暴食粘獣
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お読み下さっている方々に感謝。
…あっさり予想されててちょっと凹んだのは秘密。
え?誰でも予想できる?ソウデスカハハハ…
……来た!
やばいやばいやばい、これ、今まで感じた中でもトップ3に入るくらいヤバい気配だわ。
因みに2番目はアルマパパ。1番? 言う必要ある?…女は怖い。
比較対象がその二人だとどうしても霞むが、この街に近付いている奴も十二分に規格外の存在だ。
こりゃ気を抜いたらすぐに食われかねないな…。
「おい! もう封印が解けたみたいで、この街にでかいのが近付いてるぞ!」
「え、マジ!? てかなんで分かるの!?」
「話は後だ! 早く再封印用の魔道具寄越せ!」
「は、はい!」
ロリマスから封印メガホンを受け取り、アイテム画面に収納。
それを見てロリマスがさらに困惑していたが無視。もうそれどころじゃない。
アルマとロリマスに再封印中の支援を頼みレイナは隠れているように言った後、外に出た。
そして魔力飛行でバケモノが街に入ろうとしている方向にひとっ飛び。
…街の結界が悲鳴を上げているのが感じ取れるようだ。
もう既に結界を壊し始めている。速さもパワーも桁違い。
再封印する間これを相手しなきゃならんの? 十数秒でも長すぎると思うんですが。
バケモノが攻撃している門の近くには怖いもの見たさか何人か様子を見ている人がいる。いや、はよ逃げろ。
「お、おい!なんだありゃ!? 空飛んでるぞ!」
「何だあの仮面!?」
こちらに気付いた人々が困惑した声を上げている。
仮面言うなっつーの。俺の趣味じゃないと何度言わせれば(ry
ってそれどころじゃない、あのままじゃ危険だ!
「早く門から離れろ! その門から魔獣洞窟に封印されていた怪物が侵入しようとしている! そんな所に居たら門の周りの結界が破られた直後に喰われるぞ!」
「な、なんだって! てかお前なんだよ!?」
「ギルドマスター・イヴランミィに怪物の再封印を依頼された者だ! 喰い殺されるのが嫌ならさっさと門から離れろ!!」
大声で避難を促すが、結界が突破されるのもあと少しだ、このままだと……!
バリィンッ! とガラスが砕けるような音が響いた。
門周りの結界が破壊されてしまったようだ。くそ、思った以上に早い。
そして、それは破壊された結界の隙間から染み出るように街の中に入ってきた。
侵入してきたモノは、黒い流動体。まるでブラックコーヒーが自分の意志で動き回っているかのような外見だ。
全体の大きさは不定形なせいでよく分からんが、25mプール一杯分くらいはありそうだ。デカすぎだろ。
こいつが、例のバケモノか。見てるだけで鳥肌が立ってくる、圧倒的な存在感。これが元はただのスライムというのが信じられん。
…見るのが怖いが、ステータスを確認してみるか。
魔獣:スライム・オブ・グラトニー
Lv68
状態:空腹
【能力値】
HP(生命力) :4875/4875
MP(魔力) :3417/3417
SP(スタミナ):381/8754
STR(筋力) :1784
ATK(攻撃力):1784
DEF(防御力):2640
AGI(素早さ):1402
INT(知能) :697
DEX(器用さ):874
PER(感知) :1751
RES(抵抗値):1374
LUK(幸運値):248
【スキル】
魔獣Lv7 粘性獣Lv10 体術Lv7 爪術Lv9 牙術Lv7 剣術Lv8 槍術Lv4 弓術Lv4 …その他多数
【マスタースキル】
暴食成長
えっぐいな! 何だこりゃもうチートとかそんなレベルじゃない! バグキャラの領域じゃねーか!
案の定能力値が4ケタ超えてやがるのがほとんどだ。張りあえるのは幸運値くらいか? まともに戦おうとしてもそもそも戦いじゃなくて一方的な捕食にしかならないだろう。
スキルの方も質、数共に大量。スライムが習得できないようなスキルが多いが、もしかしてこれ喰った相手のスキルを吸収した結果なのか?
