御両親は気配だけで対象がどこに居るか手に取るように分かるらしいが、恐らくコイツも大差ないことができそうだから隠れても無駄。
つまり、俺が死んだ時点で再封印不可能になるためこの街で隠れて生き残ることは不可能に近いということだ。
そう考えるとレイナの行動は最適解だったと言えるか。いや、むしろ
「レイナのスキルをロクに確認せずに慌てて一人で突っ走った俺のミスか…。すまん、マジで助かった」
「ふふふ、やっと役に立てたっす。もっと褒めてもいいんすよー?」
「ああ。レイナが助けてくれなきゃ今ごろ死んでたところだ、本当にありがとな」
「て、手放しで褒められると照れるからやっぱりいいっす…」
気恥ずかしそうに言葉を漏らすレイナ。姿が見えてれば赤面した顔を拝めていたかもな。
「あ、そろそろ一旦影から出ないと。この技、発動中魔力がゴリゴリ減っていくから長時間は使えないんすよ」
「ここで実体化するとスライムに捕まりそうなんだが」
「大丈夫っす。影の中なら物凄い速さで移動できるから距離をとるのは簡単っす」
≪【影潜り】発動中はMPを秒間1ずつ消費。影の中での移動速度は最大でおよそ秒速100m程度≫
えーと、つまり影の中なら時速360kmでダメージを受けずに移動できるってか? ホントチートだなぁ、夜の間とかレイナの独擅場になりそうだ。
建物の影伝いに移動し、バケモノから約1km離れた場所で実体化した。
身体の状態を確認してみると所々深めの火傷を負っているのが分かった。痛い痛い熱い。
「いてて…あのスライム、滅茶苦茶に魔法ぶっ放してきやがって」
「ひ、酷い火傷っすけど、大丈夫なんすか?」
「こんなもんポーション飲んどきゃ大丈夫だ」
そう言いながら中級ポーションをがぶ飲み。
生命力操作でHPを消費して全身の火傷を速やかに治し、念のためさらにポーションを飲んでHPを最大まで回復しておく。
「その薬、すごい効き目っすね」
「俺の場合はポーション飲んだだけじゃ治らないけどな。生命力を回復した後、直接操作で治療してる。それよりレイナ、君の力を貸してほしい」
「影潜りを使って一緒に移動しつつ、封印するんすね?」
「話が早いな。その技能は魔力消費が激しいみたいだけど俺が補給するから大丈夫だ。それより、危険な仕事になるが覚悟はいいか?」
「正直、滅茶苦茶怖いっすけどそれが生き残ることができる可能性が一番高いから仕方ないっすよ」
…うん、怖いよなホントに。俺もめっちゃ怖い。
でも逃げ場はないし、このままだと俺もアルマもレイナも街の住人もみんな食われちまうし、やらんわけにはいかんのですよ。
あと、さっきの炎の魔法の弾幕に混じって的確にこちらを狙って攻撃してきた奴がいるしな。それを避けようとしたら炎に当たっちまった。もうそいつは捕捉されているようだが。
まあそれはあっちに任せよう。それより早くあのバケモノを止めますかね。
魔力補給を済ませた後、再び影潜りで声の届く距離まで移動。
メガホンを取り出し、もう一度封印の合言葉を叫ぶ準備をする。
「合図をしたら、すぐに潜れるように準備しといてくれ」
「了解っす!」
元気に返事を返してくれるレイナを頼もしく思いながら、封印の合言葉を今一度叫ぶ。
「『じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの』…」
叫び始めた直後、スライムがこちらに向かって急接近してくるのが分かった。
先程再封印されそうになったことに脅威を感じているのか、凄い勢いで移動している。時速約80kmから100kmってトコか?
遅い遅い。
レイナを肩をポンと軽く叩くと、二人とも影に溶けるように消えていく。
スライムは困惑したように辺りを探っているが、もうそこには俺たちはいない。
声が届く距離をキープしつつ再び実体化。そして合言葉の続きを叫ぶ。
「『すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところにすむところ やぶらこうじのやぶこうじ』」
よし、多少続きを読むのにタイムラグがあってもセーフのようだ。
そしてやっぱり『やぶこうじ』の方だったらしく、先程のように封印の言葉の鎖が途切れることは無かった。
その声に反応して再びこちらに接近してきたが、レイナの肩を軽く叩き再び影の中に潜り移動。そして続きを叫ぶ。その繰り返しだ。
「『ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいの』」
…あと少しだな。
しかし、こうやって姿を現して寿限無を叫ぶ度にこっちに向かってくるスライムを見てるとなんかちょっと可愛く思えてきた。パブロフの犬かな?
