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手段を選んではいられない

新規のブックマークありがとうございます。

お読み下さっている方々に感謝。

 

 ギルマスに早足で案内されて教会に到着。

 普段この辺りに来ることが無いんだが、こんな場所もあったのか。

 建物の上に大きな十字架が立っているので教会だと一発で分かるんだが、十字架の中心に目のようなシンボルがあってちょっと怖い。見た目邪教のシンボルに見えなくもないんですが。



「ここが教会か、変わった十字架が立ってるけど、あれなんだ?」


「この世界をお創りになり、隣人と支え合い生きていくためのスキルを与えてくださった神様を崇め、感謝して、その思想を忘れず日々を過ごす宗教【ゴッデスタ教】の教会だけど、知らない? 世界で最もポピュラーな宗教だと思うんだけど」



 知らぬ。

 てかゴッデスタ? この世界の神様って女神なのか? 会ったことないから分からんけど勇者なら知ってるのかな。

 もしも会う機会があったら聞いてみるのもいいかもしれない。



「説明ありがとう、悪いが宗教とかには疎いんだ。この中に神父様が寝てるのか?」


「寝てるって言うと暢気にグースカ寝息を立ててるように聞こえるけど、襲撃者のスキルの影響だからね?」


「いつまで寝てるんすかね? まさかほっといたらずっと目を覚まさないとか…」


「心配ご無用。鑑定士によるとあと3日もほっとけば目を覚ますらしいよ。もっともこのままじゃバケモノに食われて永眠だろうけど」


「心配する要素しかないっすけど!?」


「そうなる前になんとしても意識を回復させて合言葉を聞き出さなきゃならない。合言葉は長ければ長いほど封印力が強まるらしいけど、神父様も大分お歳だし、あまり長時間意識を保ってられないだろうから急いで聞き出さないと」



 お歳ねぇ。ロリマスとどっちが年上なんだろうね?



「なんか今失礼なこと考えなかった?」


「いや、別に…」



 勘が鋭いな。さすが年長者は違う。



「なんか今さらに失礼なこと――」


「考えてないです。さっさと神父様のとこ急ぐぞ」


「釈然としない。解せぬ」



 ジト目でこちらを睨みながらぶーたれてるロリマスをいなしつつ教会に入り、神父様のもとに直行。

 教会の中は不安そうにしている人や必死に祈りを捧げる人の姿がちらほら見える。こんな状況じゃ神頼みもしたくなるわな。

 神父様の部屋の前には信徒と思しき男性が見張りに立っている。



「ギルドマスター、街の様子はいかがでしたか?」


「大混乱だね。ヤバいのが攻めてきそうになってるのに逃げられなくちゃ無理もない」


「でしょうね、いったい誰が…」


「誰がやったかも気になるけど、それより今はどうやって解決するかが重要だよ。神父様はまだ目覚めない?」


「…はい」



 沈痛な面持ちで言葉を返す男性。

 それに対し、決意を固めたような顔つきでロリマスが口を開いた。



「なら、仕方ない。補助魔法で一時的に意識を回復させて合言葉を聞き出すのを試してみるけど、いいね」


「補助魔法…【デトックスブースト】ですか!? あれは状態異常に対する抵抗力を高めますが著しく体力を消耗します! 神父様の御身体が耐えられるかどうか…!」


「現状、神父様の意識を取り戻す方法はそれぐらいしかないよ。私に回復魔法は使えないし、他の人が回復させようとしても無理だっただろう?」


「…はい。状態異常の解除を試みても効果が無く、恐らくより高レベルのスキル技能でなければ解除はできないようです」


「でも、状態異常の解除は無理でも、それに対する抵抗力を高めればもしかしたら意識を取り戻せるかもしれない。試す価値はあると思うよ」


「ですが、神父様のお歳ではスキルの負荷に耐えられないかもしれません。仮に意識を取り戻せたとしても、おそらく1分意識を保っていられるかどうか…」


「このまま何もしないと神父様を含めた大勢の人が死ぬ。そうなる前に早く手は打っておくべきだと思うよ? それとも神父様の身を案じて、心安らかに眠っていてもらってみんなで仲良く死ぬ?」