≪マスタースキル:【暴食成長】 粘性獣スキルがLv10に到達した存在が得られるスキル。捕食した相手の能力値やスキルを一部我がものとすることができる≫
これまでどんだけ喰ってきたんだよコイツ。勇者を何度も喰った影響もデカそうだな。
…コイツを再封印しろって? どうしろっちゅーねん。その前に喰われる気しかしねーんだけど。
≪声が届く範囲ならば封印は可能。攻撃が届かない高高度にて封印の合言葉を叫べば比較的安全に封印できると推測。但し、攻撃魔法などの遠距離攻撃には注意≫
やっぱそれしかないわな。半径20m以内だと即捕食って言ってたし、100mくらい上空に飛んでみるか。正確な高さはメニューさんに測ってもらおう。
って速いなあのスライム。自動車並みのスピードで移動して捕食対象を探している。
門の近くにいた人も何人か喰われたようだ。……合掌。やっぱり、人なんて死ぬときはあっさり死ぬもんなんだな…。怖い。
早く再封印してやらないと犠牲者がどんどん増えていく。
迅速に安全な高さまで達してから、メガホンを取り出し起動。準備は整った。あーテステス、うむ、よく響くな。
さーて、それじゃあ叫びますか!
「すうぅ…………『じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ』…」
勇者が決めた合言葉、それは落語の寿限無。
神父様が眠る直前に放った言葉は『じゅげむ』と二回繰り返していた。…もしも俺が寿限無を暗記していなければ詰んでたところだ。
なんかちょっと前のアニメのOPだかEDだかで歌詞になってたっけ? 俺が覚えたのは某配管工の4コマ漫画の影響だが。…話が脱線したな。
合言葉を読み進めるごとに徐々にスライムの身体に言葉でできた鎖のようなものが絡みついていく。文字の内容が寿限無じゃギャグにしかならんが。
「『くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ』……あ、途切れた」
くそ、『ぶらこうじ』じゃなくて『やぶこうじ』の方だったか!個人的にはこっちの方が語呂がいいのに!
文字の鎖が解けて消えていく。まずい、それと同時にこちらに向けてスライムが攻撃を仕掛けてきた。
直径1mはある炎の弾を散弾銃のように広く、かつ機関銃のように連射している。
おいおいおい!なんだこりゃアルマの攻撃魔法の比じゃないぞ!
辛うじて避け続けているが、このままじゃ封印どころじゃない!
ドォンッ!
「う、うぉあっ!!?」
あっぶねぇ! 当たる直前に魔力の緩衝材を展開して防御したが、それでもHPが半分近く溶けた。
こりゃ駄目だ。空を飛んでるだけじゃいずれ撃墜される。高度を落としても即喰われるだろう。
…詰んだかな、こりゃ。
あ、もう一発 当たる 避け切れ な い
ドォンッ!
再び緩衝材で防御したが、HPが尽きた。
そして少なからずダメージを負ってしまった。身体のあちこちが熱いし痛い。
落ちる。落ちてしまう。魔力飛行をしようにもダメージのせいか上手く魔力が纏えない。このままじゃ喰われる前に地面と激突して死ぬ。
…人なんて死ぬときはあっさり死ぬもんなんだな。俺も決して例外じゃない。そんな事は分かってるつもりだったのに。
ああくそ、死にたくないなぁ。まだやりたい事がいっぱいあったのに。アルマとレイナに食べさせてあげたい料理もまだ山ほどあったのに。
レイナの誕生日祝いも、豪華にしてあげたかったのになぁ。
あ、そろそろ地面だ。せめて痛くないように死にた
激突する直前にドロンッと建物の影から黒い手が俺の身体に伸びてきた。
一瞬スライムかと思ったが違う。この、小さな人影は
「ま、間に合ったっす…!」
レイナが、俺の身体を影の中に引きずり込んだのが分かった。
え、なにこれ。
お読み頂きありがとうございます。