いやまあ既に何人も食い殺してるだろうから飼うつもりは微塵もないが。怖いし。
≪取り込まれた人数は現在27人。全員まだ衣服や装備を溶かされ始めている程度で、命に別状はない模様。再封印が完了すれば解放されると推測≫
え、喰われた人たちはまだ助けられるってことか?
≪消化吸収されていなければ救出は可能≫
なら、さっさと封印しないとな!
「『ぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの』…っ!」
あと少しで封印が完了、と言ったところでこちらに向かって炎の弾が飛んできた。
撃ったのは、スライムじゃない。さっきの奴とも違うようだ。
だが、予想していなかったわけじゃない!
ぺしっ!
魔力の緩衝材を纏った手で、ハエでも払うかのように弾き防いだ。
思わず声が漏れそうになったけど、そうなったらまた最初からやり直しだから我慢だ!
「『ちょうきゅうめいのちょうすけ』ぇっ!!」
寿限無を叫び終わった直後、言葉の鎖がスライムの身体を塗り潰すように絡んでいき、どんどん体積が縮んでいく。
その間に、スライムから取り込まれた人達がまるでポップコーンのようにはじき出されていく。…良かった、全員無事のようだ。ほぼ全員半裸だけど。
みるみる小さくなっていって、最後には一枚のカードがそこに残った。
カードを拾って見てみると、表面に寿限無が日本語のひらがなで書かれている。なにこれとってもシュール。
こんな状態でも膨大な生命力や魔力が感じ取れる。アイテム画面に入れようとしたが、中にスライムが封印されているせいか無理だった。
「やったっすね! なんかぽんぽことか変な言葉が聞こえたっすけどアレ本当に合ってたんすか?」
「あれは長生きできるように縁起のいい言葉を並べた、人の名前だよ。レイナも自分の子供が生まれたらポンポコピーとかどうかな」
「なんか嫌だから遠慮しておくっす…」
だよね。俺も嫌だ。
「さて、それよりさっきの火球を飛ばした奴が気になるな」
「今回の事件の犯人っすかね?」
「あるいは協力者かな。建物の間に隠れているけど、カードを奪う機会でもうかがっているのかねぇ。バレバレだけどな」
マップ画面を使うまでもない。街の住人達とは明らかに違う、異質な気配。
魔獣よりもさらに禍々しく不快な魔力反応。こいつは、まさか。
影潜りで建物の陰に隠れているそいつの背後で実体化し、不意打ちで胴体に魔力パイルバンカー発動!
ダァンッ!!
「がはぁっ!?」
聞きたいことがあるから、死なないように先を尖らせないようにしたが、それでも結構なダメージだろう。ハイコボルトぐらいなら即死する威力だしな。
「か、カジカワさん、ちょっといくらなんでも乱暴すぎる気が…」
「気遣いは無用だ、コイツが犯人かその仲間なのはほぼ確定だし、そもそもコイツ人間じゃないしな」
「…え?」
ステータス表示を確認してみると、その正体が分かった
魔族:ラナウグル
Lv27
状態:打撲傷
【能力値】
HP(生命力) :293/487
MP(魔力) :357/384
SP(スタミナ):201/254
STR(筋力) :199
ATK(攻撃力):199(+20)
DEF(防御力):244(+68)
AGI(素早さ):210
INT(知能) :308(+67)
DEX(器用さ):198
PER(感知) :177
RES(抵抗値):249
LUK(幸運値):44
【スキル】
魔族Lv3 攻撃魔法Lv6 補助魔法Lv4 杖術Lv5 体術Lv5
装備
翡翠の杖
ATK+20 INT+67
魔絹のローブ
DEF+68
魔族。初めてお目にかかるな。
見た目人間とほぼ変わりないように見えるが、これじゃあ街の中に紛れ込んでても気付かんわな。
さてさて、それじゃあなんであんなことをしでかしたのかOHANASHIしましょうかね……フフフ……。
お読み頂きありがとうございます。