 嫌味に似た皮肉交じりに説得しているが、早くしないとバケモノが今にもこちらに向かってくる可能性もあるから無理もない。

 男性の方は少し悩んだようだが結局神父様が眠っている部屋に入れてくれた。

 話の分かる人でよかった。もし、これが頭の固い老害オヤジとかだったら説得してる間にバケモノ襲来してるところだったかもしれない。



 部屋の中には小さな本棚と隣に純白のベッド。

 そこに白髪の老人が死んでいるかのように静かに眠っている。この人が神父様か。



「…もしもこれが原因で命の危機に瀕したりしたらごめんなさい、それでも、私はこの街を守る義務があるんです。………【デトックスブースト】」



 ロリマスが軽く会釈をした後、神父様に魔法を放った。

 神父様の身体に淡い光が染み渡るように行き届いていき、抵抗力を強化していっている。

 同時にスタミナが徐々に減少していってる。あまり長くこの状態が続くと危険そうだ。



「神父様、起きてください、神父様」



 ロリマスが神父様の身体を揺すって起こそうとしているが、目を開ける気配がない。



「神父様ー! 起きてくださーい!」



 今度は頬を引っ張りながら声のボリュームを上げて呼びかけてるが未だに起きず。

 こうして見ると祖父を起こそうとしてる孫みたいでちょっと微笑ましく見えなくもない。



「しんっ! ぷっ! さまっ! 起きてっ! くださいっ!!」



 ベシッ! ビシッ! バシッ! と頬にビンタをかましながらさらに大声で呼びかけている。相手御老体やぞ。あんま無茶したるなや。

 殴られた頬が赤くなってもなお、神父様は起きない。これもう無理じゃね? 全然起きる気配無いんだけど。



「はぁ、はぁ、………仕方ない、これはあんまり使いたくなかったけど、お許しください、神父様」



 そう言いながら、懐から何やら赤い半透明の液体が入った小瓶を取り出した。小瓶と言うより目薬の容器みたいにも見えるが、なにあれなんか嫌な予感が。



≪【ライトニングペッパーオイル】極めて刺激の強い調味料の一種。強力な気付け効果があるが粘膜に触れると激痛が走り涙腺から分泌液が著しく漏れ出すほどの刺激をもたらす≫



 ヘーソウナンダーコワイナー。

 で、その液体の入った小瓶をなんで神父様の鼻に突っ込んでるのかなこの人は。



「そぉい!」



 さらに小瓶をつまんで一気に中の液体を注入しおった。鬼か。



「……ふ、ふぐぅっぐああああっっあああがあ!?!?!」



 奇声を上げ、目から涙を滝のように流しながら飛び起きた。

 そして地面に倒れのたうち回りながら泣き叫んでいる。



「「…うわぁ…」」



 その様子を見てアルマとレイナがドン引きしたような声を漏らした。あんな阿鼻叫喚な状態見たら無理もないわー…。

 大丈夫かあれ。涙と鼻水でなにか話すどころじゃないように見えるんだが。



「げほぉっ! ごほごほっ!! がはぁっ!……な、なにが起きたのですか…? おや、そこに居るのはイヴランミィさんですか? おはようございます」


「おはようございます神父様。荒っぽい起こし方をして申し訳ありません。時間が無いので簡単に現状を説明させて頂きますと、魔獣洞窟の封印が現在何者かの手によって解かれようとしています」


「な、なんですと…?」


「その何者か、あるいはその仲間の手によって昨日の夜に襲撃され、スキルによって神父様から合言葉を聞き出し、しばらく目を覚まさないようにスキルを使われたようなのです」


「な、なるほど……あれほどの刺激を受けてなお今猛烈な、眠気がおそってきてい、るのは…そのせい…」



 先程飛び起きた勢いはどこへやら、段々目が虚ろになり、再び眠りにつこうとしている。



「待って!眠らないで!眠る前に再封印のための合言葉を教えてください! このままじゃ街は封印されている怪物のせいで壊滅してしまいます!」


「あいこ、とば、は………じ……………じ……げ……」


「し、神父様!? 神父様!! まだ全然言い切っていませんよ! 起きて! お願い!」



 少し何かを呟いた後、言い切らないうちに糸の切れた人形のように倒れ、再び眠りについてしまった。



「……くそぉっ! あと少しだったのに! こうなったらもう一回!」


「やめておけ、今のでもう神父様のスタミナはほとんど残っていない。無理やり起こしても今度はスタミナが枯渇したあと徐々に生命力が失われて多分話す前に死ぬぞ」



 ってメニューさんが言ってます。



「……ちくしょう、全部無駄だった。どうすればいいのさ、もう、どうしたら……うぅっ……!」



 涙を流しながら絶望した表情で呟くロリマス。




 無駄じゃない。さっきの眠る直前の神父様の言葉は確かに意味があった。



「いや、さっきので合言葉は分かった。多分な」


「……え?」


「な、なに言ってたかほとんど分からなかったんすけど、カジカワさん分かったんすか!?」


「100パーセント間違いない、とは言い切れないけど、可能性は高い。試す価値は充分だと思うぞ」


「あ、合言葉は勇者が決めて、それを代々神父様が受け継いできて他は誰も知らないはずなのに…!? 何故、そんなことが言えるの?」


「そりゃ、俺が勇者の同郷だからだよ」


「……………………………………なにそれ初耳なんですけど」



 目を点にして口をあんぐりと開けて呆然とするロリマス。

 ダイジェルのギルマスにも同じ言葉を言われたっけ。てかダイジェルからロリマスに手紙が届いた時点じゃ俺が異世界の人間だってこと知らなかったんだな。



「そういうわけだから、後は試してみるだけだ。上手くいかなきゃ今度こそ詰むけど、どうする?」


「……お願い。どうか、どうか……おねがい、します……!」



 これまでの飄々とした態度とは打って変わって真摯に懇願してくるロリマス。

 …急にそういう態度とられるとリアクションに困るんですけど。なんかこっちまで申し訳ない気分になるやん。

 さて、そうと決まれば準備をしますかね。


 …封印した勇者、合言葉を決める際にネタに走ったことに呆れればいいのか、こういった事態の際に次代の勇者とかが再封印できる可能性を残したことに感謝すればいいのか。

 あれをメガホン使って大声で叫ぶの恥ずかしいなーやだなー………。


お読み頂きありがとうございます。


ちょっと今月来月の間仕事多忙のため更新ペース落ちるかもしれません。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 合言葉寿限無かよw 確かに早口でも1分くらいかかるわwてかおほばえてんのか?
2024/01/30 16:50 退会済み
管理
[気になる点] 合言葉は落語!? 〉「あいこ、とば、は………じ……………じ……げ……」
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